第44話 ▶天地開闢フェスティバル
あらすじ:鉄蛇をたおした!
もう無理。疲れた。身体もだけど、主に精神的に。デッドオアアライブなチキンレースだ。そりゃもう、神経が擦り減るかと思った。というか擦り減った。擦り切れた。もう無理。
「おーい、唯人! よくやったぜー!」
鉄蛇をげしげしと蹴りつけながら、ジョーが労いの言葉をくれる。調子のいい坊主頭だ。しかし、やつの持つ『磁力バット』が無ければ今頃二人ともお陀仏だった。しばらく動けそうにないな、この調子だと。
……それにしても。
「よくあの鉄蛇を一人で仕留めたよな、ジョー」
「あ? なんの話だ」
「なにって、自分で言ってたじゃねえか。一度お前が倒したところを、俺が再起動させちゃったんだろ? 床のスイッチを踏んだとかなんとかで」
「……ああ。そうー……だったな。うん、そうだ」
歯切れの悪いこの応答。さっきも一度覚えた違和感だったが、もしかして。
「おいジョー、イエスかハイで答えろ。俺が来る以前に鉄蛇を倒したってのは嘘だな?」
「いぐざくとりぃ」
「よし、一旦そこに構えろ」
薄々そんな気はしていた。いくら相性のいいからくりを持っていたとはいえ、あの化け物を一人で相手するなんて不可能だ。少なくとも、常人には。
「いやー……悪かったよ、唯人。明らかにヤベェ敵が出てきたもんだからさ、オレも死んだフリをしてやり過ごしてたんだよ。五分ほど」
結構やり過ごしてたな。
「で、必死に命乞いをしていたら、だんだん足音が近づいてくるじゃねえか。そこでオレは一芝居打ったわけだ。お前をりよ……協力してもらうためにな」
利用って言いかけたな、今。
「そんなこと言わなくても協力してたっての。隣人同士のよしみだろ? 水くせえじゃねえか、ジョー」
「ビ、ビリビリさせてくれるぜっ。それでこそ唯人。オレの見込んだ男だ!」
ヤンキー座りでしゃがみ込み、バンバンと俺の肩を叩くジョー。とても痛い。
「しっかし、意外だったな。スイッチ踏んだだろ、って言いがかりのつもりだったんだが、まさか本当に唯人が踏んでいたとはな」
「……あ」
忘れていた。
そう。ジョーの発言が嘘だったのなら、本来なにかしらのトラップが発動しているはず。けれども心当たりはまるでない。結局、俺の踏んだスイッチはなんだったんだ?
▶▶▶
「ああああああああ!!」
唯人たちが鉄蛇を倒す少し前。彼と別行動をとっていた真津璃は、前触れなく降ってきた鉄球に追いかけられていた。
(な、なんでいきなりこんな目に遭うのよ! 私、怪しげなスイッチでも踏んだ? いや踏んでない! 意味わかんない!)
到底女子があげないであろう汚い悲鳴をあげながら、真津璃は死にものぐるいでひた走る。
(どうして上り坂なのに追ってくるのよ!)
物理法則を堂々と無視した鉄球は、執拗に彼女の尻を狙う。幅はぴったりと道のサイズに合っており避けようがない。
(……というか、なんで私がこんな目に遭わないといけないの? おかしくない?)
降りかかる理不尽に真津璃は怒りを覚えた。なぜ、自分が。そう考えるとだんだん腹が立つ。どうせどこかの馬鹿がスイッチを踏み、自分はそれに巻き込まれているのだ。そう結論づけた彼女は、逃げることを辞めた。
ザッと振り返り、上ってくる鉄球に真津璃は刀を抜く。
「『虹ノ刻』!」
怒りが籠った渾身の一閃。コォン、と少し間の抜けた音がする。進行は止まったが、真津璃は違和感を覚えた。
(鉄の感触にしては軽すぎる。これは本当に鉄球なの……?)
上りも下りもしない鉄球を、真津璃はこつこつと拳で叩く。彼女の見立て通り鉄ではなかった。材質はコンクリート? それともまさかのプラスチック? 真津璃がノックを続けていると、パキリと鉄球に亀裂が走った。それは次々と周囲に広がり、やがて孵化するように球が真っ二つに割れる。
「どぅわあああああっ!」
「……あ?」
真津璃は開いた口が塞がらない。中から出てきたのは普通の人間。頭に鉢巻をしているところを見るに、生徒の一人だろう。どういう理屈でこの中にいたのかはわからないが、一応真津璃は声をかける。
「ちょっと、大丈夫……か?」
口調を男に戻しながら尋ねる。「ん?」と声を被らせたのは寸分たがわず二人同時だった。
「あれ、あんた……」
真津璃が指を指した相手に、彼女は覚えがあった。中肉中背のこれといった特徴のない高校生……。
「俺の名前は天地白夜! 我孫子真津璃、お前の首を討ち取る者だっ」
「……ああ、知ってる」
彼女は思った。ゴーマンといい、この男といい、どうして自分には変な男ばかり寄りつくのかと。だが、こんな時にあいつがいないのは少し新鮮だ。
(別にいなくて困るわけじゃないけど)
「で、あんたはなんでそんなところで遊んでたんだ?」
「遊んでたわけではない! ただ、罠にかかったのだ。気がついたらあの中に収納されていて……」
天地は饒舌に話をするが、いずれも真津璃の耳には入らなかった。要領の悪い男である。これ以上長居しても時間をロスするだけだと判断した彼女は、すたすたと足早に先を急ぐ。
「じゃあ、私行くから……。ご武運を」
「ちょっと待ちたまえ、真津璃。お前まさか今ので借りを返した気になっているんじゃないだろうな?」
はあ? と真津璃は首から上だけで振り返る。
「俺はなぁ、お前のせいでDランクの頂点を引きずり降ろされたのだ。その苦しみは天より高く地より深し。ましてや、俺を一度助けたところで晴れるものではない! のだ!」
「そ、そう……悪かったな。私の自分勝手であんたに迷惑かけちゃって」
「謝って済む問題ではないっ。よいか、謝罪には慎ましやかかつ大胆な誠意が求められる。言うならば態度で示すことが──」
真津璃はスルーを決め込むことにした。
真津璃と、なぜか後ろをついてくる天地は突然開けた場所に出た。それまでのトンネルのような道とは打って変わり、一般的な体育館の半分ほどの広さがある。
「なんだ、ここは……」
「フゥン。奥の扉が閉まっているな。敵らしきものも見られない。どうやら、条件をクリアしないと先へ進めないようだ」
真津璃は後方を確認する。扉は開いたままなので、最悪の場合引き返せばいい。そう判断すると、一本道よりわずかに明るい大広間に足を踏み入れる。
バタン
後方の扉が閉まる音がした。
真津璃と白夜。一方的に因縁を抱く奇妙な関係だが、果たして協力できるのか?




