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フォニックス 光と闇  作者: ことこん
第六章 悲しい再会
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第四部 沈んだ心に射す光

 ムルルのナイフはムルルにもハクムさんにも刺さらず、弾き飛ばされてシンの翼に当たり、ツーハの手も届かずそのままかなりの高度から落下してしまった。でも、弾き飛ばされたという感じがしなかった。なんだろう、この妙な違和感は。俺はハッとしてシンの所へ向かった。咄嗟の受け身のおかげか意識はあり、ツーハに寄りかかっていたが、皮膜は破れ、左腕はだらんと下ろされていた。俺はどうしようかと思って先程まで電話をしていたフウワを見た。フウワは慌てている俺を見て口を開いた。

「大丈夫だ。ギルド様がこっちに医者を連れて来てくれるってよ。焦る気持ちはわかる。だが、今はギルド様を待つことしかできないんだよ」

俺はそういえばとムルルを見た。ムルルはさらに悲しそうに、苦しそうになっていた。ハクムさんはムルルに何か技をかけた。すると、ムルルは眠り始めた。ハクムさんもまた、苦しそうだった。

「俺が絶対治して、お前が望んだように罪を償わせてやる。死刑だけは、俺がどうなっても止めるからな。だから、今は…眠っていてくれ。せめて夢の中だけでも幸せであることを祈る」

ムルルが起きることはもうなかった。兄弟で争って消耗して…もしエントもこうなったとしたら、俺は同じようにできるだろうか。そうこうしているうちにギルド様が来て、俺が負のループに陥っていくのを阻止してくれた。医者はいつものラテラフさんではなかった。でも、多分大丈夫だろう。


 俺は応急処置を受けた後強制的に入院させられた。とはいえ、左腕は全く動かないし、空は飛べないし、血を流しすぎたのかクラクラするしで何も言えなかった。ツーハはベットに横たわっている俺をずっと見ている。もう夕飯時だから帰れと言おうとしたが、痛みのせいでツーハの方を向くこともできない。骨折ってこんなに痛かったのか。むしろ気絶してた方が良かったと思えてくる。左半身が痛む。あれだけの傷を月一くらいのペースで負っているのにヘラヘラ笑っているソウマはもはや化け物だ。こんなことを考える余裕があるだけマシなのかもしれないが。ツーハは俺の右手を掴んでぎゅっと握った。

「わたしはずっといっしょにいるから、だいじょうぶだよ。学校なんかよりシンの方がよっぽど大事だし。…あと、ごめん。わたしがもっとちゃんとしてれば、シンはおちなかったかもしれないのに。いつもシンはすごいよ。わたし、シンみたいにあいてと話せないもん。それよりさ、せっかくいっしょにいるんだから合体した時の名前決めない?だいじょうぶ、シンは話さなくても合体した時のやつがシンの思ってることを教えてくれるから。うーん…。シーハ、ツーシン、ハーン、シーン…ダメだ、わかんない。シンはなんかある?」

…そうやってなんでもないような会話に引き込んでいけるのがお前のすごい所なんだろうけどな。俺だけだったら気持ちは沈んでいく一方だっただろう。そういう意味で、ツーハは空気が読める。普段はそう思わないけど。仕方ない、少し真剣に考えてやるとするか。そうだな、光が強い時と闇が強い時の2パターンあるわけだから、夜から朝になる時間帯を表すアカツキと、夕方から夜になる時間帯を表すタソガレなんてどうだろうか。いや、安直すぎるな。もっといい案を…。

「いーじゃん!アカツキとタソガレに決定!やったー!」

やかましい。病院なんだから静かにしてほしい。あと、ゆっくり寝させてほしい。その時、ドアが開いて看護師が出て来た。

「お静かにお願いします」

言葉遣いは丁寧だったが、そこには有無を言わせぬ迫力があり、ツーハは押し黙った。しかし、今度は小さな声で、俺に話しかけた。ようやく寝れると思ったのにと文句を言いたくなったが、その内容に驚いてしまった。

「シン。あのね、わたしずっと話したかったことがあったの。さいきん、シンの気持ちがわかるようになってきたり、シンが何をしてるのかわかるようになって来たりで、ふしぎだなって。シンはどう?そんなことある?」

やっぱそうなのか。実は俺も一緒だ。なんかツーハのことならわかるんだよな。でも、本人は気づいていない。それはお互いを理解しあってるってことなんだよ。俺も人に教えられる程知っているわけではないが、ケイルの気持ちや行動はわかる。逆に、ケイルは俺の気持ちを怖くなるほど的確に言い当て、次何をするのか言ってもいないのに理解している。もしかして、こいつそうやって人を信頼することが初めてなのか?


 兄者、帰って来てからずっと考え込んでいる。シンの見舞いに誘ったが、無視されてしまった。いつもなら無理矢理にでも連れて行くが、今回ばかりはそうする気にはならなかった。俺たちはライト抜きで見舞いに行こうと思ったが、兄者は急に立ち上がった。その顔には決意が感じられ、そのまま家を飛び出して走って行くのを見ることしかできなかった。兄者は、一体何で悩んでいたんだろう。

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