第二部 なんだかんだで怖い姉妹
俺たちは言われた場所まで歩いていった。すると、光狐たちが数人集まって談笑していた。確かに、体格がガッチリしていて、強そうだ。でも、その中でも圧倒的に強そうなのが1人。…ちょっと待って。キキ様の妖気と比べれば圧倒的に弱いが、俺たち基準で考えれば相当強い。キキ様、ちょっと無茶振りのような気が…。
『生憎心の中も覗けるのでな。其方ら、戦う前から何を弱気になって居るのだ。大丈夫だ。妾のさぽおとを信じておけ。死ぬ前には助けるぞ』
そこでテレパシーが途切れてしまった。死ぬ前には助けるって、それはもはや救助ではないのか?まあ、ここまで来て断ることもできないのだが。奴らの話し声が聞こえる。
「やれやれ。全く、商人たちは体が鈍りすぎている。俺たちの本質は獣。強者が弱者を虐げるのは自然の摂理。なのに、法などというものをでっち上げ、弱者を守ろうとするのだ。1番腹立たしいのは、弱者のくせに王族生まれだからと強者に守られているような奴だがな。さて、この街の住民は片付いたようだし、帰るとす…」
相手が氷漬けになった。まさかと思って隣を見ると、アインがものすごい剣幕で相手を睨んでいた。スインも、アイン程極端ではないが珍しく相手を睨んでいる。しかし、やはりそう簡単には行かず、相手は氷を内側から破壊して出て来た。居場所はバレたが、遅かれ早かれバレていただろうからアインは責めないでおこう。トルキに会った時の俺もあんな感じだっただろうし。アインはとりあえずと思ったのか薙刀でその名のように周りの相手を薙ぎ倒していった。…怒ったアイン怖い。アインの大進撃を横目に、俺は1番強そうな奴の気を引こうと近くを走り回った。しかし、目の前から技が迫って来ていたので慌てて急停止した。しかし、アインはそれを斬ってしまった。見ると、周りの奴らは全員倒されていた。しかし、アインの息が上がっている。無理はしないで欲しいので、俺はアインの前に立った。しかし、俺の気遣いも虚しく、アインは俺を通り越して突進していき、相手に斬りかかった。相手はいたって冷静に技をかわすと容赦なくアインを突き飛ばした。そのはずみで薙刀はアインの手元を離れて相手の足元に転がった。相手はそれを破壊しようとしたが、ツーハの急降下でそれを避けた。
『氷娘よ。気合いを入れるのは大事だが、余りに相手を意識し過ぎると周りが見え無くなり危険だ。呉々も同じ失敗はせぬ様に』
「…はい」
アインは急に大人しくなった。ちょっと冷静になったのだろう。そういえば、スインを消えたっきり見ていないな…って、めっちゃ乱射してる!この姉妹嫌な所が似てるな!またキキ様を怒らせたら今度は何を言われるのか分からないので、俺は弾の出ている方向からスインの位置を予測し、手に何か触れた感触がしたが、現れたスインがめちゃくちゃ不機嫌そうな顔をしていた。なぜなら、俺が知らず知らずのうちに尻尾を踏んで体勢を崩して尻餅をつき、そして俺の手が目を押さえていたからだ。
「ごめんごめん、スイン、一回落ち着かないとアインの二の舞だぞ!だから、と…」
俺は蹴り飛ばされて近くの木の幹に体をぶつけた。スインは相手に縄で縛られていた。慌てて俺は助けに行ったが、その前にエントが相手と力比べを始め、フウワがスインの縄を解いていた。エントは案の定勝てなかったが、その後ろからツーハとシンが出て来て合体した。すると、シンよりの方となり、空に飛び上がった。
「俺は光に迫る闇、タソガレ!貴様に底なしの闇を味合わ…」
明らかに途中だったというのに、相手は平然と本人曰くタソガレを攻撃した。なんとかかわしたタソガレは相手を睨む。
「おい!口上や変身の時はどちらも手を出さないというのがご法度というものだろう!」
もっとも、弱者を虐げるのは自然の摂理とか言っている奴にそれが通じるとも思えず、相手は無視して攻撃していた。タソガレはだんだんイライラして来たらしく、影から何を呼び出すかと思えば、なんと家ぐらいのキメラを呼び出して来た。キメラは相手に襲いかかるが、相手はそれをものの数分で消してしまった。強さは本物の様だ。相手はキメラが消えていくのを確認すると、タソガレに大きな一撃を与える…つもりだったが、ハエトリソウが体をぶつけて来て少し逸れた。間髪入れずにハエトリソウは相手にかぶり付いたが、すぐに脱出され、ハエトリソウは木っ端微塵になってしまった。そして、タソガレに攻撃するかと思ったら、今だにさっきの痛みを感じていて動けないでいる俺に目を合わせた。俺は睨み返したが、残念ながら完全に虚勢だ。ここはこの痛みをどうにかしてから戦いたいが、そんな贅沢を言っている場合ではないので、俺は立ち上がった。立ち上がってもなお大きく見える相手は、俺に俺が自分の影にすっぱり入る様にして近づいた。俺は少し萎縮しながらも相手を見上げるが、残念ながら効果は全くなかった。




