食えば食うほど強くなる
ソルタ達はエロピダスに着いていくが、二人の妹、アキュリィとフィーナに冒険者から口笛が飛び話しかけようとする奴までいる。
「さあさあ、こっちよ」
どきなさいあんた達と手を振る心は乙女に、気性の荒い冒険者達が素直に従う。
だがソルタの目からは、エロピダスがそこまで抜けた存在には見えない。
髭の剃り跡は青く濃いアイシャドウ、顔つきはどちらかと言えばのんびりして、頼りになると言うよりは親身に相談に乗ってくれそう。
細身に黒のぴったりした服で、白い大きなエプロンを着け、とてもアルプズが警戒するほどの人物には見えなかった。
ただ敵意は全く無い、むしろ大歓迎されていると妹達にも分かるのだろう、冒険者達の舐めるような視線を浴びるのが嫌なのか早足でエロピダスの後に続いていく。
一応、ソルタは警告しておく。
「妹には触るなよ。聖剣の錆にするからな」
「お兄様ったら、またそういう事を言う……」
「あらぁ、兄妹仲が良いのねえ。けど大丈夫よ、ガンちゃんの娘に手を出すおバカはいないわよ」
エロピダスが言い聞かせるように言うと冒険者達が一斉に頷き、その様子が面白かったのか笑顔になったフィーナも話し始めた。
「エロさんって呼んで良い? あのね、お兄ちゃんは私達を溺愛してるからああなの。普段はもう少し温厚なのよ?」
「良いわよ、好きに呼んでね。こんな可愛い妹がいたらあたしも愛しちゃうもの、分かるわあ」
聞き捨てならない、ソルタは妹達とまあまあ距離を置いていると思っている。
溺愛だなんてとんでもないと、ここしばらく離れていたせいか、何時も以上に甘えてくるのは妹達の方だと確信していた。
「おいこらフィーナ、勝手な願望を言うんじゃない」
「まあまあお兄様、落ち着いて。私達がこんなに相手してあげるの、今だけよ? 存分に可愛がっていいからね?」
アキュリィの頭に手刀を叩き込もうしたが、妹二人はエロピダスを押すようにして店の奥に消えていく。
困った妹達だという空気を出しながらソルタは荷物を担ぎなおした。
三人分の荷物は、ほとんどソルタが持っていた。
五十キロにはなるがこれぐらいは軽いもの、例え妹二人を背負って抱えても一日中走れるだけの体力がソルタにはある。
店の奥は広く明るい。
扉の前でアキュリィとフィーナが早く早くと手招きし、ソルタは悪魔と黒猫を連れて部屋に入った。
「ここ、暖かい」
「そうよ、あなた達が来ると思って暖めておいたの。食事もあるけどその前にお茶にしましょうね」
エロピダスがお湯に茶葉を入れようとした時、僅かにアルプズが反応した。
ソルタも直ぐに気付いた、余り強そうではなかったマダムエロピダスの両手に濃い魔力が宿っている。
「凄いわね、流石はガンちゃんの息子ね、あっさり見破るなんて。そうよ、これがあたしの能力よ。さあお茶を飲んでみて」
ソルタが受け取るよりも早く、手にした妹達が飲み始めた。
だがソルタは止めない、相変わらずにこにこしているエロピダスに敵意らしきものは微塵もない。
「わっ、温まる。なんか疲れもとれる」
「それに美味しい!」
フィーナとアキュリィの感想と、ソルタの意見は全く同じ。
とても不思議なお茶だった。
「そうよお、あたしの料理はバフを与えるの。これもあなた達のお父さんが見抜いてくれたのよ。『食事バフとかありきたりだが、使えるな』ってね。ありきたりって言われたけど前例が全くなくて、あたしは自分が無能力だと思ってたけどね。あの人は、あたしに役目と指針をくれたの……」
遠い目をするマダムを置いて、ソルタはお茶を飲み干し空のカップを差し出した。
エロピダスは右手で新しいお茶を淹れ、左手で蜂蜜の瓶とお茶請けの菓子を前に出す。
「へー、変わったお菓子。これなに?」
「プチシューよ。作り方、というかどんなものかはあなた達のお父さんからよ。何だか変な食べ物を沢山知ってたわね。夕ご飯も期待していいわよ!」
両親の昔話を聞きながら夕食もご馳走になる。
少しは苦労してこいと送り出された妹達は珍しい料理に舌鼓を打ち、ソルタはそれ以上に食べる。
沢山食べるとエロピダスが喜ぶので限界まで食ったのだ。
「もう食えん」
用意された部屋の大きなソファーにソルタは寝転んだ。
アキュリィとフィーナは自分達の寝床を作るのに忙しい、ベッドを二つくっつけて並んで寝るようだ。
姉妹二人で布団の中で夜ふかししてお話、これまで離れていた分を埋めるのを全力で楽しんでいる。
「お前達、ここには一応魔物退治に来たんだから忘れるなよ。明日の朝は早いぞ」
「分かってるわよ。ところで、お兄ちゃんも一緒に寝る?」
フィーナがベッドをばんばん叩いたが、アキュリィは流石にそれはちょっとという顔をしていた。
ソルタは、必要とあれば妹二人を抱えて寝る。
屋外だったり雑魚寝の木賃宿だったりならば、それが一番安全だからだ。
だがエロピダスは、飲み屋で食堂で宿でもある大きな店の中で、女性客か家族専用の一角を用意してくれた。
「二人で寝なさい。お兄ちゃんは……ここかな?」
妹達の寝床と部屋の入り口の中間あたりにソファーを運ぶ。
万一の侵入者があっても対処しやすい位置で、ソルタは妹を人質にされない限り人を相手に遅れを取ったりしない。
「えー、遠い。もう少し近くに来て」
少しソファーを寄せると、妹達が寝たままで丁度ソファーが見える位置になった。
「そこらへん。ちゃんと近くに居てね? 心配でしょ?」
お前らが不安なだけだろうがと思ったが、お腹いっぱいのソルタにはもうどうでも良い。
毛布を被って目を閉じる、軍に行って良かったのは何処でも直ぐに寝れるスキルを身に着けたこと。
アキュリィとフィーナはさっさと寝る兄に文句を言っているが、知ったことではなかった。
――深夜、ソルタは右足の親指を噛まれた。
黒猫のカーボンだった。
直ぐに覚醒したソルタは、まず妹二人の安定した寝息を確認して、そっとアルプズを呼び出す。
「窓の外か。浮いてるな、この気配は」
「はい。悪魔です」
ソルタが右手を空中に振り、その場に現れた聖剣を掴む。
この剣は、持ち主の体に収納することが可能だ。
「俺の睡眠を邪魔するとはいい度胸だ。妹を起こさない程度に相手してやろう」
なるほどとソルタは思う、言葉にし難いが何時もより一割ほど戦闘力が上がっている気がする。
料理バフは便利で効果があった。




