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第4話 ≪速水なずな登場! 前編≫


 自転車をこぐ青太(あおた)だったが、リュックの中のDVDが気になって仕方がない。


 『つゆだくぺちゃぱい♡』のDVD。


 さつきからの誕生日プレゼントは青太にとって迷惑以外の何ものでもない。

 

 そもそもさつきは青太に喜んでもらおうなんて微塵も思ってはいなかった。


「DVDのことだけどさ」

 と、さつきはニヤニヤ笑っている。


 さつきと青太は自転車で並走しながら会話をしていた。

 吹く風向きによって、さつきから柔軟剤だろうか、カモミールのような爽やかな香りが青太の鼻をくすぐる。


「DVD、学校でばれないようにしないとね。変態って思われるよ」


「いい加減にしてくれよ……て、ていうか、はぁ……。はぁ……。さつき、ごめん、ちょっと自転車速すぎるんだけど……」


 青太は文句の二つや三つ言いたいところだったが、さつきのペースに合わせて自転車をこぐことが精いっぱいでそれどころじゃない。


 さつきと青太の距離は三メートル、五メートル、八メートルと徐々に離れていき、

 青太が赤信号に引っかかってしまったことをきっかけに、さつきは青信号を渡っていって距離は完全に離れてしまう。


 すると、さつきはそれを察して振り返って叫んだ。

「変態青太ァ! 先に行っとくからねぇ」


「お、おい……」


 青太は周りにいる数人の人たちの視線に目を伏せてしまう。


 さつきは自転車でぴゃあーっと駆け抜けていった。

 その際、立ちこぎしているさつきの自転車速度が勢いに乗っていたせいでスカートがはらりとはためいて、

 中から黒色の下着があらわになる。

 尻の部分がえぐれるような角度の卑猥な下着だった。


「さつきのやつ、な、なんてパンツはいてるんだ……」

 と青太は引いた。


 そして、青太はさつきよりは五分ほど遅れて学校に到着する。


 校門の前には、蛇村(じゃむら)がくたびれたスーツ姿で面倒そうな顔つきで立っていた。


「あい、おはよ……あい、おはよ」


 蛇村は面長で青白い顔をしており、もじゃもじゃのロン毛。


 脆弱な夢想家のようなミステリアスで脆い雰囲気があった。


 青太の担任教師で担当強化は現代国語だ。

 歳は三十代前半という噂だが、四十代との噂もある。


 校門前に立ち、挨拶をすることが教師の間でローテンションで組まれており、今週の当番はどうやら蛇村らしい。


「あい、おはよ……あい、おはよ」


 蛇村は門に入ってくる生徒たちに対し、機械的に挨拶を繰り返していた。


 それは当然、自分の受け持つクラスの生徒に対しても同様だった。


「お、おはようございます」と青太は言った。


「あい、おはよ……」


 青太は校門に入って駐輪場に進んで、自転車を停める。そうしていると、駐輪場から下足場へ歩いていると後ろから、リュックをポンポンと叩かれた。


「う、うぴゃッ」


 慌てて振り返ってみると、そこには日直のパートナーである速水なずながいた。


「うぴゃって、すげえ反応。安田君、おはよ」


 なずなはそばかす顔にポニーテール。首にはヘッドホンがかかっている。音漏れしており、かかっている音楽はイギリス発の有名なロックミュージックだった。


「え、あ、おはよう……」


 なずなはヘッドホンを耳につけなおし、

 スカートのポケットに両手を突っ込んでスタスタ歩いていく。


 なずなの背負っているリュックにはキーホルダーやバッヂやらがじゃらじゃらとついていた。


 青太はなずなの後ろ姿を見ながら、ああいうのをサブカル系と呼ぶのだろうか。それともロック系なのだろうか。と思い、トボトボ歩く。


 それにしても、リュックにはエロDVDが入っている……。

 それがばれないかどうか、心配でたまらなかった。


「あ!」

 と前の方を歩いていたなずなが声を上げた。


 周りを歩いている他の生徒は声を発したなずなをちらちら見る。


「そうそう、安田君って今日、日直だよね?」


 こちらに振り返り大声で言って、その場で立ち止まった。周りの生徒たちは下足場へいそいそと歩いている。


 青太は小走りをして、なずなのもとへ行く。

「そ、そうだよ」


「ミーティングがてら、教室まで一緒に行こうよ」


「え、えええ?」


 なずなはふっと笑う。なずなの息が青太の頬にかかった。


「一緒にって、その、ぼくと並行して歩くということですか?」


「いやいや、並行って言い方変だし、わたしに敬語を使うのはどうかな。わたしたちクラスメイトだし、しかも今日は同じ日直なんだから敬語って距離じゃないでしょ~」


 と、なずなは笑った。

 

 そのあっけらかんとした物言いに青太はきょとんとし、目をしばたいた。


「あ、ごめん」


「とりあえず、ミーティングその1として、ジャン負けした方が一限目終わりの黒板消し担当で」


「わ、わかった」


「いくよ。ジャンケン、ぽいっ!」

 青太は慌ててグーを出した。


 しかし、なずなは何も手を出していなかった。


「え?」

 と青太が不安そうになずなを見ると、

 彼女はブイサインを作って目の高さで横向きにすると、人差し指と中指の間からキラキラした目を見せて、

 芝居がかった口調で「わたしの負けだね」と言った。


「え、いや、でも……あと出しだし、負けてるし……」


「こういうのはさ、言い出しっぺが負けるってのが相場で決まってるの。わたしが最初にやるよ。そのあとは毎回、ジャンケンで黒板消し決めようよ」


「い、いや、交互でいいよ。みんなもそうしてるし」


「ダメ。わたしと一緒に日直やる時はこのルールでやろう」

 そう言ってなずなは少しイタズラめいた笑みを浮かべていた。


「…………っ」

 青太はそんななずなな明るさに気圧されてしまう。


 これまでなずなと喋る機会はほとんど無いまま、春と夏を過ごし、秋風に吹かれる今、出席番号のシャッフルによる偶然の日直当番で一緒になった。


 青太はなずなの華やかさに当惑してしまっていた。


 そして、青太となずなが並んで喋っている様子を、さつきは校舎二階の教室の窓から眺めていた。





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