1話
お久しぶりです。
AIVO これは最新鋭のXR技術を応用して作られたゲームだ。
様々な型のデバイスを用い、プレイヤー間で拡張世界のネットワークを構築し現実世界に干渉。
その場所にあったバトルフィールドを即座に形成し、その場で戦うというものだ。
基本的にデバイスとネットワークに繋がれたデータを使用するが、イメージ技術を用いてプレイヤーの思い描いた事象や現象、物を創造することができるようになった。つまるところ頭の中の妄想がXR下においては現実のもののように使用することができるようになったのだ。
旧AIVOにはこのイメージ技術が搭載されていなかったためこのような妄想を現実に変えることなどできなかったが、イメージ技術の発展よってAIVOは、いや世界は大きく変わったのだった。
そんな世界を変えてしまう程の技術を生み出したのは、日本の、しかもそれまで何の実績もなかったとある大学の研究室だった。
林藤寒太。これを機に天才発明家と呼ばれるようになった彼は、それ以降も様々な研究を行い我々人類の発展に尽くしてきた。
「のちに総橡大学またそれの付属学校を設立していくことになる。つまりうちの理事長は結構すごい人ってことだ」
「えー、でも先生。普段の理事長からはそんな風に見えませんよ」
「そうそう、いっつもぼけーとしててさ何考えてるかわっかんねーんだもん」
なー、ほんとよね、この前なんもないところで転んでるとこ見たぜ、私も私も……。
「はい、静かに授業中だぞ。はあ、まあ普段の感じでは君たちにすごさってものは伝わらないだろうが、あの人が本気を出したらすごいぞ。先生がとある研究に参加した時のことだがな、その時の理事長といったら……」
キーンコーンカーンコーン
「あ、時間か。次回の現代史は理事長のSavior所属時代の授業だ。予習を忘れないように。では日直」
「きりーつ、きをつけー、ありがとーございましたー」
日直のやる気のないかけ声に合わせ、これまたやる気のない挨拶が教室に響く。
「はい、ありがとうございました。次は……。体育か、遅れないようにな」
「おい、急げ!今日は2組とのAIVOだぞ。いい加減決着つけてやる」
「あいつら最近調子いいからね。めっためたのぎったぎたにしてやんないと」
女子がいるにもかかわらず既に体操服に着替え終わっている血気盛んな二人組。
最初にしゃべりだした、高身長しゃべらなければイケメンランキング第一位の馬原陽太と、小さくて動かなければ愛玩動物ランキング一位の鹿島自由だ。二人合わせて馬と鹿で馬鹿組なんて呼ばれている。
「これくらいうちの授業にも熱心でいてくれたらいいんだけどな」
ため息交じりで悪態をつく幸薄そうなのが、現代史の先生かつこの1年6組の担任でもある一伊堅斗先生。
「馬鹿組の気持ちもわからなくはない、今どきの高校生なら教科書の人物のありがたいお話なんかよりも、目先の楽しさに心奪われてしまうものだ。なんて考えてそうな顔してるねよっちゃん」
出た。伸介。こいつはたまに僕の考えていることをビタビタに当ててくる。正直きもい。
「そういうしんちゃんはわっかりやすい頭してんなぷーくすくすとでも考えてるのか?」
意趣返しのつもりでこういうことを言ってみるが……。
「おしいな。わかりやすい頭しててかわいいと思っていたところだよ」
「くたばれ」
「ぎゃっはっは、かわいいじゃねえかよっちゃん」
言葉でこいつに勝てる気がしないので早速無視を決め込むとしよう。それがいい。
「ところでよっちゃんどうするの?次の体育」
あー、最近近くのコンビニで限定のアイスが出たんだよな帰りにでも買っていこうか。
「すねちまって、そんなだからかわいいだなんて言われんだぜ」
「今日も体育は休みだな腹が痛い気がする」
「しっしっし、OKじゃあ俺っちも先生にそう言うことにしようかね」
「別に僕に合わせなくてもいいんだぞ」
「合わせてるわけじゃないさ。よっちゃんのいないAIVOとよっちゃんとの駄弁りどっちが面白いか天秤にかけただけさ。で、傾いたのがそっちってだけ」
結果合わせているわけだがそれを言おうが言わまいがこいつが考えを改めるわけでもないことはわかっている。
「あっそ。んじゃちゃちゃっと報告だな。いい加減あのおっちゃんキレ散らかすんじゃないか」
「体育の先生ねー。俺っちは呆れるに一票かな。負けたほうがコンビニの限定アイスおごりで」
「僕いちごな」
「俺っちはプレミアムバニラで」
「それちょっと高い奴だろ。なら僕が勝ったら菓子追加で」
「いいよ、どうせ僕の勝ちだから」
「なんだよその根拠のない自身」
「未来とは自分の力で勝ち取るものだよワトソン君」
「誰がお前の助手だってんだよエセホームズが」
ぺちゃくちゃしゃべりながら廊下を歩く二人の後ろ姿はどうみてもおなかが痛いようには見えなかったという。