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下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞

缶コーヒーの見返りに求婚されました。

作者: 夏月七葉

 残業中にトイレに立って戻ってくると、デスクの上に一本の缶コーヒーが置いてあった。下には一枚のメモが挟まっており、『お疲れ様』とだけ書かれている。

 辺りを見回してみたが、私しか残っていないはずのオフィスには当然のように誰の影もない。不思議に思いつつも、触れるとまだ温かい缶コーヒーを有難く頂くことにした。

 その日を境に、謎の缶コーヒーの差し入れがあるようになった。それは決まって私が一人で残業をしている夜で、席を外した隙に置かれるのだ。だから、一体誰が差し入れをしてくれているのかは判らない。

 不気味さはあるが、その内緒のやり取りが段々楽しくなってきた。缶コーヒー自体も何か入れられているわけではないし、何より自分を気遣ってくれている気持ちが嬉しかったのだ。

 そうして、気づけば最初の差し入れがあってから一ヶ月が経とうとしていた時だった。

 その日も、私は一人パソコンに向き合っていた。

 そこへ、見知らぬスーツ姿の男が現れた。他部署の人だろうかと思っていると、彼は徐に口を開いて、あの缶コーヒーの差し入れは自分の仕業なのだと言った。そして、

「俺と結婚して欲しい」

 唐突にそんなことを言われて、私は驚いた。確かにあのやり取りは楽しかったが、よく知りもしない男性の求婚を受け入れられるほど軽い女ではないと自負している。

 戸惑いと怒りを含んだ返答をしようとしたその時、彼は私の手を取って自身の腕の中に引き込んだ。抱き込まれる感覚に身を硬くしたが、何故か急に視界が眩んで声を上げる余裕もなかった。

 しかし、彼はすぐに私を解放した。ふらつきながら彼を見上げ、目を丸くする。

 先ほどまで黒いスーツを着ていた彼が、今は白を基調とした豪奢な衣装を纏っていたのだ。それはまるで御伽噺の王子様のようで、つい見惚れてしまう。

「さあ、行こうか。俺のお姫様」

 差し出された手に、ぼんやりしていた私は我に返る。

「え、いや、これは一体……?」

 よく見ると、辺りは先ほどまでの無機質なオフィスではなく、豪華な装飾の城の中のような雰囲気だ。色々なことが一度に起きて、頭が混乱してきた。

「俺の缶コーヒー、飲んだでしょう?」

 確かに、差し入れの缶コーヒーは頂いた。だから何だと問い返すと、彼は少し悪戯っぽく笑った。

「あれを飲んだからには、俺の妃になってもらう。そういう決まりなんだ」

 結局訳が分からないまま、私の異世界での新婚ライフが始まった。

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