第五部 機転の撃退とそれぞれの動き
岩の塊は、何のためらいもなく俺たちに向かって飛んできた。どうやら本気らしいな。俺は通路は狭いしソウマを持ってるしで動き辛かったけど全て避けた。エムルは次に地面から鋭い岩を突き出して来た。俺はそれを壁を足場にしてまた避けた。エムルは面白くなさそうな顔をしていた。ギルド様が俺を引っ張った。
「図書室の個室の中に入り、内側から鍵をかけてください。早く」
小さな声だったので、エムルには何か話しているくらいしかバレなかったようだ。俺は図書室側にいるエムルに向かって突進した。エムルはそれを攻撃と受け取ったのか、自分の前に岩の壁を作った。だが、むしろありがたかった。ギルド様が俺に触れると、俺は図書室の個室に瞬間移動した。俺はすぐさま鍵をかけ、ソウマを寝かせようと思ったが、机と椅子しかなかったので仕方なく地べたに寝かせた。エムルが近づいて来て、ドアを壊そうとした。しかし、ここは謎の結界が張られていて、決してものが壊れることはない。エムルは鍵穴がこちら側にしかないので合鍵も作れず、入ってくることはなかった。
『エムル。今回は時間切れだ。帰って来い』
初めて聞いた声だ。もしかしたら、こいつが研究者なのかもしれない。
「…分かったよ。素情がバレないように消しておきたかったけど、こうなっちゃったら仕方ないか。じゃあね、お2人さん。今行くよ、父さん」
…は?今、こいつ、父さんって言ったよな?だが、エムルが相手だったということは分かった。今回も、邪魔されてしまったようだ。エムルは立ち去り、ソウマが起き上がった。
「ソウマ、大丈夫か?」
「…さん」
「は?」
「フウワさん、どこ?」
ギルド様はすぐ側にやってきた。
「この様子だと、タイムリミットは近いかもしれませんね…」
俺は、返事ができなかった。ちょうどフウワが図書室に入ってきた。俺は鍵を開け、フウワが入って来られるようにした。
「ソウマ、大丈夫か?」
「フウワさ…」
ソウマはフウワを見た途端安心したように倒れた。フウワは慌てたようだが、見たところ目立った怪我はない。無事なようだ。それにしても、なんでフウワが関係してるんだ?
僕はフォニックスの本拠地を出ると白馬にまたがった。この白馬は妖獣で、瞬間移動ができる。こいつを呼べばよかったんだけど、あの個室では頭をぶつけてしまう。僕は研究所に着いた。そこに僕の『父さん』はいた。
「ご苦労だった、ホワイト。退がって良いぞ。そして、エムル。なぜ今日お前を呼んだのか、聡いお前には分かるはずだ。その体はもう必要ない。違う体に移れ」
「この体、割と気に入ってたんだけどなあ。まっ、父さんが言うなら仕方ないよね。で、どんな人なの?」
父さんは奥からその人を連れてきた。その人は、一見ただの孤児に見えた。
「そいつはいい特殊能力を持っている。“束縛”と言ってな、目を合わせた相手の何か一つを束縛できるんだ。時の館の主人様から頂いた。『その子、いい器だけど妖力がイマイチだからエムル君にあげちゃって!』とのことだ。おそらく今までで一番いい体だろう」
「へえ…。それは嬉しいな。早く替えさせてもらうよ」
僕は一瞬霊体になり、すぐに新しい体に入った。僕は手を握ったり開いたりしてみる。うん、この体の方が動きやすそうだ。視点はちょっと低いけど、そのうち伸びるだろう。僕の元の体はすでに他の研究者に運ばれていった。
「どうだ?うまく馴染めそうか?」
「うん。これはいいね。確かに時の館の主人様が選んで自分で力をあげただけのことはあるよ。馴染まないうちは油断できないけど、結構いいデータが取れると思うよ」
「それは良かった。今日からお前はキリュウだ。王族のようになっているが、この体がそうだから問題ないだろう」
「強そうな名前だね。早速、特訓をしてくるよ。後輩たちの稽古も兼ねてね」
「ああ。頼んだぞ、俺の最高傑作」
「御苦労だった。今回は此れで終わりとしよう」
妾はギルドとの通信を切り、溜め息を付いた。妾は腰を上げ、次の一手を考えた。
なんか、図書室が騒がしいと思ってきてみれば、ソウマ君がフウちゃんに寄りかかって寝ていたのでびっくりした。エント君に全て聞いた後、私は何故か腑に落ちた感覚に陥り、自分でも驚いていた。そして、私は研究者という言葉に妙な引っかかりを覚えたが、すぐに忘れてしまった。しかし、心のどこかでずっと覚えていた。
僕は、夢を見ていたはずだった。だけど、やけにリアルだった。誰かが虚ろな目でこちらをじっと見ていた。どこかで見覚えがあるような気がする。
「ぼく…ソウマ…たすけて…こわいよ…さみしいよ…くるしいよ…でも…めいれい…きかないと…けされちゃうんだ…きみなら…たすけてくれる…?」
途切れ途切れの言葉は、僕に重く響いた。なぜなのかは、わからないけど。でも、フウワさんが隣にいる。こんな所で支配されたりはしないしさせない。フウワさんの声が、遠くから聞こえてくる。僕は謎の少年に心の中で謝り、まぶたを開けた。




