異世界チート主人公が、普通の現実世界に転生しました!~社長令嬢と仲良くなって、目指せヒモ生活!?~
俺の名前はイッサイ。
元々は引きこもりニートで、異世界チートのネット小説を読み漁る毎日を過ごしていた。
きっかけは些細なことだった。イジメの順番が、たまたま俺の所に回ってきただけ。SNSのグループを外され、学校で無視されるようになった。まるでそこに何もないかのような、虚ろな目に囲まれた。
もちろん、当時の俺としてはそれなりにショックだったわけで、登校拒否したら辞められなくなった。それだけのことだ。
そんなある日のこと━━ただの気まぐれだった。引きこもってから1000と12日の記念日と題して、外に出た。
自宅前の空気は、3年前と変わらず俺を出迎えてくれた。濡れた早朝の道路から、濃密な雨の香りが沸き上がってくる。
━━ギャギャギャギャ!
5分ほど歩いた時だった。交差点のカーブを曲がり損ねたトラックが突っ込んできた。相当なスピードが出ていたんだろう。俺は20メートルほど吹っ飛ばされて、あっけなく死んでしまった。
気づいたときには、俺の大好きなファンタジー世界に転生していた!
ステータス画面完備! ステータスALL MAX! スキル『天地創造』! そして超イケメン!!
その後は皆さんご存知、異世界チートのお時間だ!
勇者としてチヤホヤされ、旅先で沢山の可愛い女の子と出会い、イチャイチャしながら、何だかんだで魔王を倒し、王位を譲渡され、国の全てが俺のもの!
戦争で疲弊した国も、現代知識を与えて華麗に復興! 儲けた金でやりたい放題!
王女も、エルフも、魔女っ子も、ネコミミ娘も、騎士娘も、メイドも……みーんな俺のことを好きすぎて、俺しか見えてない。
異世界チート最高!!
IQを溶かされるような毎日を過ごしていた俺は、皆を引き連れて外へ出た。何てことはない、ただの日課だ。
━━5分ほど庭を散歩した時だった。魔女っ子が呟く。
「イッサイ様、魔力震を感知したよ」
「魔力震?」
「あそこ」
空を見ると、バカでかい魔方陣が浮かんでいた。
「なんだ? 次の魔王か?」
「分からない」
クックックッ、運のないやつだ。俺を誰だと思ってる。
「スキル発動! 『天地創造』!」
俺の全身は、青い結晶でできた鎧に包まれる。そして手には派手な装飾を施された片手剣が出現した。
これが、俺のスキル『天地創造』で造り出した、聖剣エクスカリバーとオリハルコンの鎧だ。
チートステータスにチート装備が合わさり最強に見える。これでどんな敵も、一振りで倒してきた。
「少しは歯応えがあるといいけどな」
余裕の笑みを浮かべてみせる。
「イッサイ様なら大丈夫ですわ!」
「キャー、イッ様かっこいい!」
「火照ってきちゃったわ、抱いて!」
女の子達から黄色い声援が飛ぶ。
魔方陣から顔を出したのは━━
トラックだった。
忘れるはずもない。俺を異世界送りにした、あのトラックと同じだ!
魔方陣から顕現したそれは、重力に従い、真っ直ぐ俺に向かって落下してきた。
「ふ、お前には感謝している。最高の世界を与えてくれたのだからな」
右手に構えた聖剣、エクスカリバーが金色に輝きだす。
「だが、この世界にお前はいらない! 塵1つ残さず、消滅させてやる!!」
俺が剣を振ると、極太のビームが放たれ、トラックを包んだ。
勝ったッ! 第2部完!
━━すると、システム的な音声が頭に響いた。
“スキル『絶対防御』が発動しました。能力は無効化されます”
トラックは減速することすらなく、俺に突っ込んできた。
「お前もチート持ちかよぉ!?」
自分の力を過信していた俺は、再び、あっけなく、異世界チートトラックに押し潰されてしまった。
“スキル『絶対転生』が発動しました。さようなら、勇者”
奇しくも、転生してから1000と12日の朝のことであった。
「━━ねぇ、ねぇったら! もしもーし、生きてますかー?」
体を揺り起こされる。
「んん……おいおい、起こすときは目覚めのチューでって言ってるだろ?」
「は、何言ってんの、キモッ……」
「ねー、ハス子。やっぱり救急車呼んだほうがよくない?」
「それより警察じゃない? 頭おかしいよ、こいつ」
ん、何かおかしいぞ。俺のハーレム要員達が、そんなこと言うわけがない。
目を開けると、JKぽい子達に囲まれていた。
「あ、目覚ました」
「ほら、大丈夫そうだって。もう行こうよ」
んんん??
なんだ、ここは。横たわっていたのは木製のベンチ。周りには等間隔で置かれた並木に生け垣、自動販売機に電灯……。
まさかここは━━
「日本、なのか?」
「当たり前じゃん、何言ってんの?」
じゃあ、俺は戻ってきたのか、元いた世界に。
まぁいいか。俺は、昔の俺とは違う。この体を包むオリハルコンの鎧も、そう言っている。
「光栄に思え。君を、この世界における俺の嫁、第1号にしてやろう!」
「は?」
「ほら、やっぱりヤバい奴だよ。逃げようよ!」
「ハス子、ナンパされてんじゃん。ウケる」
JK達の目が、蛆虫を見るような目に変わる。
「ふん、これを見てもそう言えるかな?
スキル発動! 『天地創造』!」
━━周囲は静寂に包まれた。
「おい、ステータス! どうなってる!?」
ステータス画面を起動することはできた。できたのだが……
「全ステータスが1桁!? 20桁は違うだろ!
スキル『無し』ってどういうことだよ!?」
流石のJKも、どう対応したらいいのか言葉に詰まったようだった。
「オーケー、分かった。とりあえず、あたしからアンタに答えをあげるわ」
ハス子と呼ばれた女が、口を開いた。
「あたし、あんたみたいに空っぽな人間が一番嫌いだから」
空っぽ? 俺が、空っぽ……?
こいつが俺の何を知ってるって言うんだ。
「ステータス」
JKのステータスを覗き見る。
え、全ステータスが3桁あるんだけど。俺の数十倍!?
職業、大企業の社長令嬢!?
「まぁ、これからはそんなコスプレしてないで、真っ当に働きなよ」
くるりと踵を返すと、その場を立ち去ろうとする。
ついさっきまで世の頂点に君臨し、全種族から称賛され、羨望の眼差しを向けられていた俺が、この扱い?
「へっ、おもしれー女」
立ち去るハス子を追い越し、前に立ちはだかる。
「俺を雇え。後悔はさせん!」
宝くじで大金を当てた人間が豪遊すると、元の生活に戻れず破滅するように━━
━━異世界で贅の限りを尽くしてきたチーレム勇者に、まともな思考などできようはずがなかった!
(なんやかんや言いくるめて、俺に惚れさせ、ヒモになってやる!)
俺は仁王立ちで、彼女達の進行を防いだ。
ハス子は大きくため息をつくと、スマホを取り出し、電話をかけ始めた。
「あ、もしもし━━」
なるほどな。この年齢なら親の確認は必要だろう。素直に電話をかけるなんて、なかなか見込みのあるやつだ。
「警察ですか?」
現在のところ単発予定です。気が向いたときに、続きを書きます!