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最初から最強


 騎士ソンスリオの剣は、僅かに光を放っていた。

 つまり魔法で強化されている剣だ。

 同じように光る剣を持つのがもう一人、その後ろに魔法を使った二人、さらにソルタの左右に二人ずつ。


 予想よりも多くて、ソルタは焦った。

 答えるか分からないが、一応聞く。


「ひょっとして、妹のところにも仲間が行ってたりする?」

「まさか。姫には、ウンゴール公国に輿入れしてもらわねばならぬ。貴様ら蛮族には過ぎた聖剣を生み出すためだけにな」

 

 ウンゴール公国とは陸橋国のこと。

 西方にある人類発祥の古王国と、東方の新興エオステラ王国を繋ぐ陸橋にある公国だ。

 当然ながら歴史はエオステラよりも長く、それを鼻にかけて東方諸国を蛮族と見下している。

 それだけならまだしも、東方諸国を教化・文明化してやったという態度で、恩人面して貢納や従属を要求する。


 東方諸国にしてみれば、人類発祥の西方古王国ならともかく、たかが通路が偉そうにと反発して幾度も戦争にまで発展した。

 だがここ400年ほどは戦争がない。

 エオステラが強大国への道を歩み初め、実力で王号を名乗り――それがまた公国の神経を逆なでする――完全に力関係が逆転した。


 その原動力となったのが妹アキュリィの家だ。

 男は皆が優れた軍人で、王族の女は時に、聖剣と呼ばれる至宝を生み出す血統能力を持つ。


 アキュリィの母は、自身が創り出した聖剣をソルタの父へ託したらしい。

 そういえばとソルタは思い出す、親父が光の刃を持つ剣を持っていたなと。


「まあいいや。妹が無事ならそれでいい」


 もちろんソルタは相手の言葉を全面的には信用しない。

 一角馬(ユニコーン)のプニルと、風の精霊は妹の側に付けてある。

 悪魔アルプズも付けようと思ったが、よくよく話を聞くと、アルプズの種族はインキュバスなので断念した。

 ソルタが立ち上がろうとしても妨害はなく、ソンスリオ達は勝てると思い込んでいるようだった。


 油断してるなら好都合と、足元に手を付いて黒猫に指令を出す。

 暗闇の中で、影だけがソルタから離れた。

 立ち上がったソルタに、ソンスリオが剣を向けた。


「観念したか、楽に殺してやる。目を潰れ。貴様の馬は俺が貰ってやるぞ」

「たった8人で俺をどうこうするつもりか? 仲間を全員連れてこい」


 渾身の挑発だったが、ソンスリオと魔法剣を持つもう一人にも鼻で笑われた。

 これで相手の戦力を見極めるのは無理だと、ソルタはまた一つ賢くなった。

 だが、もう一つ聞きたいことがある。


「ソンスリオ、あんたとそっちの一人、お前らは騎士だろう? 主君に忠誠を誓うのが騎士だと聞いている。何故に裏切るような真似をする?」

「ふっ、別に裏切ってはおらぬさ。我らの生まれはウンゴールだ、宗家はあちらにある。ただ騎士家の次男三男と言うだけで、こんな辺境に仕官させられたがな。まあよい、工作費用もたっぷり貰ったし……」


 二人目の騎士がソンスリオを遮った。


「おい、喋りすぎだぞ」

「良かろうに、こいつはもう直ぐ死ぬ」

「ちっ。油断はするな、魔法使い援護しろ。6人で同時にかかる、回復魔法なら使うかも知れんぞ」


 油断したままが良かったなと思いながら、ソルタは黒猫に合図した。

 顔が整ったソンスリオよりも、岩石みたいな顔をした二人目の方が厄介かも知れないなと警戒しながら。


 魔法使い(マジックキャスター)には弱点がある。

 魔法全般の弱点とも言ってよいが、物質による物理攻撃を反射や無効にする魔法は存在しないのだ。

 大きな岩には潰されるし、四方から剣で突かれれば受けようがなく、何十本という弓矢は風などで吹き飛ばせるが運任せ。

 もちろん距離さえあれば魔法の方が手札は多いのだが。


「俺だけで十分だぞ。丸腰のガキ一人くらい、な」


 単独で飛び出したソンスリオが、体に上手く剣を隠して、ソルタの頭へと振り下ろす。

 ソルタは思った、こいつは遅いと。

 軽く避けようとしたところで、記憶がうずく、以前にも今みたいに頭へ剣を振り下ろされたことがあったと。

 お陰で避けるのがギリギリになった。


「ほう、素早いな。だがこれはどうかな”三連爪”」


 右左突き薙ぎの四連撃を避けながら、ソルタは必死で思い出す。

 徐々に浮かんできた、あれは村が出来る前のことだ。

 相手は父ガンタルド、しかも持っていたのは真剣で、ソルタも真剣を持たされていた。

 父は言う。


「この程度で音を上げてどうする。あの魔王を倒す、いや倒せるのはお前だけだ。さあ行くぞ、受けてみよ」


 親父は何度も打ち込んできて、最終的に上段からの攻撃を受けとめたが、5歳のソルタでは支えきれずに(ひたい)に刃が食い込んだ。

 視界が真っ赤になって倒れると、悲鳴をあげた母親達が一斉に飛びついて来た。

 怪我は直ぐに治ったが、治療を受けている間、ずっと側で泣き続けている小さいのが二人。


「そうか、あれがフィーナとアキュリィか……。良かった、ちゃんと覚えてた」


 そして激怒した母親達は、二度とソルタに剣を握らせなかった。

 親父の尻を叩きに叩いて、結局は両親達だけで魔王を倒してくれた。

 今もソルタが剣も刀も持ってないのはそういうことだ。


 家には上等の剣が何本もあったが、全て置いてきてしまった。

 忘れようとしていた記憶が、妹と敵の剣を見てすっかり思い出される、ただしソンスリオの剣筋は手加減していた親父の剣よりも遥かに遅いが。


「もうちょっと剣を習っておくべきだったなぁ。親父も根性がない、母ちゃんにちょっと怒られたくらいでさ」

「な、何を言っている?」

「お前には関係ないよ。余りにもぬるいから考えごとしててね」

「貴様ぁ!」


 何度も剣を振り回したソンスリオは、明らかに疲れていて、ソルタの簡単な挑発に乗った。

 だが岩石みたいな顔をした騎士が止める。


「ソンスリオ、落ち着け! こいつは魔法系ではない、素手での戦いに特化した奴だ!」

「ふぅ……そうだな、迂闊な接近は危険か。なあ小僧、貴様の妹がどんな目に遭うか教えてやろうか?」


 呼吸と体制を整える時間稼ぎだと分かったが、ソルタは乗った。


「言ってみろ」

「ウンゴールの当主はな、若い女が好みだ。せいぜい10代前半までの少女をいたぶりながら犯すのがな。姫も最初は重宝されるだろうが、直ぐに用済みさ。だが処分はしない。多くの娘を産んで聖剣を公国にもたらすためにだ。その相手は誰でも良い、何なら俺にも回ってくるかもな。もちろん、男児が生まれたらその日に殺す。蛮族の血を歴史高き公国に残すつもりはないからな」


 6人が武器を構え距離を詰め、2人の魔法使いが詠唱を終えていたが、ソルタは真っ直ぐ突っ込んだ。

 一瞬、なるほどこれが挑発というやつかと思いはしたが。


 加速に使う赤い魔法陣を六枚くぐったソルタは亜音速に達し、青い魔法陣四枚で減速してから、反応出来ていないソンスリオの顔をぶん殴った。

 一回転、二回転、三回転半してから、ソンスリオはうつ伏せに地面に倒れる。


「首がちぎれるかと思ったが、さすが騎士。頑丈だな」


 次の目標、岩石顔の騎士に向かいながら魔力を鉄が溶ける温度まで高めて、後方の魔法使いに向け撃ち出す。

 特に呪文も名前もない、簡単な魔力操作だが数は五発ずつ合計十発、直ぐに数層の魔法シールドを突破し男達は燃えた。


「魔法!? バカな!」

「誰も使えないなんて言ってないだろう?」


 驚く岩石顔の騎士の鎧の中央を狙い、拾っておいた小石を指で弾いてから加速する。

 超音速の小石は、軽々と鎧ごと騎士を貫いた。

現在世界6位くらい

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