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兄の命令は絶対


 4人兄妹で年齢は上が15と12で、下が7と6。

 これだけ歳が離れていると上と下では滅多に喧嘩にはならないが、だからこそユピテラとサターナにとっては貴重な機会だ。

 下の二人からすれば、歳の離れた兄や姉と喧嘩することは勲章でしかないのだ。

 ここぞとばかりに言い返す。


「おねえちゃんのデカケツには敵わないし!」

「足も太い……ぷっ」


 少し前まで丸くころころしていたフィーナも、手足が伸びて背丈も急激に伸びている最中だ。

 そのお陰で以前よりほっそりして来たが、今度は母親たちの口癖であるダイエットを気にし始めた。

 ソルタは妹たちに「いいから食え。もっと食べなさい」としか言わないが、フィーナは時々ながら乳製品と野菜だけで食事を済ませることがあり、それをユピテラとサターナも知っている。

 つまり思春期の少女にクリティカルヒットをみまったわけだ。


「あんた達っ!!」


 くわっと怒ったフィーナの容赦ない一撃が妹を襲う。


「おにいちゃん! おねえちゃんが!」

「叩いた、叩いたよぅ! 見た見たでしょ?」


 お姉ちゃんに怒られた時はお兄ちゃんに、お兄ちゃんに叱られた時はお母さんに、お母さんに叱られた時は他のお母さんに泣きつく、妹たちの得意技だがここで味方はしない。


「今のはお前たちが悪い。お姉ちゃんに謝りなさい。さもないとね、お姉ちゃんが持ってるバスケットを見てみろ」


 長女フィーナの趣味はお菓子作り。

 いつも季節に合わせたものを作るので、これがある限り下の二人は絶対に姉に逆らえない。

 大きなバスケットには、いかにもお菓子が沢山つまっていそうに見える。

 即座に顔を見合わせたユピテラとサターナが、声を合わせて謝った。


「おねえちゃん、ごめんなさい! お姉ちゃんは優しくて美人で憧れのお姉ちゃんです!」


 予想外の定型文が出てきた。


「……なんだそれ?」

「ふふん。最近生意気になってきたから、言わせるようにしたのよ。自分たちの立場を分からせる感じ?」

「やめなさい……。それに妹とはいえ余りぽんぽん叩くもんじゃないぞ、お兄ちゃんがお前らに手をあげたことがあるか?」


 三人の妹は顔を見合わせて、同時に口を開いた。


「いっぱいある!!!」

「おにいちゃんは結構叩く!」

「あとよく放り投げる!」

「わたしが、お兄ちゃんに何百回泣かされたと思ってるのよ!」

「あーあれは撫でてるんだ、投げるのはお前らが喜ぶからだろ、フィーナはまあ小さい頃のことは忘れろ。最近は泣かさないだろ?」


 共通の敵をみつけた三匹の子豚はすっかり仲良くなって、ぶーぶーと兄への文句を言い始めた。

 叩くはたくと言っても、下の二人を本気で叩いたことはない。

 かなりの年齢差があるので、怒った時こそ手を上げないようにしている。

 そこまでしなくても二人に兄の説教はよく効く、普段から遊んでいるぶん急に真面目に言われると堪えるらしい。


 ただ3つ違いのフィーナとは、よく喧嘩もして泣かせたのは事実。

 子供の遊び相手がお互いしかいなかったのが大きいが、今ではちょっと悪かったかなとソルタは思っている。

 ただし最近は妹でも女の子だからと暴力はふるわない、せいぜい頬や耳を引っ張るくらいにしていた。


 これでめでたしめでたし、となるところだったが、いつの間にやら肩から頭までよじ登った三女のサターナが何かを見つけた。


「ねえおにいちゃん、誰か来るよ? 村の外から」


 妹達の話し声がぴたりと止まる。

 城でもある家の中は常に母親か兄が居るので安全で、村の中もだいたい安全、ただし村の外はそうとは限らない。

 村の周囲に広がるオールトの大森林には、巨大な魔物や今も魔王軍の残党がうろついている。


「二人共、降りなさい」


 村の外に視点を固定したソルタの真剣な声に、抱きついていた妹が今度は素直に降りていく。

 本気の時のお兄ちゃん命令は絶対に守ることと、生まれた時から言ってある。

 この世界は、無防備な子供が守る者なく生きるには厳しいのだ。


 元魔王城の正面から左右に伸びる通りの端から少し外、まだ朝靄が僅かにかかる登り坂を長身の集団がやってくる。


「オークだね、20人くらいかな。多いな」


 オークの男は全員が大男、ソルタの父が使っていた尺度では220センチから250センチがほとんどで、一人でも人類の戦士3人分と言われる怪力だ。

 手に手に斧や鎌を持っていて、どれここれもがハイハードミスリルやレッドオリハルコンやブルーオリハルコンで打たれた業物。

 二足種族の中でもずば抜けた腕力で振り回せば、守りに優れるという騎士でさえ真っ二つだろう。


 オークの一団は真っ直ぐに元魔王城へとやってきた。

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