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第1話 ≪青太、ゾンビにビビる≫



 コチコチコチ、と置き時計の秒針が小刻みに進んでいく。


 パジャマ姿の安田青太は勉強机の椅子に腰掛けて、メガネ拭きで眼鏡についた汚れを取っていた。

 そしてレンズがきれいになった眼鏡を装着し、机に置いていたテレビリモコンを握る。

 テレビゲームをするためだ。


「よし、今日は木の実を収穫していっぱいお金に代えるぞぉ~」


 青太が最近はまっているゲーム。

 動物が暮らしている島に移住し、そこの動物たちとコミュニケーションを取りながら、ほのぼのとした日常を送るゲームだ。そこで青太はイチジクを栽培しており、その実が一つ500円で売れるのだ。その実を売って、アイテムを買い、島に噴水のある公園を作るのが青太の目標だった。


 青太はワクワクしながら、リモコンの電源ボタンを押した。 


 しかしその瞬間予期せぬことが起きてしまう。


 なんと、テレビ画面には、頭が欠けて血が噴出し、目玉がびろ~んとこぼれているてゾンビが画面いっぱいに映し出されたのだ。


「う……うぴゃあああああああ!」


 どうやらテレビ放送でゾンビ映画をやっていたらしい。

 青太は大の怖がりで、高一になった今でも夜中に目が覚めるとお化けの有無について考えてしまう。トイレだって怖くて我慢してしまうこともある。


「ひ、ひぃ……」


 青太はテレビから逃げるように体をのけぞらせてしまい、椅子のキャスターが持ち上がってしまった。そしてそのまま後ろに倒れてしまう。


 ドシンッ!


「うぎゅぅ……」


 倒れた青太は「いたたた……」と腰をさすった。そしてテレビを消してしまおうと机の上のリモコンを取るために立ち上がろうとしたが……、なんと立てなかった。どうやら腰を抜かしてしまったらしい。腰に力が入らず、生まれたての小鹿のように震えた。


「ヴォオオエエエェェ……!」

 テレビの中でゾンビが叫んだ。その声に青太はびくんと肩を揺らす。

 仕方なしとリモコンはあきらめて、青太は這いつくばりながら、テレビのコンセントの差込口まで移動する。泣きそうな顔で這いつくばっている青太はまるで本当にゾンビから逃げる人間のようだった。


「ヴォオオエエエ!」 

「ひぃ……!」


 やっとの思いでコンセントまでたどり着き、勢いよくコンセントを抜く。

 するとブツンと音を立てて、テレビの画面は暗くなった。


「はあ……はあ……こ、怖かった……」


 青太の顔はぴくぴく痙攣していた。目じりには涙がたまっている。

 青太は幼い頃から根っからの臆病者で、夜に一人でトイレに行けるようになったのもごくごく最近のことだった。

 テレビのCMでホラー映画の宣伝が少しでも流れようものなら、チャンネルをすぐに変える。

 遊園地のお化け屋敷はもってのほかで、幼児がキャッキャ言いながら楽しめるようなお化け屋敷にでさえ入れない。


「うぐ……うぐッ……」


 青太は涙を流し、床に背中を預けて大の字になった。手の甲で目をこする。

 自分はどうしてこんなにも臆病なのだろう……。

 治したい気持ちは充分にあるのだが、怖いものを目の前にするとそれ以上何もできなくなってしまう。体の自由は利かなくなるし、思考はパニックになる。

 青太は自分の怖がりにうんざりしていた。


 青太はそこで手をのける。ふと視線の先には夜空に浮かぶ月があった。

 その月は小指の爪ほどの小さなものだったが、青太にはそれはとてもきれいで心を揺さぶられる何かがあった。


 と、その時だった。


 ブブブ、ブブブブブ、

 ブブブブブ、ブブブブブ。


 スマートフォンのバイブ音だった。

 すぐに止まらないことから電話だということが分かる。


「……電話?」


 青太はスマホをどこに置いたのか辺りを見回す。見るより聞く方が場所を特定するのに早いと判断したのだ。耳を澄ました。

 ベッドの上か!

 青太はヨチヨチとおぼつかない動きでベッドを目指した。

 そして、ベッドの上に手を伸ばそうとした時にバイブ音は止まる。

 スマホを手に取り、着信履歴を見ると≪冬ノ目さつき≫となっていた。


「さつきかぁ」

 と青太はつぶやく。


 冬ノ目さつきとは青太の幼馴染で、保育園の頃から一緒で、小学校・中学校、そして高校も同じところに通っている。また、青太の住むマンションのすぐそばの一軒家に冬ノ目さつきは住んでおり、幼馴染でありご近所さんとも言えた。


 青太はスマホをタップし、さつきに電話をかけた。

 画面には、さつきの顔写真が表示される。ロングヘアは明るい毛色をしており、毛先は内側に跳ねている。端正な顔立ちであるが、写真に写るそのイタズラな笑みは生意気さをはらんでいるように見える。


 ワンコールが終わらないうちに、さつきは電話に出て急に叫んだ。

「電話くらい一発で出なさいよッ!」


 青太は思わずスマホを耳から離す。

「ご、ごめん」


「ごめんじゃないわよ。わたしの声掛けを無視したことと同一なのよ。本当にノロマな男だね、青太は!」


「し、仕方ないだろ。電話に出られないことくらい誰だってある」


「あ」とそこでさつきは大げさな声を出した。「また、そうやって、誰だってあるとか言って自分の責任を転嫁した。青太って本当ずるいよね」


「な、何なんだよ。急に電話してきて早く要件言ってよ。ぼくはもう寝たいんだ!」


「ヴォオオエエエ!」

 と、急に電話の向こうからゾンビの声が響いた。


「う、うぴゃああああああ!」

 青太は心臓部分に胸を当てながら、落としたスマホを見ている。するとスマホからはさつきの豪快な笑い声が聞こえてきた。


 青太はスマホを取り耳に当てる。

「あんたって本当に臆病者だよね。その様子じゃ、今やってるゾンビの映画観て怖くなったんでしょ? アハハ、だっさ~い」


「要件を言えよ。もう電話切るよ!」


「アハハ、はいはい。要件ね。要件は明日言うよ」


「は? 今言ってよ」


「いや、明日一緒に登校しようよ。その時に話すから」


「え、一緒に学校行くの?」


「はァ? 何その態度。わたしの誘いを断る気ィ?」


「いやそうじゃないけど。珍しいこともあるんだなっと思って」


「まあね。実は明日、青太に怖い映画をプレゼントしようと思うの。あんた、明日誕生日でしょ」


「えぇ?」

 そこでブチリと電話は切れた。


 え? え? え?


 青太はプチパニックとなる。どういうことだ。何が起こったんだ。


 怖い映画? 怖いの? え、いやだ。いやだ。いやだ。怖い映画のDVDケースさえも触るのが怖いっていうのに、いやいやいや! やめてくれ。


 青太はそう思いながら、さつきに発信するが、コールが鳴り続けるばかりでさつきは電話に出てくれない。


 すると、さつきからメッセージが送られてきた。

 写真が一枚添付されている。

 写真を開くと、DVDケースが写っていた。


 それはゾンビ映画のジャケットで、頭が欠けており血がわき出ている白目のゾンビが映っていた。


「う、うぴゃああああああああああ……!」

 何でこんなことをしてくるのか。

 誕生日にプレゼントをあげるなら相手が喜ぶものをあげるべきだろう。と青太は思った。


 さつきはこれまでからも青太に対し様々な嫌がらせを行ってきた。

 心霊写真を見せてきたり、おもちゃの蛇を投げつけてきたり、動物園に行こうと誘われて心霊スポットにつれていかれたこともある。

 また今度は何をするつもりなのか。


 青太はうつうつとしながら、ベッドにもぐりこみ、布団にくるまって泣いた。

「うぅ……怖いよぉ~……」




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