第三部 祠の決戦
こいつらが防いでくれてはいるものの、遠距離攻撃を避けなければならず、瞬間移動にかかる一瞬の時間を作れないでいた。しかし、予想外なことが起こった。ソウマが俺の前に立ち、ぐるりと全方位を防御技で囲んだ。
「早く!」
俺は瞬間移動した。それと同時に技が割れた。危なかった。ソウマは大丈夫だと思いたい。俺は合体を解いてツーハを祠に立たせたかったが、すぐに俺が瞬間移動したことに気付いた奴らは俺に集中砲火を浴びせてくる。しかし、先程の包囲にの方に行き場が無くなる訳ではない。俺は咄嗟に近くの茂みに突っ込みそのまま森の中を走り回った。開けた所と比べて多少は居場所を隠せるだろう。俺は空高く飛んだ。飛べる奴が追いかけて来たが、俺はそのまま高度を上げていく。ツーハの特殊能力、飛行は風や重力といった影響をほとんど受けず、酸素が薄くなるとかで倒れない限り飛び続けられる。よし、ここまで来れば安全だろう。俺は変身を解いた。上着を脱いだ後のスカッとした感覚に襲われるが、今はそんなことを考えている余裕はない。俺はツーハを瞬間移動させた。しかし、そう上手くは行かなかった。祠の前に一番強そうな奴が待ち構えていた。そいつは俺たちを見ると勝ち誇ったような顔をした。
「作戦が安直すぎる。その程度の知力ならば、神など程遠い存在に決まっている。今、社会の厳しさを教えてやろう」
そして、そいつが襲い掛かって来たのはツーハではなく、俺だった。俺は対応しきれずに瞬く間に組み伏せられた。その拍子にまた被っていた帽子が落ちた。こいつらがみれば、ややこしいことになりそうだ。そいつは俺の目を見ると鼻で笑った。
「お前が紫目の闇狐の生き残りか。確か、今飛べないらしいな。じゃあ、飛べない翼はいらないよな?」
そいつは俺の翼に手をかける。こいつ、本気でそうしようと思ってやがる。俺の翼が後ろに引かれてすぐの時、フウワが相手をぶん殴った。そして、馬乗りになって何度も殴っているのだが、俺たちに目配りをした。今のうちに行けということだろう。俺はツーハの手を引いて進んだ。しかし、木の上から射撃が来る。それでも怯まずに行くと、ドサリと木の上から誰かが落ちた。そして、射撃が止んだ。誰かが倒してくれたみたいだ。ツーハは一部始終不安そうな顔をしていた。どうせここまでしてもらって結局違ったらどうしようとかしょうもないこと考えてるんだろうな。だが、俺には自信がある。朧気な記憶の中で、ほぼ唯一と言っていいが思い出せる会話がある。
『なあ、父さん、どうやったら神になれるんだ?』
『シン、よく聞いておくんだよ。神の器は生まれつきあるものじゃない。たくさんの経験を積んで、少しずつ作っていくんだ。もちろん、みんなが作れるわけじゃない。大抵の人は、途中で消えてしまう。邪な気持ちができてしまうんだ。でも、そうならない人が極稀にいる。それが神になる人。生まれた場所や属性、強さ、賢さなんてどうでもいいんだ』
お前に邪な心が宿っているかどうかは合体したことがある俺が一番分かる。こいつ、感覚だけで生きてるなって。もしかしたら、馬鹿すぎてマイナスな事を考える頭がないのかもな。普段はすぐに出てくるそれらの言葉も、今日は言えなかった。なぜなら、今度はツーハが俺の前に立って手を引き、真剣な顔で祠を見ていたからだ。俺は、そんな姿を見てなぜか一瞬だけ頼もしいと思ってしまった。俺たちはフォニックスたちの協力で着実に祠に近づいて来ていた。さらに攻撃が激しくなっても、焦りは全くなかった。なんだろう、この安心感は。やがて、祠の前に着くと、ツーハは黙って祠の前に立ち、大きく息を吸って、何かを言い始めた。
「我が一族を守護されし太陽の様に輝くシャイン・バーストイーグルよ。今その姿を現し、我を神と認めたまえ。もし我は相応しくないとのことならば、潔く諦めるつもりだ」
急に口調が変わったツーハを驚いてみると、技を使っているわけでもないのになぜか神々しく光っていて、直視できなかった。周りの奴らもそれを見た途端困惑し始めて、攻撃をやめてしまっていた。そんな時、祠から大きな光の柱が立った。見上げれば首を痛めてしまいそうな高さで。どこからか、やけに大きい鳥が羽ばたく音が聞こえたかと思うと、光の柱を目印にしてそいつは現れた。光屋敷くらいの大きさがあり、羽は太陽のように輝き、その爪はその光を反射して美しい光沢を持ち、立派なクチバシが付いた顔と尾だけが白かった。その他は茶色だったので、なんの生き物かわかった。鷲だ。普通の鷲は鋭い眼光を持っているイメージだが、こいつは案外優しい眼差しを向けていた。しかし、襲い掛かって来た奴らの方を向くと、帰れとでも言うように睨んだ。そいつらは全員逃げてしまった。残っているのはフォニックスのメンバーだけ。なんだかまだ安心できないような気がして、俺は瞬きも忘れてツーハと鷲を見ていた。




