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お金の使い方その2


 悪魔は魔族の下の方で、弱いが数がいて文明種族に馴染んでいる者たち。

 魔族の上の方は固有個体で恐ろしく強いと、母が言っていた。

 もし出会ったら、逃げるかごめんなさいしなさいとも。

 まだアルプズに聞きたい事があったが、先にするべき事をする。

 

「おい、その手を離せ。女性の髪の毛を掴むなど男として恥を知れ!」

「んだっごらぁ!?」


 敵を挑発するにはこっちの方が良さそうだ。

 当たり前に正しいことを指摘されたら、謝るか怒るしかない。

 ソルタだって、どうして妹の髪を引っ張るの?と叱られればその二択だ。


 あとは真っ赤な顔してバラバラにかかってくる男どもを順番に叩きのめし、親玉を呼び出してさらにぶん殴り、息のかかった役人が出てきたとこに領主の一人娘であるアキュリィを出すだけだ。

 完璧な作戦だと自画自賛したいくらいだが……。

 

「……あれ、こないの?」


 意外な事に男達は自重していた。

 代わりに薄ら笑いを浮かべながら言った。


「何処の坊っちゃんか知りませんがね、こんなとこ来るもんじゃないですぜ。高級店ならそこの通りを真っ直ぐ行ったとこにありますから。ここは日銭を握りしめた野郎が行列作るような店だぞ?」


 ソルタは自分の格好を見直す。

 靴こそ実用性重視の革のブーツだが、上下は穴も汚れもなく模様まで縫い込まれた綺麗なシャツとズボン、これは街に出たいと言うと用意された。

 半歩後ろには、正装のアルプスが両手を後ろに組んで直立している。

 殴って追い払えば後で面倒になる、爺やを連れた世間知らずの坊やに見えなくもない。


「……お金も持ってるよ?」

「強盗は重犯罪でさぁ。額によっては即決の縛り首。さあさあもう行ってくれ、二度とこんなとこに来るんじゃねえぞ」

「困るよぉ……」

「困ってるのはこっちだよ!」


 世間がこんなに難しいとは思ってもいなかった。

 悪い奴にも考える頭がある、こちらの想定通りには中々動いてくれないのだ。

 せめて女性――おそらくサキュバスだが――から助けを求められれば手も出せるが、髪を掴む手から開放された今は一歩引いて見てるだけ。


 いっそ銀貨の入った袋を投げつけて、奪われたことにしてやろうかとさえ思う。

 そういうお金の使い方もあるだろう、ないかも知れないが。

 しばし無言で睨み合ったとこへ、突然割り込む者があった。


「おっ、こいつらまた来てやがる! おいお前らやっちまえ!」


 突如後ろの飲み屋街から来た集団が、問答無用で先の男達へ殴りかかる。

 新たに現れたのは3人、待ち受けるのは5人だったが、新しい方が強い。

 あっさりと蹴散らし始めた。


「なるほど、そういうので良いんだ」


 感心するソルタに3人組が話しかける。


「お前さんは通りすがりか? って、意外と若いな。しかもいい身体をしてる」


 ソルタはまだ細いが年齢の割に背が高い。

 両親はともに体格がよく、身体能力も魔王を倒せるくらいだ。

 田舎で食べ物に困ることなく、適度な運動をして育ったソルタは、オークのパワーとエルフの敏捷性を兼ね備えている。


「そっちの人はねえ、最初にわたしを助けてくれたんだよ」


 髪を掴まれてた女性が代わって答えると、3人組は笑顔になった。


「やるなあ、坊主。一杯やってくかい、こんな店だけど」

「ちょっと、こんな店で悪かったね。坊っちゃんも、そちらの……紳士さんも、良かったら入っとくれ、お礼を言いたいからね」


 ソルタはアルプズにそっと聞いた。


「ここ、どんなお店?」

「酒と食事を提供し、店内にいる気に入った女の子と二人きりになれる店です。こういう店には、サキュバスが居着くのです」

「へえ、良いじゃないの。行ってみよう」


 意気揚々と店に入り、案内された席についたソルタと同じテーブルには、3人の男達が座った。


「何でだよ!?」

「まあそういうなよ、坊主。こういう店は初めてだろ? 選び方から注文まで、お兄さん達に任せとけ」

「そうそう、俺達はこの店のベテランだからな」


 3人組は二十代の後半といったとこで、悪い人たちではなさそうだ。

 同じように感じ取ったのか、アルプズが「女将と話をしてきます。若者同士でごゆるりとお過ごしください」と言い残してソルタから離れた。

 アルプズの背中を見送った3人組がまた口を開く。

 

「迫力ある爺さんだな」

「大戦の生き残りかね、あの世代はああいう人が多いな。さて坊主、せっかくだし俺たちも挨拶をしようか。俺は、ガイアン。三人で魔物狩りをやって稼いでる」


 ソルタは思わず乗り出す。


「へぇー、凄い! 冒険者ってやつでしょ?」

「おお、古い呼び方を知ってるな。最近は冒険しねえからな、余り言わなくなったんだ」

「うちの親父は自分で冒険者って言ってましたよ」

「ほぉ! 良い親父さんだな」


 場が和らいで、残りの二人も笑顔で自己紹介をした。


「俺はマジューだ。冒険者っても俺達はスライム退治が専門だ」

「オガルテだ、よろしく。握手して貰えるかな」

「ソルタです、よろしくおねがいします」


 オガルテと握手したソルタは直ぐに気付いた、魔法をかけられそうになったなと。

 じっと繋いだままの手を見ていると、オガルテが申し訳無さそうな顔をして手を離した。


「すまない、悪気はないんだ。いやこれは俺の固有能力なんだ、触れた相手の魔力を少しずつ吸い取るっていう。本当に少しずつなんだが、完全に無効化(レジスト)されたのは初めてだよ。ソルタって言ったか、君はいったい何者だい? 出来ればタメ口で答えてくれ」

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