録音
雄太は噂話を聞いた。その内容とは、真夜中に心霊スポットとして有名であるだれも住んでいない一軒家で音を録音すると幽霊の声が録音される、というものだった。その噂は最近どこかで流れ出したもので、誰が流したのかはわからない。
雄太はオカルト好きだったので、それを友人といっしょに試すことにした。早速、友人にそのことを話す。
「正弘ー」
正弘と呼ばれた雄太の友人は、こちらを向いた。正弘と雄太もそうなのだが高校1年生なので、まだ顔のどこかに幼さが残っている。
「ん?なに?」
「あのさー。今夜、例の心霊スポット行かない?あの幽霊の声を録音できるってとこ」
正弘は即返事をした。
「いくよ!あったりまえじゃん!!」
「じゃあ、心霊スポットの入口に集合だ」
「いいよ!」
そして、あっという間に学校の授業たるものが終わり、部活の時間になった。雄太の部活は野球だ。
今、雄太はキャッチャーをしている。向こうからボールを速いスピードで投げてきた。時速130キロぐらいはあるのではないか。それを、バッターをしている男が打とうとするが見事に空振りをしてストライク。バッターの顔には悔しいという感情があらわになっていた。
そして、10秒ぐらいして次のボールが投げられた。そのボールをバッターは勢いよく打ち、いいところにボールが転がった。そのボールが1塁に行く前にたどり着こうと男はあせったのか、バットを思いっきり吹っ飛ばして走って行った。そのバットが雄太の胸にあたり、雄太は唸り声をあげて倒れこんだ。
仲間が集まってきて、大丈夫か?などと聞いてくる。雄太はそれにも答えられないほど激痛が走っていたので、なにも答えることはできなかった。
試合は中止になり、すぐに病院へ搬送され、診断すると肋骨が折れているという結果が返ってきた。どうやら、今夜例の心霊スポットへは行けなさそうである。正弘にも伝えようとしたがそれどころではなく、結局伝えられないまま次の朝が来た。
雄太がぼーっとしていると、突然ケータイからメロディが流れてきた。雄太はケータイを手にとり、通話ボタンを押してから耳に当てる。
「は、はい。もしもし?どなたですか?」
「正弘の母です。あのそちらに正弘はいませんか?」
「えっ?」
雄太の心臓の鼓動が早まる。
「昨日の夜、出かけてくると言って、帰ってこないんですよ。ほんとに困ったわねえ・・・」
「・・・」
心臓の鼓動はさらに早まった。手が震えてしまうほどにだ。
「あ、ごめんなさいね。それじゃ、見かけたら行ってください」
「は、はい・・・」
ケータイを耳から話し、雄太は即座に出かける準備をした。病院の人に外出の了承を得て雄太は病院から出て行った。いまだに心臓の鼓動が速い。
そして、例の心霊スポットへ向かった。まさか、まさか正弘はその心霊スポットでなにかあったんじゃないだろうな・・・。
心霊スポットに雄太はついた。すぐ目に入り口で落ちている録音機がとまった。それは、正弘のものだった。
録音機を手にとり、巻き戻しボタンを押し、最初まで巻き戻した。そして、恐る恐る再生ボタンを押した。
(・・・いまから、この中に入りまーす。雄太これを聞いてちびんなよ。・・・はい中に入りました。うわ・・・クモだキモいな・・・・・・・・・あれ?なにこれ・・・ウ、ウヴァアアアアァァアアアァア!!!!・・・・・・・・・・・・)
・・・。正弘には何か不吉なことがおこったのだ。そして、正弘はこの中にいる。
雄太は心霊スポットであるこの一軒家の中へ入ることにした。
中に入り、あたりを見渡した。薄暗く、クモの巣までかかっている。
「ま、正弘ー?い、いるんだろ〜?へ、返事ぐ、ぐらいしろよ」
しかし、予想通り返事はなかった。
しばらく歩いていると髪の毛が大量に落ちていた。なんだコレ・・・。気味が悪い・・・。
「オイデ」
「え?」
いまどこかで声が聞こえてきた。よく耳を澄ましてみる。
「オイデ」
今度はさっきよりも大きな声だった。
「だ、だれかいるのか・・・?」
「オイデ」
雄太は吸い寄せられるかのようにその声が聞こえるほうへ向かった。すると、目の前には扉が立ち憚った。
「オイデェ!」
突然ものすごい大きな声になり、雄太は目の前にある古びた扉を思わず勢いよくあけてしまった。そこには何もなかった。雄太は安堵の息を漏らし、もうもどることにした。仕方がないことだ。これ以上進み入る勇気が湧かない。警察に任せよう。
そして、振り返る。雄太は思わず後ずさりをした。そこにはボロボロになった服をまとい目を真っ赤にして、青白い女性が立っていた。その女性はにんまりと笑った。
「コンニチハ」その声はこの世に存在しないようなありえない声だった。
「ウ、ウヴァアアアアアァァアアアア!!!!」
正弘の母は警察から、録音機を渡された。この録音機は行方不明になった正弘のものである。そして、雄太までもが行方不明になっている。
正弘の母は録音機を再生した。すると、こう聞こえてきた。
(・・・いまから、この中に入りまーす。雄太これを聞いてちびんなよ。・・オイデ・・はい中に入りました。うわ・・・クモだキモいな・・オイデ・・あれ?なにこれ・・コンバンハ・・ウ、ウヴァアアアアァァアアアァア!!!!・・・サヨウナラ・・・・・・・・・)
ふう・・・。どうでしたか?