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第11話 ≪下の名前で呼び合う≫



「もう一週間あとにすれば、31日のハロウィンに文化祭を開催できたのに!」


 高校から走って十分ほどの場所にあるハンバーガーショップのカウンター席に、青太となずなは二人並んで座っていた。

 青太(あおた)はソワソワしながら、周りから見れば自分たちはカップルに見られるのだろうかと考えた。


「あぁーあ! お化け屋敷に決まったのはいいけど、せっかくだったらハロウィンの日に文化祭したかったなあ」と、なずなはチーズバーガーをかじった。


 文化祭は10月24日の土曜日に行われる。

 その一週間後の開催であれば、31日のハロウィンにお化け屋敷ができたわけだった。


 なずなはそれを悔しそうに喋った。


「ハロウィンだったら、お化け屋敷だって迫力増すのにさぁ。そう思わない⁉︎」

 なずなの口元に赤いケチャップがついている。


 青太は「そ、そだね」と適当にあいづちを打って、ずれた眼鏡をなおす。


「ハロウィンは特別な日だよ。ホラー映画では、夏休みとハロウィンとクリスマスに人がいっぱい死ぬからね!」

「ヒィィィィィィ!」

「ハハハ。やっぱり、やすだっちょのリアクションいいよねー。そういうのホントいいなって思う」


 青太はそう言われたことに対するリアクションに困ってしまう。

「あ、ありがとう」


「まあ、ああだこうだ言っても、とびきり怖いお化け屋敷が出来るわけでもないし、やすだっちょ、私たちで最恐のお化け屋敷作ろうよ!」

 青太は叫び出して逃げたくなるのを抑えながら、「うん、そだね」と応えるのがやっとだった。

「だから、腹ごしらえが済んだら、心霊スポットへ行って恐怖に対する発想を高めよう」

「え、いや、ほんとに行くの?」

「そこってね、不思議な井戸があるところで空き地なんだけどその井戸の付近だけ気温が明らかに低いんだって」

「ぴゅおおおおおォォォォォっ!」

「ギャハハハハハ」

 なずなは爆笑した。

「そのリアクション何っ!? ヤバすぎるなんだけど!」

「きょ、今日はお化け屋敷のことを考えようよ」

「いやでも心霊スポットに行ってホラーに対するエナジーを高めようよ。準備運動みたいなもんだよ」

「で、でもとりあえず今日はお化け屋敷の概要というか、大枠について語り合おうよ」


 なずなは少し不満げに唇をとがらせるも、すぐにニコっと笑った。

「やすだっちょはお化け屋敷のテーマ、何かやりたいのある? 例えば、このホラー映画の設定をお化け屋敷にしたい。みたいな」

 と言ってきて、なずなは目をキラキラさせた。

 右隣に座っている青太の顔をじいっと見た。

「…………!」

 なずなの顔は青太の左肩のすぐそばまで寄っていた。彼女の目と鼻のあいだにあるそばかすが鮮明に見える。

 青太はどう返答すればいいのか、適当なホラー映画を言えばいいと思っても、これまでホラー映画なんか一本もまともに観たことがなかった。

 小学生が観るようなアニメのホラー回でさえも怖くて観れない。寝る時だって、真っ暗じゃダメなので間接照明なしでは寝られない。

 しかし、嘘を白状するにはもう遅かった……。

 なずなのキラキラした目が青太に罪悪感を与える。


「まあ考えとくよ……」

「うん! 楽しみにしてるよ」

「ちなみに速水さんは何か案があるの?」

「あのさ、わたしのこと、なずなでいいよ」

「……え、でも」

「わたしのこと下の名前で呼ぶのイヤ……?」

 なずなはぱちぱちとまたばきをした。


 青太の顔はぼわっと赤くなる。


「ねぇ、なずなって言ってみてよ」

「い、いや……でも」

「いいから言うだけ言ってみてってば」

「……な、なずな」

 と言ってみる。

「アハハハハハハ。そうか、どうせなら、お互い下の名前で呼び合おうか!」

「え!」

「やすだっちょは下の名前何て言うの?」

「……あ、青太」

「青太かあ。いいじゃん。青太ぁ! いいじゃん、なずなと青太!」

 青太は反応に困ってしまい、頭を掻いて下を向いた。


 すると、ふっと左耳に熱が来る。

 何かと思ったらなずなは青太の耳元で「青太ぁ」とささやいた。

 吐息が耳の中に入り込み、ぞくぞくと背筋がそぞってしまう。

「うぴゃあああああああああああああ!」

 青太は絶叫してしまった。

「ちょ、ちょ!」

 なずなは慌てて、周りの客席の視線を気にする。そしてペコペコと頭をさげる。

 青太は「な、何するんだよ」と前のめりの口調になる。


 すると、なずなはじっと青太を顔を見てからゲラゲラ笑い始めた。

「アハハハハッハ。やっぱり、青太って面白い!」

「……え?」

 青太は当惑してしまう。

「ほら、アメリカの映画館だと、スクリーンに声援を送ったり、ブーイングしたり、大げさなため息をついてみたり、アメリカの人ってリアクションがいいじゃん。それってさ、大事だと思うの。映画を観る時にそういうリアクションみたいなのって楽しくなる秘訣なんだよ。青太はそれがあるから楽しい」

「いや、ぼくの場合は……」

「青太のそのオーバーリアクション。めっちゃいい!」

 いや、これはオーバーリアクションじゃなくてナチュラルリアクションなわけで……。と言うこともできる。しかし青太は、なずなのその喜んでいる顔を壊したくなくて否定できなかった。

 青太はなずなの顔を思わずじっと見てしまう。


「リアクションがいい人と一緒にいるのは楽しいな。青太と一緒にホラー映画観たいな!」

 これ以上話が進んでいくと本当にホラー映画を観なくてはいけなくなると思い、

 それも勇気を出してみようかと思ったが自分は失禁する可能性がマジであると判断し、

 青太は話をお化け屋敷に戻すことにした。



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