第二部 支配と思い
ライトたちが去って行った後、私たちは門番たちに近づけないでいた。エントはまだ遠距離攻撃を当てればどうにかなるが、私の場合そうはいかない。妖力に関しては克服したものの、遠距離攻撃が一向に当たらない。というかあさっての方向に飛んでいってしまう。でも、やるしかないんだな…。私は勢いよくテールハンドを使って跳んだ。そして、手を体の前で平行に並べ、その間に風を圧縮させ始めた。すると、白い半透明な球体が出来上がった。ここまではいい。問題はこの先だ。そういえば、スインが『手で投げてもいいんちゃう?』って言っていたような気がする…。これ、触っても爆発しないのか?下を見ると、技が届かないギリギリの所まで来ている。私は慌ててテールハンドを2本必死に回した。すると、私が上に上がった。ぐんぐん上がっていき、周りの木より高くなった。でも、テールハンドが疲れるので早めに済ませないと。私は思い切って風のボールを掴んだ。すると、本当に掴めてしまった。私は思いっきり門番の1人に向かってこれを投げた。風のボールはだんだん解けていき、そいつに辿り着いた頃には暴風となった。相手は飛ばされて門を突き破り、中にあった木を2本程へし折って屋敷の壁に激突した。しかも、ピクリとも動かなくなってしまった。…また、やってしまった。今回は大丈夫そうだが、また相手を死に追いやってしまうのは戦士としてよくない気がする。私はふと自分の口角が上がっていることに気づいた。…私、笑ってる?今までは半妖である自分は二流なんじゃないかと思っていた。でも、戦いをしていくうちにだんだんと自分が怖いと思い始めるようになった。エントはまだもう1人とお互いの遠距離攻撃を打ち消し合っていた。加勢しなくては、と思ってエントの方へ歩いて行ったが、その足取りは重かった。でも、私はテールハンドで思いっきり相手をぶん殴った。相手は立てなくなってしまった。エントが近づいて来た。
「ありがとな、助けてくれて。あと、さっきなんで笑ってたんだ?思い出し笑い?」
その言葉で私ははっとした。このままでは相手を攻撃する度に笑う頭おかしい奴になってしまう。
「いいだろ別に」
こんな誤魔化し方をしてしまうなんて、少し心苦しい。エントは本当にそうと思ったようで、すぐに屋敷の方へと歩いて行った。その瞬間、何者かが屋敷の壁をぶち破って勢いよく外の出て来た。私たちは慌てて横によけ、様子を伺った。すると、その男の近くから出て来たソウマも横に避けたのが見えた。やっぱり相手らしい。相手はそのまま止まれなくなったのか森に突っ込んで行き、木を倒しまくってようやく止まった。相手は険しい顔でこちらに向かって来た。でも、ソウマをよく見ると傷だらけの上に妖気が弱まっている。これ以上戦わせたくはない。ソウマは私を見ると、なぜか驚いたような顔をしていた。頬が何かが伝っていく感覚。足元に違和感を感じて見てみると、相手が倒れていた。そして、私の頬を伝っていったのは…血だった。一瞬のうちに、私は相手を倒していた?混乱の中、私は急に疲労感に襲われその場にうずくまった。2人が慌ててこっちに向かってくる。しかし、私はソウマの肩を掴んで投げ飛ばしてしまった。体が、言うことを聞かない…!
『ようやくうまくいった。3人犠牲になっちゃったけど、まあこれだけの力が手に入るんなら気にしなくてもいいか。フウワちゃん、聞こえてるよね?私はレクフォン。レンって呼んでくれていいわ。あなたは今日から私の力になってもらうわ。あなたの力は強い。だけど、普段は理性で押さえ込んでいる。やり過ぎちゃうって自覚があったんでしょ?でも、ひとたび理性を外せば、そこには首輪を失った猛獣がいるのみ。ここにいる人たちでは止められないわ。さあ、どうするのかしら?フォニックスさん』
私、操られているのか?気づけばエントも蹴り飛ばしてしまった。それでも私の足は止まらず、向かってくる奴らをことごとく吹っ飛ばしていった。私はただ非力な自分を恨むことしかできなかった。しかし、廊下を突き当たりまで歩き終わった時、誰かが私を後ろに引いた。体がそちらを向くと、そこにはソウマがいた。なんで、来ちゃったんだよ。やるせなさを感じながら、私はソウマに向かってテールハンドを振りかざした。しかし、ソウマは動かず語りかけて来た。
「フウワさん、もし、自分の体が勝手に動いて望んでもいないような行動をし始めた時は、あなたの守りたいものを思い浮かべてみて。そうすれば、きっと、乗り越えられる…」
ソウマは私の攻撃を受けて起き上がれなくなってしまった。徐々に、怒りが私を支配していく。自分に対してじゃない。
「ふざ、けんな。レーン!」
私の体から何かが抜けていったような気がした。そして、ソウマと同じようにその場に倒れて動けなくなった。瞼も重くなって来ている。私はそのまま目を閉じた。




