第6話 ≪速水なずな登場! 後編≫
「この変態めッ!」
と、さつきは青太に向かって怒鳴るように言った。
倒れた身体をゆっくりと起こした青太はもう自分の学校生活は終わってしまうのだとさとった。
DVDケース自体はゾンビのホラー映画だが中を開いてみれば、『つゆだくぺちゃぱい♡』というディスクが入っているのだ……。
もうおしまいだと思った。さつきのイタズラもここまで来たら、さすがにひどい。
青太は目を伏せて、最悪だとつぶやいた。
「え。何これ……?」
という、なずなの声が聞こえてくる。
そうだよな。学校にそんなDVDを持ってくるなんておかしいよね。そりゃあ、速水さんだって引くに決まってる。
「これ本当に安田君の私物なの……?」
「そうよ、あそこにいるヘタレで変態の安田青太君が自費購入した私物よ」
さつきはケタケタ笑いながら言った。
「安田君もホラー映画好きだったんだね」
「え?」と青太は目を開けて、上を見上げる。
なずなのスカートからのぞく水色のパンツが思いっきり見えた。
「さっき、わたしが言いかけてた休日に必ずやってることが、ホラー映画鑑賞なの!」
「…………?」
青太はきょとんとしている。
さつきは思いもよらない展開に焦っていた。
「いや、あのね! そのケース開けてみてッ!」
しかし、なずなはさつきの言葉が耳に入っていない。
青太をじっと見降ろしながら、「やっと……会えた」とつぶやいたかと思うと、サササっと階段をおりて青太のそばにかけ寄った。
なずなのたわわに膨らんでいる胸が青太のすぐそばまでやってきた。その大きさには存在感がある。
「安田君、ゾンビ映画好きなの?」
「……え、いや、まあ、その」
するとなずなは青太の手を包み込むように握った。
「!!!!!」
青太は顔が真っ赤になり、頭の中はパニックになってしまう。
その様子を見たさつきはあわわわわと口をパクパクさせた。「な、何をッ!」とさつきは動揺していたが、それを阻止する具体的な手段が思いつかない。
「安田君、ホラー映画好きなの?」
「え、あぁ……いや、え……」
「ちなみに、好きなホラー映画は何ぃぃぃ⁉」
「えええと、えと……あの」
「エトアノっっっ⁉⁉⁉⁉」
『エクトプラズムアンノーン』
さまよう魂の声を聞いた主人公はその魂に導かれるまま、殺人鬼になっていく様子が描かれた映画で、シリーズ化しており、5作目の製作が決定したことで話題になっている作品だ。コアなホラー映画ファンには定番であり、ホラー映画を語るうえで避けては通れない作品なのだ。
エトアノは略語である。
「うっわああ、まさか、この高校にエトアノを知ってる人がいるとは。ていうか、エトアノをわたし以外で好きな人間、生で見たの初めてなんですけどおっっ!」
青太は何が起きているのか理解が追いつかない。
「ち、違うんだ……」
青太は弁解するように眉毛を八の字にする。
「ええええぇえぇぇぇ〜!!!!! まさか、『血が生んだピエロ』も好きなのぉっっ!?」
「ご、誤解なんだって!」
「えええ!!!! 『5階アンデッド』も好きなの? あれは渋いよね。古い映画だけど、マジで怖いもんね! 5階の空き部屋にある死体が夜な夜な一階ずつ降りてくるってやつでしょ!!!」
青太は気絶しそうになった。
何を言ってもあっちで勝手にホラー映画のタイトルに変換してしまっている。
なずなに手をつかまれて、熱心に喋るなずなの顔は吐息の当たる距離で、なずなの顔にあるそばかすの色素がしっかりよく見えた。
「やばいねっっ! まさかこの学校にわたしと同じホラーオタクがいたなんて……諦めてたけど、まさか同じクラスにそんな人がいただなんてっ!!!!」
青太は困惑している。
そこでさつきが階段の踊り場から階段の中腹で寄り添っている青太となずなに喋りかける。
「いやいや、そいつホラー映画とか全然ダメだから、それにそのケースの中には……」
そこで青太はさつきの言葉をさえぎるために思わず言ってしまう。
「ぼ、ぼくもホラー映画が大好きです……!」
「は、はぁッ!?!?!?」
さつきは怒髪天をついたような怒りの形相となり、青太に向かって叫ぼうとしたら、そこでチャイムが鳴った。
キンコーンカーンコーン。
「お前ら早く教室行け。チャイム鳴ってるだろうが」と蛇村が校門の挨拶から戻ってきており、階段の下から上がってきた。
すると、さつきは渋々と言った様子で階段をあがり自身の教室へ帰っていった。
「ほら、速水、安田。お前らも階段でいちゃつかないで早く教室行けよ」
「いちゃついてなんかないって!」
と、なずなは青太にほほえみかけた。