第二部 交換の槍使いサク
フラッシュの目潰しはあったものの、男の方はそれほど身体能力が高いわけではなく、すぐに捕らえることができた。男はまだ余裕の笑みを浮かべていたので、まだ何か裏があるのかもしれない。男はまた光の槍を作ったかと思うと、コトンと地面に落とし、こちらに倒してきた。俺が思わず手を引っ込めると、男はするりと抜け出した。厄介な槍の使い方だ。一方、ウンモはすっかり落ち着いて、再びハンマーを持ち直し、今度はより勢いよく振り回し始めた。まだ視界が開けていないのか動きが鈍かったエントをかばい、ソウマが見事にくらっていた。だが、すぐに起き上がってくるのだから大したものだ。それよりも、今は目の前の男だ。男は俺に不敵な笑みを見せ、槍を作って構えた。どうやら、こちらから攻撃しろとでも言いたいようだ。俺は猪突猛進の馬鹿ではないので、相手が攻撃してくるのを逆に待った。しばらくの沈黙があり、耐えきれなくなったのか向こうから攻撃してきた。ふん。こんな様では確かにフォニックスの相手が関の山だろう。だが、攻撃の技術はなかなかのものだ。突いてくる位置を不規則に変えてくるので、気を抜くとすぐに攻撃を受けてしまいそうだ。ウンモと戦っているだろう方向から爆発音がした。だが、今はこちらに集中しなければならない。あいつらには悪いが、放置させてもらおう。だが、この男やはり体力がない。すでに息を切らしている。本来アインのようなサポート役なのだろう。とはいえ、何が起こるかわからないのが戦場だ。油断はせずに相手が本当に戦闘不能になるまで攻撃を受け続けた方がいいだろう。最初にこちらの攻撃を誘ったところから見ておそらくこいつはカウンターで敵を倒すスタイルなのだろう。考えなしに敵の攻撃を誘うなどよっぽど力量の差がある時か何か作戦がある時以外普通に考えたらしない。だから、あえて攻撃せずに防御に徹し、相手の体力を消耗させているのだが、先程から一向に体力が減っている気がしない。むしろ、攻撃のキレが戻ってきているくらいだ。特殊能力か、技か。どちらにしろ、光をずっと固形化させているのには妖力がいる。いつか限界は来るはずだ。だが、男はまだ笑みを崩していない。何か作戦があるのか?不意に、俺は違和感を感じた。
「それは、気づいた、顔だな。そう。本来なら、味方のサポートに、使う技だが、槍に集中してくれたおかげで、うまくいった。俺は交換できるんだよ。ありとあらゆるステータスを」
そうか。こいつ、途中から俺の体力と交換してやがったのか。おかげで、俺の体は重く、おまけに残り妖力も少ない。
「いつもは攻撃を受けてかわす時とか、奇襲を仕掛ける時とかにこっそり発動させるんだけど、今回はそうはいかなかったからね。でも、これでようやく勝てそうだ。俺は交換の槍使い、サクだ。どう?諦めてこちら側に入ってくれるんなら、俺も助けてあげるけど」
出てきた時の印象とはまるで違う。くっ。油断していた。なるほど。向こうが消耗しているほど、こちらが不利になるというわけか。こんなことなら、いっそのこと最初に素早く倒しておけばよかった。悔しいがサクの方が一枚上手だった。だが、ここで諦めればフォニックスを裏切ることになる上に、他の紫目の闇狐たちが浮かばれない。俺はただ自分の利だけを考えていればいいわけではないのだ。
「ふん。いくら不利でも、死んでもお前らとは手を組まん。サクだったか。俺に勝ちたいのなら全力で来い。俺は最後まで戦うぞ。中途半端な攻撃だけして、チャンスを逃す馬鹿はいくらでもいるからな」
たとえ虚勢だとしても、最期まで自分らしくありたい。フォニックスの誰かが助けに来るかもしれない。だが、俺は俺の力で自分くらい守りたい。誰かに守られてばかりでは、ケイルと一緒に暮らしていた頃と変わらないままだ。サクはそう来なくっちゃというような顔をし、槍で俺を攻撃し続けた。とうとう俺の足をかすった時、誰かがサクを横から攻撃した。そこには、あまり話したことのない奴がいた。
「大丈夫やった?」
スインだ。よくわからない方言を使い、俺のことを子供扱いしているような節があるため、あまり好きではなかった。その上、透過でどこにいるのか見当もつかなくなるので、余計話さない。だが助けてもらった礼は言わなければならないと思ったが、また消えてしまった。サクは不意打ちをくらってもすぐに立ち上がった。そりゃそうだ。俺の体力と妖力を奪いやがったのだから。サクは、俺ばかり標的にしてくる。それが作戦なのか事情があるのかわからないが、スインに反撃する素振りも見せないということは、理由はあるはずだ。サクはまた同じように攻撃してきた。だが、動きの鈍さのせいでかする回数が増えていった。突然、目の端に何か飛んでくるものが見えた気がした。技ではない。きちんと形はあるが、妖気をまとった何か。それは、サクの足に命中した。