第7話 ▶最強の男
あらすじ:男装女子と黒コートのガチバトル
「では、これより我孫子真津璃 と独守備然 の『決闘』を始める。両者、準備はいいか?」
紅の着物幼女、鳥子がフィールド上で対峙する二人を見る。
「僕はいつでも行けるぞ」
「こちらも問題ない」
真剣な目で睨み合う二人。エキシビションだってのに、どちらも勝ちを譲る気はなさそうだ。
その戦意に満足したらしい、鳥子はうんうんと大きく頷いた。
「いいじゃないの、二人とも。あたし、そういうノリは嫌いじゃないわよ。じゃあ、お互い全力を尽くしなさい。レディー……」
二人の姿勢が低くなり、手は腰元の刀に添えられる。
「ファイッ!」
跳躍。ダボダボの格好をした美少年と、ポケット盛りだくさんの黒コート男が動いたのは同時だった。
カキンッ、と中央辺りで木製音。いきなりの唾競り合いだ。
「う~む。さすが、真津璃殿。ワガハイの見込んだ男だな」
試合に見入っていると、緊張感の削がれる声が後方から聞こえてきた。
振り向くまでもない。ので、振り返らない。
「ゴーマン。お前も真津璃と闘ったんだってな?」
「いかにも。唯人殿、貴様も見ているはずなのであるがな」
記憶にねえなあ。
一歩も譲らないのは剣戟においても同じらしい。ただ、感情剥き出しの真津璃は少しばかり危なっかしい。
「くうっ! あんた、さっさと退きなさ……退けよ!」
「あいにく、そういうわけにもいかない」
備然のやつ、眉一つ動かしてないぞ。気色悪いやつだな。
「ぬぬ……。やはり、そう簡単に独守備然は倒せないであるか」
「知ってるのか? あいつのこと」
ぬがあっ、とゴーマンは大きく口を開けた。
「知らないのであるか、独守一族のことをっ」
「存じ上げないな」
どっかの金持ちのお坊ちゃんとかか? 確かにそこはかとなく気品は感じるが……
「独守一族ってのは、代々鬼狩りとして知られる名家である。戦闘面に関してはもちろん、知識や心理戦にも長けた化け物なのであるな」
鬼狩り、か。
戦局が動いた。備然が押し切り、追撃にかかる。真津璃は辛うじて防御に転じたが、このままでは防戦一方だ。
あの、鬼を圧倒した真津璃が、押されている。
「……そいつは知らなかったな。でもよ、鬼狩りと桃太郎ってのは何が違うんだ。どちらも鬼を倒すのが目的なんだろ?」
「いかにも。討つべき相手こそ同じであるが、古来より犬猿の仲らしくてな。これまで鬼狩り出身の桃太郎はいないはずだ」
それまた奇妙な話だな。
と、おしゃべりしている場合ではない。バトルは圧倒的に真津璃が不利。ムッツリ野郎の独壇場だ。
この辺りで盤面をひっくり返したいところだが……。
「どうした、『22』番。さっきまでの威勢は?」
「うっさいな! わた……僕は我孫子真津璃だ。鬼狩りなんかに負けてたまるかっ!」
ほう、と備然が目を丸くする。
「私のことを知っていてなお、真剣勝負に臨むか。これはあくまで実践演習。先程の小学生のように、力を隠すのも一つの手だと思うが?」
「黙れ! 僕はあんたら鬼狩りが嫌いなんだよっ」
防御からそのまま鋭い突き。
真津璃のカウンターが決まった。
「うむっ、いい切り返しである!」
突きは腹部へ。模造刀といえど、痛いものは痛いだろう。思わず備然も後ろに二歩下がった。
そして、その好機を見逃す真津璃ではない。
「そこだぁっ!」
追撃の一閃が備前を襲う。模造刀特有の、鈍い音がした。真津璃は小さく舌を打つ。
「ちっ、『虹ノ刻 』とは行かないか」
キザ野郎の体勢を崩すチャンスだったが、まだやつは二本の足で地に立っている。必殺技は不発に終わったわけだ。
「……見事なものだな。ゼロからここまで仕上げてくるとは」
賞賛する備然を真津璃が襲う。しかし、そのことごとくが刀に防がれている。
「なあ、ゴーマン。あの黒コート野郎が鬼狩りの一族なら、真津璃は何なんだ」
「何、と言われても困るのである。一般家庭の育ちであろう?」
ならば、あいつは我流でここまで強くなったのか。生まれも育ちも関係ない。鬼をぶっ倒せるほどの強さを、鬼狩りにも食い下がる強さを……なぜあいつは持っている?
ギリッと真津璃は腰を落とす。
「……もし、あの時。あんたら鬼狩りが来てくれていたら、僕の家族はっ!」
備然の間隙を縫うように、一振り。懐を突かれた黒コート野郎は派手にぶっ飛ばされる。
今度こそ、ダウンだ。
「いよっし!」
歓喜の雄叫びをあげたのは、俺か、それともゴーマンか。思わずハイタッチなんてしてしまう。
完璧に仕留めた。
はずだった。
「──そうか。キミの家族も、身勝手な鬼狩り共のせいで」
仰向けで倒れながら、よくわからないことを呟く備然。もちろんカウントは続いている。
九、と鳥子が口にしたところで起きあがると、備然は天を仰いでこう言った。
「キミのような人々に贖罪するため、私はならねばならないのだ。誰よりも強い、桃太郎に」
「何のことだ!」
突貫する真津璃の刀が、備然のそれと激しくぶつかり合う。
二度目の鍔競り合いだ。
「最初はちと辛かったが、備然殿は先程ダウンしたばかりっ。今なら行けるのである!」
そう。俺もそう思っていた。
実力は拮抗している。今なら打ち勝てる、と。
だが、俺たちは見誤っていた。
「……深薙 」
独守備然の実力を。
己の目を疑うのは、今日、何十回目だろうか。しかし、今回ばかりはベクトルが違う。
真津璃の身体がフィールド外に吹っ飛ばされていたのだ。まるで、腕に付いた虫でも払うかのように。
「真津璃っ!」
考えるより先に身体が動いていた。倒れているやつに近づき、顔色をうかがう。美少年の整った顔が、いとけない女の子のそれに見えた。
「あっ、……えーっと」
主審の鳥子もいまだに状況が呑み込めていないようだ。観戦している連中も静まり返っている。
「しょ、勝者、独守備然っ」
化け物。
そう形容するにふさわしい、最強の男がそこにいた。
ゴーマンで変換するとGO万になるのはなんなんですかね




