第三部 フウワとソウマは難しい?
再び相手が立ち上がった。しかし、なんだか様子がおかしく、目に光がなかった。相手はスタスタと近づいてきて、まるで誰かに操られているかのような動きで攻撃してきた。
「ブレックジンのせいか?」
ライトがそう言った。となると、ブレックジンは誰かを操る技だということか?だが、今は目の前の相手をどうやって倒せいいのか考えた方が良さそうだ。いくら攻撃しても人形のように怯みもせずに歩いてくるものだから、少し恐怖も感じなくはない。馬鹿女はびびったのかライトの後ろに隠れている。やれやれ。やっぱり子供だ。とはいえ、俺も少々無茶をして全身の影を出したせいで、妖力もかなり消費している。長期戦は避けたい所だ。相手は攻撃すればするほど人形らしい動きになっていき、自我などとうに失っているようだった。しかし、不気味な声で何かを話し続けている。
「ボク、ガ…ワ………コト、…………テ」
これ以上は聞き取れない。スインは全く怯まずに攻撃し続けているが、こいつちゃんと倒れるんだよな。あまりに人間味が無さ過ぎてそんなことまで考えてしまう。しかし、徐々に動きが鈍くなっている所から察するに、いつかは力尽きるようだそりゃそうか。内心少しホッとしていたが、相手が俺を見ているような気がして、一瞬固まりそうになった。だが、絶え間ない攻撃のせいで、ついに動かなくなった。どこからか、声が聞こえる。
『全く、役立たずにも程があるわ。何よ、変な奴だけどそこそこ使えると思って拾ってやったのにこんな奴らにやられるなんてね。まあいいわ。せいぜい怪我で苦しんでおきなさい。誰も味方がいないあなたに、生きる意味があるのかも謎だけどね』
黒幕ということだろうか。それにしても、随分と失礼なことを言う。俺たちにも相手にも。だが、姿が見えない以上危険だと思い嫌味を言うのは控えておいた。
「帰るぞ。そいつは連れてきたかったら連れてきてもいいが、責任はしっかり持てよ」
ライトが相手を担いでいるのが見えた。全く、どこまでお人好しなんだか。こんな調子では、いつかつけ込まれそうだ。そうならないように気をつけて見ていなければならない。俺は瞬間移動でフォニックスの本拠地に行った。すると、フウワがテレビを見ていて珍しいなと思って近づいてみれば、イネイと話しており、テレビはたまたまついていただけだった。台所では、コウとソウマが話している。しかし、ソウマが度々照れているのが謎だった。臆病なエントは必死に修行をしていた。俺たちが帰ってきたことに気づかない程に。俺がソファに腰を下ろすと、ソウマが歩いてきた。なんだろうと思えば、持っていた盆にはクッキーが載っており、ツーハが目を…って、なんで俺こいつを名前で呼んだんだ?とにかく、わらわらと人が集まってきた。そして、1人一枚のクッキーはなくなり、皆は不満そうな顔をしていた。だが、コウがオーブンで追加を焼いているのを見ると嬉しそうにしていた。大の大人が、こんなにわかりやすく喜ぶとはな。ソウマは盆を置き、テレビを観ようとしたのかフウワの隣に座った。すると、フウワは急に緊張した様子でソウマを見ていた。一体、何をしているのだろう。ソウマは天気予報を見ていたが、フウワはソウマを見続けていた。イネイは気まずそうに立ち上がり、ライトの元へと歩いていった。全く、恋愛とはよくわからないものだ。ちなみに、さっきの相手はエントが運んでいる。今回も一件落着、と言った所だろうか。
ソ、ソウマが隣にいるだけで緊張する…。ソウマは私を見ていないのに。はあ。ソウマ、無理して合わせてくれたのかな。勢いで言ってしまって後悔しているんだったら、撤回してもらうように頼むべきなのだろうか。うーん…。突然、私の耳に手が触れた。びっくりして振り返ると、ソウマがゴミを私に見せた。なんだ。耳についていたゴミをとってくれただけか。
「フウワさん、どうしたの?…やっぱり、僕なんかに告白して後悔してる?もしそうなら、正直に言ってね」
どうやら、逆に勘違いされていたようだ。私は自分の疑惑が解けて目の前の困ったような顔をしているソウマがより一層輝いて見えた。
「ソウマ」
それは、半ば衝動だった。私はソウマの肩に手を置いた。ソウマが驚いたような顔でこちらを見る。しかし、一瞬優しい笑みを見せたかと思うと、なんと眠り始めてしまった。起こそうかと思ったけれど、心地良さそうな寝顔を見るとそんな気も失せてくる。しかし、これでは肘枕だ。シンの時とは訳が違う。私は結局普通に肘枕をした。ソウマが草狐だからなのかもしれないけれど、新緑のようないい匂いがする。さらに、ふんわりとした耳に触れてしまうと、私は気恥ずかしさのあまりずっと硬直していた。しかし、ソウマははっと起き、私に膝枕されていたのに気づいたのか照れているようだった。私はソウマが好きだけれど、ソウマの本音はどうなのか気になってしまうのだ。




