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フォニックス 光と闇  作者: ことこん
第九章 光狐の分裂
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第五部 不安症なフウワ

 翌日。私は全く落ち着いていなかった。なぜなら、朝食を食べ終わった途端ソウマが消えて、

『少しソウマを借りるぞ』

というキキ様の声が聞こえたからだ。別に嫉妬とかじゃなくて、単に心配なのだ。キキ様、悪い人ではないんだけど、怒ったら怖そうだし。ソウマが怒らせるようなことをしたとも思えないが。本当に、大丈夫だろうか…。


 僕は急にキキ様に瞬間移動させられたかと思うと、目の前に鳥がいたので慌てて後ろに跳んだ。すると、後ろに誰かがいてそのまま掴まれた。よく見ると、ここはキキ様の屋敷。つまり、僕を掴んだのは…。

「ソウマ。今日は其方に用が有るのだ。此の儘(このまま)動くな」

キキ様だった。かと思うと、キキ様は僕の目の前に回り込み、じっと僕を見ていた。何をしているのか聞きたかったけれど、なんとなく言い出せず、しばらくそのままにしていた。キキ様はいきなり口を開いた。

「成程、呪いか」

「えっ?」

「単刀直入に云うと、其方は時の館の主人の『畏怖の呪い』が纏わり付いて居る。通りで、鳥を見る度に(おのの)く訳だ」

キキ様は独り言のようにそう言うと、なぜか僕を抱きしめた。まるで、母さんにそうされたみたいな感覚になり、僕は少し心が軽くなった気がした。キキ様は僕を離すと頭を撫でた。…本当に、母さんみたいだ。勝手に出て行ったけど、あの後どうしているのだろう。少し恋しくなったが、キキ様がそれをやめるとそんな気持ちも薄れた。周りの動物、というか神獣たちが困惑しているけれど、キキ様は僕に微笑みかけるとまた話し始めた。

「此れで呪いは解除された(はず)だ。ソウマ。いや、クン。ソウマに支配され無い方法を教えて置く。誰かの愛情はソウマを落ち着かせる。大切にしろ」

キキ様はそう言うと僕を再び瞬間移動させた。景色が変わったと思ったら、そこは家だった。僕がほっとしたのも束の間、後ろから誰かが突っ込んで来る。そして、その人はそのまま僕に激突し、僕は前に転んだ。僕が驚いて後ろを見ると、フウワさんだった。

「ソウマ!キキ様に何もされなかったか?本当に心配だったんだからな!って、ど、どうしたんだ?ソウマ!」

気が付くと僕は泣いていた。泣くようなこと、あったっけ?でも、フウワさんも僕を抱きしめた。こっちはちょっときつい。でも、こっちの方が心地よかった。フウワさんは周りに誰もいないことを確認した。ここは図書室の個室で鍵がかかっている上に、防音機能もある。わざわざ確認する必要なんてない気もするけど。

「ソウマ。私はソウマでもクンでも、お前が好きだ。それに変わりはない。あと、1人で抱えこみすぎるなよ。お前が苦しくなるだけだ。だったら、私を頼れ。お前の苦しさを少し共有できるかもしれない。どこまで意味のあることかはわからないけど、ちょっと楽になるような気もするしさ」

フウワさんはさらに手の力を強くした。僕の頭に冷たい者が落ちる。フウワさんも泣いていた。

「だから、どこにも行かないでくれよ?そんな終わらせ方したら、死に物狂いで探し当ててやる。こんな面倒な女と出会って後悔したってもう遅いぞ?」

「フウワさん。僕はもっと優しいフウワさんを知ってるから、別に後悔なんてしてないよ。フウワさんは何でもお見通しだね。ごめん。そうだよね。突然いなくなるなんて、感じ悪いよね。ありがとう。もう、僕いなくならないから。フウワさんも、一緒にいてくれる?」

始めはいつか終わりが来るからと色々我慢して、だんだんそれができなくなっていった時に自分を責めたけど、今はそんな事を微塵も思っていない。ただ、みんなと一緒にいたいという願いだけ。時の館の主人が僕を見てどう思ってるかなんて、よく考えてみればどうでもいいことじゃないか。ちょっとおかしくなってるかもしれないけれど、やっぱり時の館の主人に対する恐怖がずいぶん薄れている。キキ様のおかげだな。フウワさんは僕を離した。僕は微笑んだフウワさんを見て少し安心した。僕は雰囲気に乗せられてフウワさんの手を握った。フウワさんは一瞬で真っ赤になる。少し間をおいて頭を冷やし、しまったと思って手を話そうとしたけれど、フウワさんが離さなかった。僕はとりあえずそのまま空いている手でドアを開けて外に出ようとすると、その状態のままフウワさんが出て来たのでびっくりした。フウワさんも気恥ずかしそうにしていたけれど、嫌がってはいなかった。よかった。嫌われたかと思った。でも、このままだと手を繋いで歩くことになるけど、フウワさん、いいのかな?と思っているうちにスインさんが来た。

「仲ええなあ。フウちゃん、一歩進展やな」

スインさんは別に普通に言ったつもりだったのだろうけど、フウワさんは過剰に反応し、即座に僕の手を離してしまった。スインさんは持っていた本を本棚に入れるて去っていった。2人は顔を見合わせた。…後になって考えてみると、めちゃくちゃ恥ずかしい。

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