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フォニックス 光と闇  作者: ことこん
第三章 虫好きで孤独な戦士
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第五部 イネイの夢

 お昼ご飯を食べ終わり、フォニックスたちが農業のお仕事から帰ってきた頃に彼らはやって来た。オムギさん、ナノガさん、ミルさん。…穀物屋敷の重役たちだ。もしかしたら、勝手に穀物屋敷を抜け出して他人の家に居候し、挙げ句の果てには勝手に恋をして告白をしてしまったことを咎め、連れ戻しに来たのだろうか?この生活が、終わってしまうのだろうか。私はオムギさんをじっと見つめた。しかし、ライトさんは私の感情とは裏腹に明るく振る舞う。

「ナノガさん!久しぶりだな!穀物屋敷でうまくやっていけてるみたいでよかった!」

「ライトさん、お久しぶりです。これは全てフォニックスの方々のおかげだと思っています。ありがとうございました」

ライトさんは、もしかしたら私を元気づけてくれているのかもしれない。でも、私をチラリと見た時の優しい表情は、その答えだと思った。そうこうしていると、オムギさんは羽を出して私に近寄って来た。ソウマさんが少し退がったのが見えた。鳥が苦手なんだっけ。でも、オムギさんが羽を出すのは大体重要な話をする時だ。

「今から、私の質問に答えてもらおう。一つだけだ。しかし、少々長いのでよく聞いておくように。お前は、どこで、何をしたいのだ。これだけだ。だが、この答えによって、お前の運命が大きく変わるだろう。よく考えて、後悔のない答えにしろ。言い直しは許可しない。その一言にお前の気持ちの全てをぶつけろ。私からはそれだけだ。よく考えるといい。しばらく、ここで待っているから、移動してもいいから、よくよく考えなさい」

オムギさんのしっかりとした声は、一語一語がしっかりと心に響いてくる気がした。私はまず、自分の1番気に入っている場所、図書室に行ってみた。そして、時には自分1人で、時にはツーハさんと一緒に読んだ本を眺めてみる。本を読む度に思うことがある。学校では絶対に習わない、習わないようにされている歴史的事件は極めて多い。色々な人が関わってくるから、都合の悪い歴史はなかったことにされるのだ。そのやるせなさ。そして、それを堂々と本として世間に送り出している人々の勇敢さ。ここには、販売停止された本もある。それでも、書き続ける人がいる。それって、本当に大切なことだと思う。正しい歴史は、正しい世の中を創っていく。それは、私が読んでいる本の作家さんが前書きに書く決まり文句だった。私は、ただそれを見ているだけ。見ていても、それを誰かに話すわけではない。何も行動できていない。それこそが、私にとって一番やるせないことだ。この考え方は、昨日ライトさんが連れて来た闇狐の子の話を今朝聞いたことに起因する。その子は、『自分の好みをわかってくれないことよりも、それをはっきりと言えないことが一番やるせない』と言っていたのだ。かと言って、私の場合大したことはできない気がする。私がさらに悩みかけると、ふと後ろに妖気を感じた。ライトさんだった。でも、何も言わず、そばにいるだけだった。今はむしろそちらのほうがありがたい。私は、絶対にここにいたい。それだけは絶対に変わらない。私は、何をしたいのか考えた。私は、この真実を広めたい。たとえ、それが誰を敵に回したとしても。でも、この夢はあまりに不明瞭で、私だけの力では到底できないようなことだ。

「ライトさん…。自分の力では到底できないようなことを夢にするのは、間違ってますかね…」

うっかり、ライトさんに話しかけてしまった。しかし、ライトさんは普通に返してくれた。

「いいんじゃないか?だって、俺は戦士になりたくてなったけど、自分一人でどうにかしようなんて思ったことないぞ?人脈も自分の力のうちだ。一人一人違う力をうまく活かすのも大切だしな。逆に、自分の力だけで夢を叶えた人を見たことあるか?そこで悩む必要はないと思うぞ」

なんだか、ライトさんらしい。ライトさんは、立ってどこかに行った。私がオムギさんの所へ行こうとしていることを察したのだろうか。私はリビングに行き、オムギさんと向かい合った。

「オムギさん、私は、ここで真実を追いかけたいです。穀物屋敷は、どうしても閉鎖的です。しかし、ここにはさまざまな人がやってきます。だから、その人たちに協力を乞い、情報を集めたり、実際に現地に行ってみたりしたいんです。安直過ぎるし、すぐにうまくいくような夢ではありません。しかし、これが私の出した答えです。オムギさん、どうでしょうか?」

私はオムギさんをじっと見た。すると、オムギさんは羽を仕舞い、ニッと笑って私を見た。

「いい答えだ。もし、ライトが好きなだけだったら連れ戻す予定だったが、お前にはちゃんとした夢があるようだ。いいだろう。ここでの居候を許可する。しかし、自らで稼ぐことができるようになったら、今までの分を返すことだ。今日はもう帰るとしよう」

オムギさんは2人を連れて帰って行った。なんだか、すごく疲れた。

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