第三部 望んでもいなかった手助け
俺は急に動けなくなった。…特殊能力か。相手は手を振り上げる。これは避けようもないし、みんなが全力疾走しても間に合わないだろう。俺は来るべき時を待つように目を閉じた。しかし、いくら立ってもその時は一向に訪れない。不思議に思って目を少し開けると、蛇の胴体が視界に入って来た。普通の蛇にしてはデカいなと視線を上に上げると、なんとそこには2度も俺たちの目の前に現れた厄介者、蛇の科学者がいた。しかし、今回は相手を尻尾で締め上げてくれている。おかげで脱出できたが、一体どうして俺たちの手助けをするのだろう。蛇の科学者は相手に巻きついたまま離さなかった。相手はひどく驚いた様子だったが、脱出しようと技を蛇の科学者に当てる。しかし、蛇の科学者には全く通用していないようだった。蛇の科学者は勝ち誇ったように目を細めた。
「久しぶりだな、フォニックス。だが、別に私はお前らの手助けをしに来たんじゃない。こいつは身体能力、特殊能力共に興味深い。次会う時は、きっとこいつは私の手となり足となり働いていることだろう。首を洗って待っていろ」
それだけ言うと、蛇の科学者はどこかに消えてしまった。
『成程。妾は全ての生物を見て居るが、彼奴は中々に曲者で有るな。此の儘では、相手は傀儡に成って仕舞うぞ。ふぉにっくす達よ。今から彼奴の居所へと送る。相手を取り戻して来い。そうし無ければ、必ず後悔する日が来るで有ろう。頼んだぞ』
一瞬で廃墟に飛んだ。これまた不気味な所だな。こんな所で寝泊まりするのはいろんな意味で無理かもしれない。その時、丁度出て来た蛇の科学者と鉢合わせになり、蛇の科学者は一瞬動きを止めた。俺たちはその隙に攻撃したが、誰かがやって来て俺たちの攻撃から蛇の科学者を守った。よく見ると、そいつも蛇だった。
「一つだけ聞きたい事があったんだが、あの国にいた蛇達はお前が作ったのか?」
「ああそうだ。俺は唯一蛇だった。だから、蛇を増やし、国を作ったのだ。こいつはその成功例だ。俺はこれでおさらばしよう」
止めようと思ったが、そいつが立ちはだかって来て無理だった。
『彼奴の実験は狭間の世界から引っ張って来た霊体と奪って来た人を合体させ、より強くした後で蛇にさせると言う物だ。此奴は、如何やら嘗て『妖気抹消の目』と言って目を合わせた者の妖力を眠るまで封じる目を持って居たが為に邪魔者扱いされ、最期はは自ら崖に落ち消えて行った者と、元ぶらっくすの奴を合体させて作られて居る。目を合わせぬ様、気を付けるのだ』
めっちゃ説明してくれた。ありがたいが、技を避けて居たのでその人が死ぬまでの経緯を聞けなかった。両方にすごく申し訳ない。だから、相手は意識的に目を合わせようとしてくるのか。エヴェルみたいな奴かなと思って避けててよかった。目を合わせずに戦うのはエヴェルの時に慣れた。ツーハはいなかったが、シンと合体しているので問題ないだろう。確か、アカツキ…だったか?は目を閉じて超音波で周りの状況を把握することにしたらしい。俺たちには無理な方法だな。俺は常に相手の後ろ側に回り込むようにしていたが、他の5人はどうしてんのかなとおもって見てみたら、ソウマはハエトリソウで自分を隠し、フウワもテールハンドで同じようにしていた。スインとアインがいないが、消えているのだろう。一方、エントはというと、まんまと罠にハマり、成す術なく攻撃をかわし続けていた。何やってんだ、あいつ。俺はエントを掴んで走り抜け、安全な所まで来た。
「ありがと…」
エントが礼を言う前に、俺はエントを気絶させておいた。これで起きたら元通りだろう。俺は再び元の場所に来たが、アカツキと相手が熱戦を繰り広げているのをフウワとソウマは眺めているだけ、という状態になっていた。俺が隣に来ると、フウワが大きな溜息をついた。
「っつたく、あいつ、調子に乗ってやがる。このままだと埒が明かないと思って加勢しに行こうとしたら止められて、ここで見てろって。もうちょっとくらい礼儀を身につけて欲しいな、本当に」
文句こそ言っているが、それを破って助けに行っていないということは言っているほど不満ではなさそうだ。確かに、見ている限りは一進一退の攻防はずっと続いており、このままだとスタミナ勝負になってしまう。それは合体していられる時間の関係上こちらが不利だ。早めにカタをつけてもらわないと。急にソウマが立ち上がった。そして、ゆっくりアカツキと相手が戦っている方へ歩いていった。何かと思ったら、お互い引き分けで、ソウマがツーハとシンに声を掛けていた。一方は合体状態と2人でいる時の状態の妖気の雰囲気は変わらず、もう一方は霊気なので感じにくく、勝負が終わったことに気づかなかった。そういえば、最初から最後までスインとアインの技を見ていないが、一体どうしたんだろう?やられたわけではあるまいし。




