第五部 キキ様とイネイ
翌日。ライトさんから創造神様と出会ったという話を聞いた私は、逸る気持ちを抑えきれずに朝から鼠の国に行き、『創造神の祠』に行って会いたいと念じてみた。しかし、全く何も起こらなかった。まあ、ここはただの祠だし、効果はないか。そう思って引き返そうとすると、
「キキ様に何か御用があるようですね!ではこの僕が案内してあげましょう!え?誰かって?僕ーはハリーって言うんだよーここーであったの何かのご縁ー楽しく一緒に歌いましょー」
「ちょっ、ちょっと待って下さい!」
目の前で急に歌い出したハリネズミのハリーさんに対して、付いていけずに慌てて止めてしまった。ハリーさんはそこに関しては気にしていないようで、歌いながら案内してくれた。小さなギターを器用に二足歩行になって弾いているのが可愛らしかった。ライトさんから聞いた通り、和風の屋敷で動物で溢れていた。ハリーさんはキキ様のいるところに連れて行ってくれた。
「キキー様ーおきゃーくさーんですー」
歌がよっぽど好きなのだろうか。ずっと歌っている。私が通してもらってからはやって来た柴犬さんの踊りと一緒に自由に歌っていた。私がドアを開けると、急に強大な妖気を感じてびっくりした。キキ様はライトさんが言っていた通りの格好で、思ったより親しみやすそうだった。
「其方が彼奴の恋人か。成程彼奴が好みそうな奴だ。其方なら知って居るで有ろうが、妾は創造神のキキだ。今日は何か用が有ったのか?」
「あの、キキ様。実は、ものすごくどうでもいい話なんですけど、キキ様、ライトさんから聞いた格好だともったいないなあなんて、変なことを考えて、もしかしたら、新しい服を紹介できないかなって…いや、上から目線になってますけど、同じ女子としては、キキ様にはもっと可愛い服を着てもらいたいなと!」
勢い任せでとんでもない行動を起こしてしまうこの癖、いい加減治したいのだけど、今は止まれなかった。本当に何やってんだ自分。しかし、キキ様は椅子から立ち上がり、出かける支度をし始めた。
「何と嬉しき事か。昨日久々に人と会って、彼奴らの着て居た服が気になってな。今の服は動き易そうで有るな。街に出るぞ!彼奴の恋人!」
「あの!その呼び方、やめてください!イネイで良いです!」
「済まぬ。間違えて其の様に呼んで仕舞った」
キキ様は瞬間移動で狐の国のショッピングモールに飛んでくれたが、この格好では浮きすぎている。とりあえず服を買うためにミトさんの服屋に行った。
「あ、こんにちは。今日は私が接客。お母さんは服作ってる。
「ほう。其の年で店番とは感心だな。お主の特殊能力も活かせるで有ろう。服は此れらで良いか?」
さすが色々な人を見ているだけあって、キキ様はかなりい良い感じの服装になった。ケトクちゃんも満足そうだ。値段も…まあ届く。ケトクちゃんはレジ打ちをしながら色々話してくれた。
「フォニックスの中ではエント君がよく来るよ。コツコツ貯めてるお金で燃えない服を買い集めてるらしい。あ、そうそう、虫好きの子、名前なかったらしいからシム君になったらしいんだけど、息子というより蚕とかのブリーダーとして働いてくれてるよ。特に、エント君の買う燃えない服は『妖』虫の火蚕の糸で出来てるから。はい、お釣り」
「ありがとうございます!」
「感謝するぞ、少女よ」
キキ様は買った服をそのまま着てショッピングモールを歩いた。その時、アイスクリームが目に止まった様で、じっと見ていた。
「あれは何だ?色鮮やかな玉で有るな」
「アイスクリームですね。食べてみます?」
「済まぬな。また返すとしよう」
こちらとしては見るもの全てに興味を持っているキキ様を見ているのが楽しいので全然構わないのだが。キキ様はキャラメル味を頼み、きゃらめるあいすくりぃむと何故かたどたどしい発音で連呼しながら食べ、あまりの冷たさと甘さに仰天していた。その後も、店先にあるもののほとんどに興味を持ち、しかしちゃんと厳選してくれていた。今はクレープ片手に誰かがクレーンゲームをしているのを見ていた。
「よかったらしますか?」
「恩に着る。だが、此の程度の絡繰ならば一発で成功出来よう」
すごい自信だなあと思ったのも束の間、一度も仕損じる事なく十回していた。景品が全てクッションなのはきっと屋敷にいる動物たちのためだろう。荷物持ちになる覚悟で来たが、キキ様は荷物を技で浮かせてしまい、私はただの財布となった。気づいたらペットショップの売り物を興味深そうに見ていた。
「確かに人の世と関わった事で問題も有ったが、此の様な物を見て居ると良かったのかもしれんと思えて来るな」
キキ様とは、4時になったので別れた。ついでに瞬間移動で家に飛ばしてくれた。何ともありがたい。後日、キキ様から売れば実際に払った値段の3倍にはなりそうなくらいにたくさんの金塊が送られて来て、私やみんなはキキ様の凄さを改めて知ったのだった。




