第三部 繋がる悪意
俺たちが任務から帰って来た翌日、何故かギルド様からメールが来ていた。『警察署に来てください。なるべく早く。皆さんには、どうしても外せない予定があるとでも言っておいてください』か…。俺、なんか問題行動起こしたかな?思い浮かばない。どうしよう、ギルド様の雷が物理的に落ちそうだ。いや、雷属性じゃないと思うけどさ。とりあえず、俺は支度をすることにした。
「エン兄、どこに行くの?」
「外せない用事があるんだ。今日は俺抜きで頑張ってくれ」
「今日学校」
「あっ。そうか」
という訳で、俺はドアを開けて警察署に行こうとしたが、瞬間移動で一瞬で連れてこられてしまった。目の前にはギルド様。つまり、ここは署長室だ。しかし、ギルド様はいつもの微笑んだ表情でも、相手を前にした時の冷酷な表情ではなく、少し悲しげな表情をしていた。ギルド様はこちらを向いた。
「来ましたね。今日あなただけを、こんなに早く呼び出したのは、あの時の続き、スインさんの過去を探って貰うためです」
「でも、あの件はスインに釘を刺されて…」
「分かっています。しかし、一刻も早くスインさんについて調べないといけないのです。どう包み隠しても事実は変わりません。このまま放っておけば、ソウマさんは、いや、ソウマさん“たち”は、時の館の主人に利用される」
「はっ?」
ソウマたちって、どういうことだ?
「今まで、あなたは何度も見て来たはずです。ソウマさんが誰かに乗っ取られているところを。全て話しましょう。真実を」
ソウマの生い立ち、今山にいた理由、『時の旅人』について、そして別人格のうちの1人がスインと関係がありそうなこと。ギルド様は全て話してくれた。
「時の旅人の想いはどこの誰よりも強く、その力を使えばこの世界を滅ぼすことも可能です。この世界を救うには、2択しかないと思っています。阻止か抑制をして利用されるのを防ぐか、…『ソウマ』をずっと殺し続けるか」
「何、考えてるんですか!俺たちにそんなことさせる為に呼んだんですか?だったら帰りますよ!」
「しかし」
俺は振り返った。そこには、余裕のない表情のギルド様がいた。
「あなたなら成し得るかもしれません。分かっていることが他にも2つあります。1つ目は、フウワさんが関係しているのではないかということ。実は、フウワさんのすぐ側にいる時は、唯一他のソウマが出て来なくなるのです。そして、二つ目。これは、おそらく長い道のりとなることでしょう。それは、『ソウマの記憶』を一つずつ負の感情から解放してあげることです。そこで、あなたを呼んだ理由と繋がります。まずは1人目。スインさんと関わりがありそうなソウマです。だから、スインさんにも、アインさんにも、エントさんにも申し訳ありませんが、やって貰わねばならないのです。どうか、よろしくお願いします」
ギルド様は深々と頭を下げて来た。俺は慌てて
「頭あげてください!やります!ソウマに守られてばっかりだし、今度は俺が守ってやりたい!」
と言った。ギルド様はほっとしたようだった。俺たちは早速、フェルクを呼んだ。フェルクは自分が何か悪いことをしただろうかとビビっていたが、俺の質問を聞くと震え上がった。
「あいつらと関わっちゃダメだ!あいつらはエヴェルを脅して人を集めさせ、いろんな人を組み合わせて改造人間を作り出してる!話は通じないし、皆殺しに遭うだけだぞ!は?ソウマさんが?なるほど、そういうことか…。だが、俺は研究所の場所くらいしか知らん。それに、あまりバラすと、消されそうで怖いんだ。俺はこれで」
俺たちの説明を聞きながら話し続けていたフェルクは、そういうとすぐに立ち去っていってしまった。
「エヴェルなら何か知っていそうですね」
早速、ギルド様とエヴェルに会いに行くことになった。
瞬間移動で面会室まで飛んだ。コンクリート造りの部屋は頑丈そうなガラスと俺の腰くらいまではコンクリートでできた壁によって隔てられ、パイプ椅子が置かれていた。なんかイメージ通りだ。エヴェルは監視をつけられていても変わらない様子だった。しかし、俺たちが研究所に関する話をすると、見たことないくらいにその顔は怒りに歪んでいた。
「俺は脅されてたんだ。あいつは俺にこう言った。『お前の愛すべき弟を返して欲しいのならば、優秀な人材を集めて来い』と。ムルルはあいつのせいであんな子供の姿のままで、妖力はもう回復できない程に奪われて、挙げ句の果てにはあんな性格にまで…!俺は人材を集めてムルルを返してもらった。しかし、その状態のままだった。だから、俺はとある奴に頼んで性格をいくらかマシにしてもらった。だが、それもただの歯止めにしかならなかった様だな」
俺は、なんだが様々な真実が浮かび上がって来た気がした。…みんな、被害者だったのだ。ここまで知ってしまったら、後戻りはできないだろう。絶対に、スインの謎を解き明かして関係しているソウマの想いを解放してやる。




