表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

世界の終わりの原因は

作者: てこ/ひかり

 真夏の星空に、UFOの大群が並ぶ。

 飛び交うサーチライトと人々の悲鳴が交錯し、ニューヨークの街は、今や阿鼻叫喚の地獄と化していた。


「逃げろーッ」

「また攻撃が来るぞ! 早く!」


 交差点ではそこら中で玉突き事故が起こり、半壊した高層ビルは、灼熱の炎に染められていた。そんな地上での光景をあざ笑うかのように、UFOの開閉パッチから、黒マントを羽織ったトカゲのような男が姿を現した。トカゲ男は右手に持っていた橙色の宝石を掲げると、何やらブツブツと唱え始めた。


「マズイ!」

 それを見ていた赤いマントの少年が、上空を指差して叫んだ。隣にいた青いマントの少女が、今にも泣き出しそうな顔で叫んだ。


「Dr.ティラノの奴、パワーストーンの力を全解放する気だわ!」

「そうするとどうなる!?」

「……世界の、終わりよ」


 青マントの少女……ニンジャ・ブルー……の言葉に、ニンジャ・グリーンは目を丸くした。


「ンだって!? そんな、じゃあ早く止めねえと……!」

「レッド! みんな見てください、これ!」

 その隣でノートパソコンを睨んでいたニンジャ・オレンジが、丸眼鏡を光らせながら鋭く叫んだ。オレンジが掲げた画面には、極彩色に彩られた世界地図が浮かんでいた。


「……NYの放射線量が、奴らの出現によって格段にアップしています。それだけじゃない。呼応するように、世界中の主要都市で同じような現象が……」

「どう言うことだよ!?」

「それってつまり……」

「これはいよいよ、この世の終わりって感じですね」 


 ニンジャ・オレンジの言葉に、その場にいたチームの誰もが言葉を詰まらせた。ニンジャ・パープルが両手で顔を覆い、唸り声を上げた。


「なんてこった! 見ろ! マンホールから水が溢れて、道路が水浸しになってやがる! 靴がビショビショだぁ!!」

「靴がビショビショ!?」

「それってつまり……」

「破滅だ! 世界の終わりだよ!」


 泣き出すパープルの横で、レッドがとうとう膝をついた。


「おいレッド!?」

「そんな……! こんなことになるなら、もっと鍛えておけば良かった……」

「レッド……」

「正直に告白すると、僕は今朝も起きた時歯を磨かなかったんだよ。一秒でも多く寝ていたかったんだ。こんなことになるなら……」

「朝起きた時、歯を磨かなかったですって?」

「そうすると、どうなるんだ?」

「もうダメだぁ! 世界の終わりだよ!」


 崩れ落ちるレッドの首根っこを捕まえて、グリーンが叫んだ。


「……諦めんなよリーダー! 俺なんてな、昨日ワックスつけたまま、風呂にも入らずに寝ちまったんだぞ。おかげでこの真っ只中に、髪がめっちゃゴワゴワするわ!」

「え!? ワックスつけたまま頭洗わなかったの!?」

 ブルーが驚いたように口元を手で覆った。


「そんな……それってもう、世界の終わりレベルじゃないですか!?」

「うるせえ!」

 グリーンが怒鳴った。

「お前にもあるだろ……」

「え?」

「お前にも、何かあるだろうよ。『こりゃ世界の終わりだ』って思えるようなことが……何かねえのか? 俺たちゃ、チームだろうがよ!」

 グリーンの言葉に、ブルーとオレンジが顔を見合わせた。


「私は……」

「そういえばボクは、数年前に買ったミネラルウォーターが、段ボールに入ったまま裏小屋で賞味期限切れてましたね」

「嘘だろ!?」

「そんなのもったいなさすぎだろ! 世界が終わっちまうよ!」

「待って!」

 全てを投げ出そうとするメンバーに、ブルーが叫んだ。ブルーの合図で、崩れ行く街並みを背景に、五人のニンジャたちがスクラムを組んだ。


「みんな聞いて。そりゃ私も……あるわ。えぇ、『世界の終わりだ』って思えるようなことが。そんなのしょっちゅうよ。こないだなんか、社会の授業と間違えて、数学の教科書持って来ちゃったし……」

「えぇ……!?」

「マジかよ……」

「昨日だって、楽しみにしてたcomicの続き、ケイシーから挨拶がわりにネタバレされちゃったし……」

「げえっ」

「ブルー……貴女って人は……!」

「だけど……だけどまだ、世界は終わってない!」


 ニンジャ・ブルーが全員を見渡し、力強く言い放った。


「私だって、毎日死にたくなることばっかりだけど……世界はまだ終わっちゃいないわ!」

「あぁ……」

「言われてみれば……」

「じゃ、じゃあ……発売日にゲームが買えなくても……!?」

 戸惑うパープルに、ブルーがほほ笑んだ。


「えぇ、世界は終わらないわ」

「”推し”に彼女ができても?」

「終わらないわ」

「生きがいだったドラマが、最終回を迎えても?」

「終わらないのよ」

「毎日のように、殺人だとか、詐欺だとかクソみてえなニュースが飛び交って……それでも俺ら、まだ生き続ける価値があるってかい?」

「そうよ、それで世界は『終わり』じゃないもの」


「じゃ、地球温暖化が進んでも?」

「次いつ地震が来るか分からなくても?」

「贔屓のラグビーチームが、歴史的惨敗を喫しても……」

「もう一生、治らない病気にかかっても……」

「たとえば好きだったミュージシャンが、ドラッグに溺れていたと分かっても?」

「たとえUFOが、NYの空を埋め尽くしても……!?」


 五人は顔を上げ、機体に隠れ星の見えなくなった空を見上げた。

「まだ『終わり』じゃない……か」

 レッドはそう呟くと、やがてその両目に光を取り戻し、できるだけ歯を見せないようにして皆に笑いかけた。


「……行こう! 俺たちの世界を、終わらせないために!」

「「「「……おぉ!!」」」」


 レッドの掛け声で、五人の手が力強く天へと突き上げられた。半壊していたビルが、大きな音を立てて崩れ落ちる。遥か上空では、トカゲ男が不敵な笑みを浮かべ、橙色のパワーストーンを掲げた。それでも五人のニンジャたちは怯むことなく、NYの空へと駆け出して行くのだった……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] パニックじゃないじゃん!ってツッコミました。 >できるだけ歯を見せないようにして皆に笑いかけた。 ここ、サイコーです! こういうテイストで笑わせつつ、メッセージも入れられる。 お見事で…
[良い点] 世界が終わるも終わらないも気の持ちようって事ですね。 五人のニンジャさんたち、勇気をありがとう。そして地球を救ってくれ(笑) [一言] ゲラゲラコントの「花嫁」もそうなんですが、これもコン…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ