第4話 ▶ランク分け
あらすじ:独守備然は年上好き
着物の女の子四人は足に車輪が付いた掲示板を四つ、横並びで前に設置する。
その様は、まさに。
「受験の合否発表みたいだな」
「ランク発表だからね。似たようなものよ」
「ランクって?」
「はーい、そこ静かに!」
要先生は掲示板を親指でさした。
「ここに、お前らのランクが書かれている。ランクは、事前に受けた『力』『智』『心』、三つのテストの合計から成り立っている。真の桃太郎たる者、どれか一つに偏ってちゃ鬼を討てねえからな。一点特化よりバランスが重視されるわけだ」
なるほど。いや、全然なるほどではないが、理にはかなっている。
「真津璃」
「何だよ、吉良」
ぞわっとした。
「……男の苗字呼びは、寒気が走るからやめろ」
「面倒くさいやつだな。で、何用だ。……唯人」
「ああ。さっき言ってた三要素だが……あれって何を指すんだ?」
「今聞くなよ、テスト受けただろ」
覚えがねえよ。
とかなんとか言いつつしっかり教えてくれました。
1. 『力』 文字通り戦闘力のことを指す。要は喧嘩の強さだな。
2. 『智』 お勉強で得た知識の量だ。中学の時、赤点王と呼ばれた俺に任せろ。
3. 『心』 駆け引きの強さらしい。作戦とか計略とかそういうのかね。
強いだけじゃダメなんだな。鬼を討つには、文武両道に加え柔軟性が必須と。まあ、このシステム自体はわからなくもない。ランク付けすることでモチベーションもあがるだろうしな。
要先生の説明は続く。
「ランクはAからDまであって、Aが一番強い。待遇も手厚くなるし、このランクを維持できれば、優秀な桃太郎として卒業できることが確約されると言ってもいい」
「質問してもよいであるか?」
突然手を挙げたのは、身長二メートルはゆうにある大男。背中しか見えないのに、その傲慢さがひしひしと伝わってくる。
「あの男……」
横では、またしても真津璃が反応を示していた。知人なのかね。俺もなんか見覚えがあるんだが。
要先生はにっこり笑顔で返す。
「おい、『54』番! 質問する時は、名前と好きな女のタイプを言ってからな!」
どっ、と会場が笑いに包まれる。俺も笑った。真津璃は低俗なものを見るかのように目を細めていた。
「美人さん大好き、剛満 であーる! して、質問だが。ここにいる人数とその配分を教えて欲しいのである」
「そうだな。まず、入学生は全員で100人。ランクはAからDで、各ランク25人ずつが振り分けられる。つまり、どのランクも同じ人数ってわけだ。覚えやすいだろ?」
「ふむ。結構である」
えらっそうだな、こいつ。
「他に質問が無いようであれば、10人ずつ、『番号』に従って確認しに行くように。向かって右から順にA、B、C、Dだからなー」
要先生のその言葉を皮きりに、男たちがぞろぞろと前の掲示板に向かって歩み始める。その結果に一喜一憂する様を見ながら、俺はフッと頬を緩めるのさ。
「……で、あんた何ランクだったんだ」
男たちが発表に盛り上がる中、真津璃が横目で訊いてくる。
「いや、さ。別に俺は桃太郎になりたいわけじゃねえし? だからランクなんて気にしねえし?」
「なんだよそれ」
いや、さ。
受けた覚えのないテストだぜ? 普通、記憶が飛ぶ前の俺がいい具合に頑張ってくれたと思うじゃん。
悲しいかな。俺はどこまで行っても俺だったのさ。……でも、『力』だっけ? 喧嘩ならそこそこ自信はあるんだがなぁ。
脳裏にこびりついたDの文字と格闘していると、さっきの巨漢が鼻の下を伸ばしてやってきた。
「やあやあ『22』番、『77』番! 結果はどうだったであーるるかぁぁ? んん?」
「おう、お前。さっきの……えーっと」
「ゴーマンである! 貴様、乗船前にワガハイが名乗ったのを忘れたのであるかっ」
「じゃあ俺の名前言ってみろよ」
ん? とゴーマン。ぬぬぬ……と腕を組むと後ろにぶっ倒れてしまう。
「き、記憶にないのである……」
だろうな。教えてないし。
ゴーマンを起きあがらせると、一応自己紹介はしておく。
「俺は吉良唯人 。座右の銘は『いのちだいじに』」
「女々しいやつである」
なんで?
「って、そんなことはどうでもいいのである。さっき見てきたが、ワガハイなんとBランクだったぞ。『22』番、貴様のランクを教えるのである!」
「Aだけど」
ゴーマン、二度目の卒倒。よくもまあ直立不動で真後ろに倒れられるよな。
でも。
「やるじゃねえか、真津璃。Aランクって最高クラスだろ?」
「まあね。でも、桃太郎になるにはこれくらい当然だ」
瞳に炎を宿す真津璃。謙遜ではなく、やつは本当にこのくらい当然と思っているらしかった。
志が高いことで。
今度は自力で立ちあがると、ゴーマンはぶるぶると震えていた。大きな口がニィッと開かれる。
「……そうでなくてはな。このワガハイにギリギリ で勝利した男だ、Aランクと聞いてむしろ燃えてきたのである!」
「あっそ」
乱雑に吐き捨てた真津璃は、チラリと俺の方を見る。
ニンマリ、と何かよからぬ企みを思いついた時の顔だ。
「……ゴーマン。あんたさ、ちなみに唯人 のランクは気にならないわけ?」
胸を鈍器で殴られた気分になる。
うわあああ、やめろ馬鹿。なんて残酷な提案しやがる。公開処刑じゃねえか、この野郎。
必死にポーカーフェイスを決めて虚勢を張る。
(へいへい、俺のランクを聞いちゃっていいのかい? 後悔しても知らねえぜ?)
……といった具合に。
俺のハッタリが通じたのか、ゴーマンはこちらに背を向け歩き始めた。
「唯人、だったか。貴様のランクはあえて見ないし、訊きもしないのである」
「ゴーマン、お前……」
なんだ、おい。結構いい感じじゃねえか。もしかして俺、『心』の素質があるのでは? こいつは意外な発見だぜ。
くるり、とゴーマンは俺の方を見て。
「──訊かぬが仏。それが、優しさと言うものであーるる」
「テメエ! そこで今すぐ刀構えやがれ!」
意外と優秀、ゴーマン。
めちゃくちゃ優秀、真津璃。
果たしてDランク唯人は生き残ることが……もとい、家に帰ることができるのか?