第四部 功を成した潜入
俺は兄者に叩き起こされた。その時、ドーンと何かが爆発した音が聞こえ、慌てて内部へ入って行った。他に相手はいなかったが、なんにしろ廃墟なのでなんか出そうで怖い。その時、急に人が現れてこちらに手招きして来た。
「出たぁぁぁぁ!」
俺は大声で叫んでしまった。しかし、それはスインだった。
「お前、何スイン見てビビってんの?」
「いい加減治せよ、怖がり」
『此の程度で絶叫して居るならば、先が思いやられるぞ、少年』
スインに促されるまま、俺たちはもっと奥へ進んで行った。やっぱ怖いよ、こういうの。なんでみんなは飄々としていられるのか、逆に理解できない。アインの妖気を感じ始めた。目的地は近いのだろう。俺、近くの妖気しか感じられないから。スインが角を曲がり、俺もそれに倣った瞬間、アインがひょっこりと出て来てまたびっくりさせられた。蛇の科学者はアインの氷で動けなくされており、あとは相手が隠された場所を突き止めて連れ出すだけだ。そう思って奥のドアに手をかけると、
「エント、そこトイレ」
と言われたので手を引っ込めた。ツーハが吹き出したのが聞こえた。後で覚えとけよ、あいつ。スインはまた歩き出した。ソウマが蛇の科学者の監視役として残ってくれた。こんな場所で1人きりって俺だったら無理だろうな。スインがドアを開けると、そこには空いているものがほとんどだがズラリと牢屋が並んでいた。
「ここ、前は刑務所やったらしいで」
「なるほどな。じゃあ、あの時みたいに一人一人出してくか!」
「すでに操られてる奴もいるかもしれないから、慎重にな」
みんなはバラバラに散っていき、俺1人になった。ちょっと怖いけど、1人で行動するしかないようだ。俺は1番近くの牢屋の中にいる奴の様子を見た。…まさに助けようとしている相手だった。相手は床を見ていたが、俺を見るなり思いっきり睨んできた。俺はとりあえず鍵錠を破壊し、廊下のドアを開けた。しかし、相手に出てくる様子はない。そりゃそうか。俺はこっちから牢屋の中に入り、相手に話しかけた。
「さっきまで戦ってたやつを急に信頼できないのはわかる。だけど、ここにいてもなんの意味もないだろ?早く出て、楽しい事しようぜ。えっと…テレビとか、ゲームとか」
「…お前らに助けられたとなれば、あそこでの俺の立場がない。それに、警察に捕まって結局牢屋行きだろう。それに、あの人には逆らえない。あの人は強すぎる。幾度となく挑んだが、指先一つ動かせずに負けた。お前らに敵う相手じゃない。命が惜しければ俺に関わらない方がいい。この忠告を礼がわりにしておくぞ」
「バーカ。戦士って仕事してる時点で戦いに命かけられんだよ。もしどっかの馬鹿だったら、あっという間にお前を仲間にしちまうよ。残念ながら、俺も馬鹿でな。見捨てるなんてできねえんだよ。ほら、さっさと出ようぜ」
相手はゆっくりだが付いてきてくれた。俺がモタモタしている間に、みんなは全員解放していた。俺がこいつを連れてくると、みんなはかなり驚いた様子だった。いや、『あのエントが?』とでも言いたげな表情、地味に傷つく。相手は居心地が悪そうにしていたが、シンはこいつも含めて瞬間移動した。
家に戻ると、私達は捕まってた奴らを家へ帰す作業に明け暮れていた。それが終わったのは、結局は夕飯前だった。近くの人たちでよかった。しかし、元相手はまだ帰っていなかった。帰る場所がないらしい。そこでライトはここにいてもいいと勝手に許可していた。まあ、その優しさは見習いたいが。そんな訳で、自己紹介で名前が判明いたニーケルは、一時的にここの居候…ではなく、戦力と思っておいてほしい。一応。ニーケルはガタイはいいものの案外心根は優しく、それに丁寧なバトルを好む事がわかった。オセロでエントを負かしていたし。だが、ニーケルには壊滅的な弱点があった。それは…
「すまん、洗濯バサミを壊してしまった」
馬鹿力で簡単に物を壊してしまうのだ。ちなみに、これで10個目だ。ついさっきソウマが買いに行ったばかりなのに。イネイが泥まみれで帰って来て、ライトが心配そうにしているのが見える。仲良いよな、あの2人。別に羨ましいとかじゃなくて、純粋にそう思えるのは、多分私が今満たされているからなのだろう。それにしても、ソウマが遅い。いつもなら、30分ほどで帰ってくるのに、なんだかんだで1時間経っている。電話をかけてみたが、出なかった。いつもは出るのに。杞憂かもしれないが、不安が抑えきれず、私は立ち上がってソウマが行ったはずの店へ走って行った。すぐに着いたが、ソウマの姿はなかった。やっぱり、杞憂だったのか。私はほっとして、すれ違ったのだろうと来た道を引き返した。私はふと、後ろに気配を感じ、振り返るとソウマだった。
「ごめん、携帯は置き忘れたし、子供のボール探しに付き合って遅くなっちゃって…心配かけたね」
「別に、気にしてない」
こんな日常が、ずっと続けばいいのに。




