第10話 ≪1年D組の出し物決定!≫
6限目が終わる。
結局、1限目終わりの黒板消し以降、すべての黒板消しを青太がやった。
青太がジャンケンに弱いのか、それともなずながジャンケンに強いのか、それは定かではない。
「はぁーい、じゃあ、朝に蛇村先生が言ってたアンケートやりまーす」
なずなは青太の腕を引っ張りながら、教室の前の教卓に二人並んで立つ。
教室がざわざわとしながら、徐々に二人に注目していった。
青太はドキドキしていた。
みんなが自分を見ていると思うと、視線をどこにやればいいのか、唇が少し震えてきた。
自分の手を自分の手でぎゅっと握る。
「………………」
「それじゃあ、今出ている案を黒板に書くから、一人一票投票して決めよう!」
すると、クラスの男子の一人が言う。
「いやいや、たこ焼きでいいじゃん。ポン酢マヨやろうよポン酢マヨ!」
その声を皮切りに運動系の部活をしている連中が、「ポン酢マヨ! ポン酢マヨ」というコールになる。
「静寂!」
と、なずなは叫んだ。
「静寂にしてってば! 静っ!」
「みんなぁ~、たこ焼きは醬油で食べても美味しいんだよぉ?」
クラスはしーんとなる。
「それじゃ、投票用紙を配布するゾ!」
なずなは指パッチンをした。
すると、青太がふるふる震えながら、教室を練り歩き、一人一枚、紙の切れ端を置いていく。
なずなはくるっと半回転して、黒板に『1.たこ焼き』『2.お化け屋敷』『3.メイド喫茶』『4.読書感想文』と書いた。
「やりたいものの数字を紙に書いてください」
なずなはニンマリと素敵な笑顔をしてみせた。
青太はその隣でびくびくと目を伏せる。
「は~い、終わった人からぁ、このボックスに入れてくださ~い」
サダナオは正方形の紙箱を持っており、上の部分が丸く穴が開いている。そこから用紙を入れるというものだった。
蛇村が終わりのホームルームをするために教室にやってくると、すでに投票の開示は終わっており、『2.お化け屋敷』が勝っていた。
「おおー。お化け屋敷か。文化祭っぽいなあ」と言った。
「蛇村せんせ、ちゃんとスムーズに決めることができたよぉ~」
「そうか。はいはい。じゃ、準備とかちゃんとみんなでやれよ。お疲れさんでした」
と、蛇村はそれだけ言って教室を出ていく。
滞在時間は6秒だった。
運動系の部活をしている男子がなずなに詰め寄っている。
「おい、おかしいだろ! 運動部は25人いるんだぞ!」
「でもこれが結果だからさ」となずなは笑う。
結果は……
『1.たこ焼き』14票
『2.お化け屋敷』19票
『3.メイド喫茶』6票
『4.読書感想文』1票
「速水、お前絶対に不正かましただろ! おれたちが書いた『1』どこかに隠して、『2』を足しただろ!」
ポン酢マヨコールを引き起こした男子がそう言う。
しかし、なずなは余裕の表情で『1』と書かれた投票用紙をぴらっと見せた。
「じゃあ、証明してよ。例えば、この『1』の用紙は誰が書いた1か分かる?」
「……は、はぁ?」
「ただの一本線だけど、誰がどれを書いたか区別つく?」
なずなは「グハハハハハハハハハ!」とまるで魔王の笑い声のように野太い声を出した。
ポン酢マヨ男子は、「マジ何だよこいつ。やられた」と笑う。
こうして、1年D組の文化祭の出し物はお化け屋敷となる。
青太が帰り支度をしていると、前の席にいるなずなが振り返り、親指を立ててグーサインをしてきた。それに対し、青太は苦笑いで応対する。
簡単な仕組みだった。
箱の穴は袋につながっており、投票用紙はすべてその袋の中に入る。
しかし、なずなは事前にその箱の中の袋以外の場所に、大量の『2』を仕込んでおいたのだ。そして、一枚一枚開票しながら、一枚捨てて、『2』を足し入れれば勝てる。
アホみたいな仕組みだったし、現にポン酢マヨ男子には不正を指摘されていたから、あとはもう開き直りがどれだけできるかというところで、なずなは勝ったのだ。
「やったね。やすだっちょ! わたしたちのお化け屋敷!」
「あ、ああ……そ、そうだね」
「ていうか、やすだっちょって部活やってないよね?」
「え、まあ、うん」
「このあと、ヒマ?」
「え?」
「わたし、今日バイト休みだし、ちょっと一緒に行きたいところがあるんだけど」
「……ど、どういうこと?」
すると、なずなは恥ずかしそうに、少しうつむき加減で頬を赤らめた。
「え? え?」と動揺する青太。
なずなは思い切ったように、青太のそばにかけよると、青太の耳に顔を近づけた。
そして、吐息がふうっとかかりながら、
なずなは言った。
「心霊スポット行こ♡」
「…………!!!!」
青太はガクブルで冷や汗が滝のようにあふれ出てくる。
い、今から、……心霊スポットぉぉぉぉ!?!?!?!?!?!?!?