プロローグ 師匠はやっぱり厳しい
七月。急に依頼を受けた俺たちは、早速現地に向かっていた。しかし。
「ふふ。フォニックスの皆さんね。とりあえず、死んでもらおうかしら?」
とんでもないやつに勝負を挑まれ、なす術もなくシンの瞬間移動で逃げて来、今に至る。
「強すぎだろ!動きは見えないし、それに百鬼夜行をバンバン使ってきやがる!俺たちが敵う相手なのか?」
エントはそう言っていたが、かと言って任務を無視するというのは気が引ける。ギルド様に一回連絡しようと固定電話に手を伸ばすと、目の前に当の本人が現れて驚いた。
「話は聞きました。確かに、彼女はとんでもなく強い存在です。なぜなら、王族であり、その中でもさらに強いからです。キセキのように、名前の最初と最後の両方にキやギがついているのがその証です。キセキみたいな人ですね。あなたたちが敵うとは正直思っていませんでした。そこで、あなたたちには修行をしてもらいます。いつものとは違って、師匠の元で。まあ、実際に行った方が早いですね」
ギルド様は俺たちを瞬間移動させた。視界が開けると、家を50個くらいくっつけたように大きい建物があった。それも驚いたけれど、何よりツーハも一緒に来ていたのに驚いた。
「ツーハ!お前、なんで!」
「わたしも知らん」
「私が連れて来たんですよ。ツーハさんも呼んでほしいと言われましたからね。それでは、入りましょうか」
ギルド様の後ろを歩いていくと、やがて広間に出た。そこには、4人の人が立っており、相当強い人たちであることは妖気だけでも十二分に分かった。
「それでは、私が皆さんをペアごとに送るので、師匠様は先に移動しておいてください」
「俺でも、そんな器用なことできねえ。一体何者だ?あいつ」
というシンの声が聞こえて来たが、とりあえず今は修行のことについて考えることにした。再び同じ感覚に襲われ、目を開けると、目の前にはスインと気の強そうな女性だった。
「お前らが私の弟子という訳か。中々いい特殊能力持ってるじゃねえか。今日からお前らの師匠になる、セグリアだ!特殊能力は“パターン”だ!私がお前らに教えるのは、特殊能力をどう活かすかだ!肝に銘じておけ!」
特殊能力の使い方か。確かに、役に立ちそうな修行だ。
私が飛ばされたのは、なぜか武道場だった。エントもいて、強そうな師匠が私たちを見据えていた。
「お主らが某に教えを乞いたいという者か。某はセロ。特殊能力は“カウンター”だ。お主らの特殊能力は、“嘘見抜き”と“特殊毛”か。直接攻撃には結び付かぬ。よって、お主らには体術を教えるぞ」
まさか、そういう系の修行だとは。
私とソウマは、逆に何もない場所に連れてこられた。そこには、穏やかそうな男がいた。
「君たちがお弟子さんだね。僕は、君たちには明確な弱点があると思う。だから、それをカバーする修行をしてもらいたいんだ。ちなみに、名前はセンクだよ。よろしくね」
私は妖力の少なさ、ソウマは攻撃力の無さって所か。なるほど、確かに重要なポイントではあるな。
なんだよ、ここは。森、いや、人工の修行場か。ペアはツーハだし、師匠は気弱そうな女だ。一体、どういうことだ。
「あ、あの、今日から師匠を務めさせていただく、セムロと申します。お2人には、お互いに協力するということを学んでいただきたいのです。お2人は個人個人でも強力な力を持っています。しかし、協力すれば、強さが2倍以上になります。そこで、今回は、この視界の悪い森の中で、お互いの力を合わせて私が呼び出したたくさんの妖獣と戦ってもらいます」
ツーハは気合い十分と言った様子だが、本当にこれで大丈夫なのか?まあ、やらないっていうわけにはいかねえけれど。
「へえ。あの子たちが師匠なんて、ずいぶん立派になったのね。小さい頃は、散々暴れ回っていたというのに」
「子供の成長というのは、早いものだと、どこかで聞いたことがあります。奥様、お子様方の心配も大切ですが、お弟子さんたちも心配しなければならないかもしれません。おそらく、彼らやり過ぎますから。どうしましょう?この私は監視しに行きましょうか?」
「いや、いいわ。これはちょうどいいかもしれないわ。彼らが自制心をかけられるようにする訓練になりそう。お弟子さんたちにはかわいそうだけれど、そういうことであの子たちに任せてみましょう。それに、戦士を名乗るくらいだからきっと育てがいのある人たちだから、彼らの暇つぶしになるかもしれないしね」
フォニックスたちは、こんなことも露知らず、ただ師匠に言われたことをこなしていった。しかし、師匠の修行はだんだんと厳しくなっていき、もはや生きて帰れるかもわからないようなものへと変貌して行った。そして、彼らは結局、約1ヶ月間、他の依頼は全て受けず、ただ修行に明け暮れる日々を過ごす結果となった。そして、彼らは師匠の期待以上の結果を出した。




