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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
89/186

第89話 ▶来ル

 時を同じくして。


 ばさり、と海の上を何かが通った。その数、三。みな一様に黒い翼を生やし、目的の場所に向けてそれをはためかせている。


 紅一点である少女は、口をへの字に曲げて言った。


「で、いつになったら桃神郷は見えてくるわけ? ビドゥ! アタシ、疲れてきたんだけど」

「そう言うなよお嬢さん。カリカリしてると嫌われちゃうぜ?」


 ビドゥと呼ばれた筋骨隆々の男は、意味深な笑みをニヤリと浮かべる。


 果たして含意を理解したのか、女は顔を真っ赤にして声をあげた。

「うっさい! あんたに言われなくたって、ダァトはアタシに夢中なのよ!」

「わーってるって。冗談だよ、冗談」


 少女は金色の髪をかきあげて鼻息を吐いた。くりっとした瞳はせわしなく動いている。

 なにか言い返してやろう、と少女は唇を尖らせた。


「第一、ビドゥ! あんただってこの前、新入りの桃太郎にシバかれてたじゃないの!」

「フッ。それは違うぜ、お嬢さん。あれはダァトがちゃんと船に忍び込めたかを確かめていたのさ」

「シバかれてたじゃないの!」


 ぴきぴき、とビドゥの浅黒い顔に青筋が立つ。

「だーっ、うるせえよ! あん時はちょびっと油断しただけだ。それに、どう考えたってあいつの強さの方が異常だったぜ。お嬢さんだって見てたろ、動きが新人のそれじゃなかったっつーの!」

「逆ギレとかカッコ悪いわねえ。『吉良三連星』の名が泣くわよ」

「なんだとー!」


 海上を飛行する二人の間で口喧嘩が勃発。それを、残った白髪の青年が一喝する。

「戯れるな馬鹿ども。黙ってダァトの映像を確認し、襲撃に備えろ」


「チッ、わーってるよ、トロア」

「気に入られてるからって、リーダー面しちゃってさ」


 愚痴をこぼしつつも、二人は正面に視線を戻す。広がるのは青い海ばかりだ。

 それと、もう一つ。彼らが意識を飛ばすことで視界にウィンドウが現れる。


 映っているのは、桃栗祭の目玉。ランク対抗戦決勝戦の様子だった。


「なんだよ、思ったより善戦してるじゃねえか」

「でも、あのトロアみたいな黒コート男も中々の手腕よ。如意棒みたいな武器も持ってるし、これはダァトのピンチね……っ」


 思いのほか()が闘えていることにビドゥは驚き、戦局を冷静に分析する少女。

 トロアと呼ばれた白髪の青年は、不敵な笑みを口元にたたえた。


「ランク対抗戦……実にいい機会だ。直々に手を下すまでもなく、自分たちで負傷し合ってくれるのだからな」

「トロア、顔、コワッ」


 金髪少女のツッコミなどどこ吹く風、トロアは先ほどまでのクールな表情を捨て、残虐に嗤った。

「愚かなものよ。ツワモノとされている桃太郎は、現在大なり小なり消耗している。そこを根こそぎ潰せばやつらの戦力は大幅ダウンだ。運が良ければ、語り手もわが手で……ククク」

「あーあ、聞いてないわねこりゃ」

「いいじゃねえか、お嬢さん。トロアが好き勝手やってんだ、俺たちも好きにやろうじゃんか」

「それもそうね!」


 三人は各々の思いを胸に、地図には記されていない孤島を目指す。


 頭部に生えた二本の角。

 彼らは死神でなければ悪魔でもない。


「もうすぐ迎えに行くからね、ダァト」

「アンジュ。やつの人間名はダァトではなく……」

「わかってるわよ! あんた、ほんと教師には向いてないわね」


 アンジュと呼ばれた金髪の少女は、両手を自身の胸に当てた。


「待っててね、唯人(ダァト)……! もうすぐ行くからっ」


 恋する乙女、アンジュ。

 力自慢の筋肉漢、ビドゥ。

 冷静沈着な青年、トロア。


 彼らは日常に潜む闇、鬼である。

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