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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
42/186

第42話 ▶鉄蛇vs.金属バット

 あらすじ:唯人&ジョーvs.からくり鉄蛇

 俺とジョーは別々の方向に跳躍。振り返ると、さっきまで俺たちが立っていたところが砂煙に覆われている。悪い夢では無いようだ。規格外の巨体を持つ鉄蛇が俺たちを殺そうとしている、紛れもない現実。

「どうした、唯人。膝が笑ってやがるぜ?」

「冗談だろ」


 そうだ。敵の大きさにビビってどうする。こうなる覚悟はしてきたはずだろ。

 フィールドは円状、逃げ場なし。まるで猛獣と闘わされる剣闘士の気分だ。奥の扉は閉鎖されている。ならば、大胆不敵に立ち向かうしかない。


 状況を確認しろ。鉄蛇とは言うが、あいつのボディは恐らく鋼。殴りつけても効きやしないだろう。ならば、どうする。


「ジョー、お前さっき一人でこの鉄蛇ぶっ倒したんだろ? 弱点とかねえのか」

「弱点……? そ、そうだな。ほらあれだよ。あの身体についてる赤い玉みてぇなやつ」

 再びこちらの出方をうかがう鉄蛇。そのお父さん鯉のぼりみたいなボディには、三箇所ほど盛り上がっている部分がある。腫れ物のごとく赤くなっているそれは、確かに玉と表現しても問題ない大きさだ。


「まだら模様か何かだと思っていたが……あれが弱点なのか?」

「ああそうだ。いかにもって塩梅で光ってやがんだ。きっとそうに違いねえ、たぶん」

 どうにも釈然としないな。まあ、俺にジョーの言葉を信じる以外の選択肢はないんだけども。

「来るぞ、唯人!」

「わーってるよ」


『ギギ……シャアアアアッ』

 抱いていた混乱がようやく治まり、少しずつ事態が見えてきた。あえて言葉を交わすまでもない。

 鉄蛇の放つ攻撃は、一発が重い代わりに動きが単調。引きつけてかわせば見てからでも対処できる。サッカーのPK戦よりずっと楽だ。

 

「問題は、どうやってあの赤玉にパンチを叩き込むかだが……」

「オレに任せろ。からくりにはからくりだ」

 ジョーは得意げに金属バットを掲げる。完全にスルーしていたが、わざわざ戯岩島に持ち込むほどの代物だ。普通の金属バットであるはずがない。だが。


「ジョー……お前、からくり持ってたのか」

大将(ゴシップ)から譲り受けたんだよ。あの人の情報収集に協力する、っつーことを条件にな」

 なるほど。ゴシップが一枚噛んでやがったか。抜け目ないやつだとは思っていたが、買収行為も何のそのだな。


「こいつの名前は『磁力(マグネ)バット』。その能力は……」

 ぐん、とバットが鉄蛇に引きつけられる。その様は、さながら磁石と砂鉄のようだった。

「あらゆる金属に引っつく(、、、、)ことができる!」


 空を駆けながらジョーは鉄蛇に接近。赤玉を捉え……あと三メートル。勢いに申し分はない。おまけに飛んでいる。腕がねじ切れないか心配だが、なにより、ここからどうやって攻撃に転じるんだ? このままではジョーが、先導するバットごと鉄蛇のボディに激突してしまう。そうなるとお前、痛いぞ。


「磁力オフ!」

 心配無用だった。やつが叫ぶと同時に猛スピードを(おこ)していた磁力が消滅。自由落下のもとにジョーが宙から降ってくる。その落下地点は──赤玉のちょうど隣。

 やつは想定通りといった風に笑うと、思いっきり空中でバットを振りかぶる。


「ホォォオオムランだぜッ!」

 縁起のいい掛け声と併せ、ジョーは赤玉にバットを叩きつけた。カァン、と軽快な音が辺りにこだまする。赤い光が一つ消えた。さすが一度あいつを討ち取った男、見事な手際である。


 格好よく着地したジョーは一目散にこちらへ戻ってくる。

「ぁぁあああ腕っ、痛ぇぇえええ!」

 痛ましすぎる絶叫と共に。鋼鉄のボディにフルスイングをぶちかましたのだ、当たり前である。


「パスだっ、唯人!」

 そう言いながら下投げで『磁力バット』を放り投げるジョー。痺れて腕に力が入らないらしい。だが、お前の思いは受け取ったぜ。持ち手の部分をキャッチすると、俺は鉄蛇野郎と対峙する。


「かっとばせー、たっだひと」

「茶番はいいから早く使い方教えやがれ!」

「へいへーい」

 地面にぶっ倒れていながらも、ジョーはふらふらと手を伸ばす。


「グリップにスイッチが二つ付いているだろ? 上がオン、先端部分で吸着する狙いを定めろ。で、下がオフ。磁力……とは少し違うんだが、引きつける力を文字通りオフにできる」

「オッケー、把握。後は俺に任せろ」

「でっかいホームラン見せてくれよーっ」

 言われるまでもない。腕がぶっ壊れるのだけはごめんだがな。グリップをくるくると回転させ、スイッチが二つ付いているのを確認。さっそくオンの方を勢いよく押してみる。


 ギュン

「どわああああっ!?」

 身体にかかる慣性に腕が持っていかれるかと思った。なんだこれ、なんだこれ。強力すぎる引きつけ能力に俺の身体が浮く。どう見てもさっきジョーが飛んでいた速度の比じゃない。

 訳がわからないが、このまま考えていても無駄なことは確かだ。不本意ながら得た速度で鉄蛇に猛進。赤玉の真上辺りでオフを押し、自由落下に併せてバットを振るう。

 ……ちょっとだけ力を抜いたのは内緒だ。


 辛うじて着地に成功し、目視で確認。打撃を加えた赤玉が点滅した後に消えた。

「よっし!」

 拳を握ると、反撃が怖いのでまずは逃げに徹する。キシャアアアアという耳をつんざく声がした。


 命からがら、ジョーの転がっている地点まで帰還した。やつは人のいい笑みで俺の靴を叩いた。

「いやあ、すまんすまん。オンの押し加減で引きつける力が変わるってこと、すっかり忘れてたよ。はははっ」

 はははじゃねえよ、と突っ込んでやりたいところだが、まあ……結果オーライということで。


『ギギギ、キシャアアアア!!』

 俺を忘れるなと言いたげに吠える鉄蛇。ぬるぬるとボディをうねらせ、今までにない動きを交えて警戒している。


「……後一発か」

「油断するなよ、唯人。気づかなかったかもしれないが、二撃目の時やつは尾っぽでフリーフォール中のお前を狙っていた」

 つまり、なんだ。やつは闘いの中で学習をしているということなのか? ふむ。機械(からくり)のくせに生意気なやつめ。この俺が成敗してくれよう。


「かっとばせーっ」

「それはもういい」

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