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フォニックス 光と闇  作者: ことこん
第二章 速さと遅さ
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第五部 フウワの恋路

 ああ、勢いで来てしまったけれど、気まずすぎる。一体、何を話そう。そう思いながら、病院の廊下を歩き、ある部屋で立ち止まった。そして、静かにドアを開けた。病室は1人部屋で、ベットでは点滴が繋がれたソウマが寝ていた。寝ているんだったらこれだけ置いて帰ろうとベットの横に来ると、ソウマがこちらを見ていてびっくりした。

「あはは。ごめん、誰が来たのかわからなかったからさ」

でも、いつもなら妖気でわかるはずだ。なのに、わからないと言ったのはなんでだろう。

「その顔は…バレちゃったみたいだね。フウワさんとは、色々話したかったんだ。僕の話、信じてくれる?」

そんな顔で見つめられたら、私は黙って頷くことしかできなかった。ソウマは口元は笑っているのに、目は寂しそうな感じで話し始めた。

「僕は、そこそこ良家の草狐だった。でも、名前はクンで、それにあいつが言ってたようにグラスヒール家系の亜流だった。だから、最初から期待なんかされていなかった。本家の子と一緒に勉強していたけれど、けなされてばかりだったし。だけど、僕は他の子より回復技に長けていた。そこで反応したのがあいつだった。あいつは僕がいよいよ技が上達して大人と比べても遜色ないくらいになった時、あいつは僕と母を追い出した。地位の差を利用して。僕たちはひっそり暮らすことにした。そこで僕はソウマになった。すると、僕は自分のものじゃない記憶が浮かび始め、ついには別の二つの意志が棲みついた。その二つの意思は別に僕の感情に影響は与えなかったけれど、記憶だけはどうしても気になって。それは、今までのソウマが生まれて来ては絶望に満ちた状態で死んでいくことの繰り返しだった。そこで知ったのは、毎回僕を悲しい結末に導いている存在、時の館の主人様。ここで、僕が鳥を恐れているわけと繋がるけど、その人は鳥のような姿だったんだ。その人に会ってから生まれて、死んでからまた会ってを繰り返していくから、なんだか怖くなって。鳥を見るたびに思い出してしまうから。そして、あいつがまだ僕を狙っていたと知った時、僕はそれを言い訳にして今山に住み始めた。そしたら、記憶も思い出すのをやめて、ほっとしてたんだ。ごめん、少し長かったけれど、これが僕が今山に行くまでの経緯だよ」

私は頭が追いつかず、ようやく理解したところでソウマを見た。複雑だったけれど、ソウマの苦労がよくわかった。

「僕を乗っ取っていたのは、おそらく過去のソウマだ。フウワさん。僕は、自分の悲しい結末にみんなを巻き込みたくないんだ。だから、フウワさんの告白を考えもせずに断った。失礼だよね。ちゃんと向き合うべきだって思ったんだ。フウワさん、僕と一緒にいたら巻き込まれる。それだけは絶対に避けたいから、やっぱり無理だ。だって、大好きな人が目の前で死ぬなんて、僕は耐えられないと思う。あいつはまだ諦めていないだろうし。だから、ピンチのときは絶対逃げてね」

ソウマは諦め切ったような笑みでこちらを見た。私は、どうにもただ引き下がるだけで終わらせることができなかった。私はソウマをじっと見た。

「私はお前の足手纏いなのか?お前はわかってねえよ!私はお前に命だってかけられるぞ。その理由はお前とまったく一緒、大好きな人が目の前で死ぬなんて耐えられないからだ!私の身にも、置いていかれる身にもなってみろよ!私はソウマに一生ついていけるくらいお前が大好きなのによ!なんでわかってくれねえんだよ!私は、私…は…」

気づけば、私は泣いていた。ソウマの驚いたような顔も歪んでしまってよく見えなかった。でも、ふと私の涙を拭う何かがあった。何かと思ったら、ソウマが出したツタだった。妖力、使わない方がいいだろうに。でも、ソウマは微笑みながら静かに泣いていた。

「じゃあ、一つだけ、約束して。絶対に、僕の隣にいてくれる?」

「ばーか。さっき、言ったじゃ、ねえか」

お互い泣きながらだったが、私はすぐに実感が沸いてきて、頬が熱くなった。

「ソウマ。私、絶対毎日来るから。エントに負けないくらい。だから、待っててくれ」

「うん。フウワさ…」

ソウマの言葉は、ドアの開く音で遮られた。エントが入って来た。

「ソウマ!見舞いに来たぞ!これ、コウが持たせてくれたやつ!あっ!フウワも来てたのか!」

「ソウマ。私、帰るわ。なんか、遮られてよくわかんなくなったから出直して来る」

「確かに」

私はソウマの病室を出た。エントのやかましい声が聞こえるが、私もがっつり叫んでいたので今日ばかりは注意できない。私は照れ臭さを感じながらも、フォニックスの本拠地に帰った。ドアを開けると、やはりセレンがいた。でも、私は見なかったことにして通過しようとした。しかし、セレンにがっしりと服の袖を掴まれた。

「無視する気?で、どうだったの?」

「お、お前にはわかんねえよ!」

なんかソウマに言ったのと同じような感じになったが、それでセレンを振り切った。

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