プロローグ 衝撃と怒り
九月。暑さもピークは越え、ツーハは学校の宿題をしていた。しかし、外がザワザワとうるさい。何かあったのか?俺はドアを開けて外を覗く。通りの真ん中で人だかりができている。俺は通りに出て外側にいたやつに話しかけた。
「これは何の騒ぎなんだ?通りを塞ぐなんて、よっぽどのことじゃないとありえないだろ」
「ああ。それが、誰かが『撃たれた』みたいでな。弾が残ってるから、銃でやったっぽくて、今犯人を探してる。撃たれた人の安否はこの騒動でわからない」
「…俺は飛べるから空から見る。ありがとな」
俺は空を飛び、撃たれた人を見た。見るだけにしておこうと思っていたのに、そうはいかなくなった。なぜなら、撃たれたのがイネイだったからだ。俺は慌てて家に入った。
「おい!イネイが、撃たれたらしいぞ!」
ライトはすぐに立ち上がり、ドアを突き破って外に出、人混みも突っ切ってイネイの元へ向かった。そして、あっという間にイネイを抱き抱えて病院へ走っていった。俺も他のメンバーも集まっていた奴らも、全員が固まってしまった。俺はとりあえず他のメンバーたちの所へ行った。みんな焦ったように立ち上がり、俺の方へ近づいてきた。俺は全員瞬間移動させた。とりあえず、病院の前まで来た。ちょうど会えるかと思ったが、もうすでに通り過ぎていったようだ。ライトの妖気をもっと奥に感じる。俺たちは話しかけようとしていた看護師さえも無視して、病院だが今は走ってライトの方へ向かった。しかし、後ろから知っている妖気を感じて立ち止まった。イネイの弟。確か、ウーベイだったか。ここまで走って来たのなら、相当なスピードだな。
「皆さん…。お久しぶりですが、急ぎましょう。姉さんが心配です」
俺たちは再び走り始めた。ライトの妖気が近い。俺たちが角を曲がると、ちょうど出会った。しかし、話しかける気にはなれなかった。ライトからは強い妖気を感じる。しかも、その顔は怒りで歪んでいた。ライトは俺たちを見てもいつものように笑いかけたりはせず、その表情のままこちらを見た。
「誰が、誰が、こんなことを…。なんでイネイなんだよ。俺は、犯人を許せない」
ライトはそのまま歩みを止めなかった。まずい。このまま行かせてはならない。なぜかそう思った。しかし、声ひとつかけられなかった。ライトは一歩ずつ遠ざかっていく。しかし、ライトの前にハエトリソウが立ちはだかった。ライトはソウマを睨む。
「なんで邪魔するんだよ…。お前はイネイがやられてもなんとも思わないのか?」
「違うよ。一旦冷静になろうよ」
「もしフウワがやられたらお前は同じことを言えるのかよ!他人行儀に勝手なことを言うんじゃない!俺は、イネイを撃った奴を…」
「そういう所だよ!ライト君が1番わかってるはずだ!僕だって、フウワさんがやられたらそうなると思う。でも、ライト君なら絶対それを止めてくれるでしょ?それと一緒だよ。僕はライト君を知ってるから止めようとしてるんだ。ライト君が本当にそうしたいなら止めてないよ!でも、君は人を殺せるような人じゃない!目が覚めたら絶対後悔するよ!僕はライト君の気持ちはわかる。でも、ライト君の優しさを失いたくないんだよ。君にはエゴに聞こえるかもしれないけれど、僕はライト君がライト君であるために全力で止めるよ」
ライトの強い怒りの中に僅かな戸惑いが生じる。そして、ソウマの隣に医者が立った。
「気絶はしているけれど命に別状はないよ。急所は外れていた。だからライト君、一旦落ち着いてくれないか?」
ライトの妖気が元に戻った。するとライトはそこに座り込んだ。
「…本当に良かった。ありがとう、2人とも。迷惑かけたな」
「一回帰って、作戦会議、しよか」
「…ああ」
俺は瞬間移動でウーベイと医者以外を家に戻した。すると、スインが口を開いた。
「これは私の推測やけど、イネイちゃんは意図的に狙われたんやと思う。ライト君をおびき寄せて、倒そうとしたのかもしれへん。でも、イネイちゃんは大事には至らんかった。ってことは、そんなに銃に長けた人ではないはずや。もしライト君を怒らせたいんやったら、確実に殺しにいくやろうから。まあ、ソウマ君が止めてくれやんかったら相手の思う壺やった。ソウマ君は図らずもライト君を救った形になるわけや。犯人は私らをよく知ってる。でも、これはギルド様に相談したほうがええやろ」
「はい、私はここにいますよ」
スインが話し終えると、間髪入れずギルドが瞬間移動でやって来た。
「事情は知っています。私は警察ですからね。おそらく、犯人はブラックスと関わりがある。なぜなら、ブラックスが外交官を操った以外に銃がこちらにやって来た形跡は残っていないからです。残党かもしれませんね」
あの組織の影響がこんな形で残るとは。全く、人騒がせな組織だ。ライトはギルドを真っ直ぐに見据える。
「犯人の場所はわかりますか?」
「弾が残っているので、それで探してみようと思います」
俺たちは立ち上がった。




