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フォニックス 光と闇  作者: ことこん
第十章 研究所とセンク
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第五部 復活の飛翔

 いつも通りに任務を終え、和気あいあいとしているあいつらとは対照的に、俺は憂鬱な気持ちで空を見上げていた。ツーハは強くなった。今日も合体なしで勝ってしまった。さらに、あいつには光のしめ縄という奥の手がある。ふと、思ってしまう。『自分がフォニックスに必要か』と。もちろん、あいつらにそんなことを尋ねれば絶対に否定してくれるだろう。だが、俺自身が納得できない。空も飛べなくなり、ツーハと合体して初めて相手と対等に渡り合うことができる。目立った弱点があるわけではないが、大きな長所があるわけでもない器用貧乏。強くなっているのかも、強い奴らと戦っていると分からなくなる。自己嫌悪に押しつぶされそうだ。ふと後ろに誰かの気配を感じて振り返ると、そこにはスインがいて、俺の頭を撫でていた。

「ちょっ、何すんだよ!」

俺はスインの手からするりと逃れた。スインは終始穏やかな顔で俺を見ていた。

「シン君、今、負のループに入っとったやろ。シン君は優しいから、他人のこと気にして自己嫌悪しとったと勝手に思っとったけど、合っとる?」

「べ、別に俺は優しくなんかねえよ!」

スインは俺の両頬を両手で包んだ。寒い季節だ。スインの指先は氷のように冷たく、俺は思わず自分の手を重ねて温めようとした。スインは『ほらね』とでも言いたげな顔をしていて、俺はハメられたと思った。俺は気恥ずかしくなって来て、その場を離れようとしたが、スインが前に出てそれを制止した。俺は渋々立ち止まり、スインを思いっきり睨んだ。やはりスインはまったく動じない。伊達に大人じゃないようだ。スインはそっと俺の翼に触れる。そしてそれを引っ張って飛ぶ時くらいに広げ、羽ばたくように動かした。俺はスインを睨むことしかできなかったのに、それもやめてしまった。なぜなら、目の前のスインが目に涙を浮かべていたからだ。俺はなんで関係ないはずのスインが泣いているのか分からなかった。

「昔、まだ仲間として一緒に戦っとったムルル君に言ったんや。『問題と向き合うのも大切やけど、落ち着くことも大事やで』って。…皮肉なもんやな。そのムルル君のしたことによってシン君が悩むことになって、今ちょうど同じことを言おうとしとった。ムルル君は、真っ直ぐで、一生懸命で、しっかりしとるように見えて実は甘えん坊で…。なんであの子なんやろうって、ずっとずっと思っとった。ムルル君はシン君から空を奪ったかもしれやん。でもな、シン君は完全に飛べなくなったわけやない。どうしても重ねてまうんや。シン君、勝手なことを言うようやけど、自己嫌悪にだけはならんといて。…ムルル君みたいに、悲しみに囚われ続けやんといて欲しいんや」

優しい顔だったが、強い思いを感じた。俺はなんだか答えを知っている問題を考え続けていたような気がする。スインはそのまま去っていったが、俺はポツリと

「ありがとな」

と言ってみた。だが、これを聞いている人はいない。俺は廊下に出て、階段を駆け上った。そして、自分の部屋に入ってベランダに出た。ツーハと一緒にいるのは心強い。だから、一見やりやすいように見えた。しかし、俺はツーハと一緒にいることで何もできないような気がしていたのだ。ツーハだけが、先に進んでいくような気がして。俺はベランダの柵の上に乗り、飛び降りた。そして、翼を羽ばたかさせる。高度が上がっていくにつれて、落ちて怪我をしたあの時の記憶が鮮明になっていく。しかし、俺の頭の中にはあいつ、ムルルに向けた言葉があった。俺を落としたこと、スインに免じて今回は許してやる。だから、自己嫌悪なんてやっても損するだけだぞ…。届くわけないけどな。久しぶりの空気だった。冬で寒いが日光が照り付けている。曇りだった筈だと思って下を見ると、雲があった。つまり、雲より高く飛んできてしまった。この空間にただ1人。それがなぜか心地よい感覚となっていた。俺は名残惜しさを感じながらも高度を下げていく。そして、中庭でフウワと話していたツーハの前に降り立ってやった。期待通りツーハはひどく驚いたような顔をした。

「シン!飛べるようになったんだ!これでまた、シンといっしょに飛べるんだね!」

「ああ。誰かさんに教えてもらうより、1人でやった方がやりやすかったようだな。『空はツーハのヒールド』なのに、空に関するスペシャリストではないんだな?」

「そんな言い方ないでしょ!あと、もうわたし分かるし、フィールドだし!フウワさん!シンが復活したら生意気になった!」

フウワは呆れていた。

「お前が単純すぎるからからかわれるんだろ」

「フウワさんまで!2人ともひどい!シンなんかといっしょに飛ばないんだから!こうかいしてもおそいから!」

ツーハは怒って家に入って行ってしまった。ちなみに、中庭では男子3人組がバトルロワイヤルをしている。俺は興味がなかったので、さっさと引き上げた。まあ、考えるだけ無駄かもな。

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