第27話 ▶ざわつく盤上
『ダウト・ジョーカー』
1~4+ジョーカーの計5枚を手札に持ち、スタート。
互いに1枚ずつカードを出し合い、強さを競う。
最強札はジョーカーだが一人一度だけ「ダウト」を宣言でき、
見事ジョーカーを言い当てたらその回は宣言したプレイヤーの不戦勝となる。
手札が尽きるまで繰り返し、持ち点の多いプレイヤーの勝利。
裏面の2枚を、俺たちは同時にひっくり返す。
「おおっ、やりましたぞ!」
盤面を確認。情報屋ゴシップは、お年玉を貰った子どものように声を弾ませる。
結果は、俺が2のカードを出したのに対し、ゴシップの手は3。初戦は俺の敗北に終わった。
言い訳みたいになるが、正直負けるだろうなとは思ってた。2を提出して勝てるのは相手が1を出した時だけ。早い内に使い捨てることができたと前向きに考えよう。
だが、状況はよろしくない。
もしゴシップが4やジョーカーを出していれば、『ぷぎゃあ、2相手にもったいねえ』とか煽ってやれたのだが、やつの出したカードは3。ある意味最適解と言える札だ。次で挽回しなくては後々厳しくなる。
「なるほどですな。こうやって数の大きさ比べを続けると」
「今のはやられたぜ、ゴシップ。だが、こっちも本気で行かせてもらうぞ」
そう言って俺が裏向きで出したのは3。勝てるかは半々と言ったところだが、極力強いカードは取っておきたい。
それに、ゴシップが今のブラフに乗ってダウトを宣言してくれりゃ後の展開もやりやすくなる。
さあ、ダウトを宣言するんだ。
「小生はこれで行きましょうかな。ここは勝負ですぞ」
「ダウトはしねえのか?」
「うーん……しませんぞ。唯人氏が宣言をするのであれば、こちらも便乗してよいのですがな」
策士め。そんなことを言われて馬鹿正直に応えるかってんだ。
決まっている、このままゴーだ。ショーダウンの合図でカードを表にする。
「おほぉ、これはこれは、ですな」
「……ちいっ」
思わず俺は舌打ちした。
こちらの手が3であるのに対し、ゴシップの出した札は4。またしても最適解を持ってねじ伏せられる。
どうせ負けるのなら、ここでジョーカーを吐き出させたかった!
「なんたる偶然っ、これで小生のリーチですぞ~!」
椅子をガッタンガッタン揺らしながら鼻の下を伸ばすゴシップ。
単純に負けるのなら、まだわかる。だが、ここまでの勝負は二戦とも俺にとって最悪の負け方だ。
こいつ、実はめちゃくちゃ読みが強かったのか? それとも俺が顔に出やすいだけ?
あるいは……。
「からくり、か?」
思えば、もっと早くに警戒すべきだった。情報屋のこいつが……キビダンゴをそこまで欲しがらないこいつが、からくりを手にしていないはずがない。俺と真津璃が第二号だったので入手時期こそついさっきなのだろうけど、使いこなしていることには変わりない。
まさか、最初から『心』の……それも、最寄りのフィールドに来ることを想定していた? 全部この状況に追い込むための演技だったのか?
「さあ何のことでしょうなあ。小生、難しいことはわかりませんぞ~」
道化師め……っ!
前後に揺れてゴシップはわかりやすくしらばっくれる。反応からして間違いなくクロだ。俺が疑いの視線を向けているのに、野郎。まるで動揺していない。いや、もとより隠すつもりも無いのだろう。
なぜなら、やつは何も悪いことをしていないのだから。
京美人、花歌さんは言っていた。
からくりを『決闘』で使うことは禁止されていない。道具の持ち込みは自由であると。
なんなら、むしろ推奨をほのめかす発言さえしていた。
こいつが今やっているのであろうことは、イカサマであってイカサマではない。一見対等に見える勝負を秘密裏に操作しているのだ。
異能には異能。本来であれば俺もからくりで応戦したいところだが、今の俺にそんな力はない。
悔しい。アドバンテージの差をまざまざと見せつけられているかのようだ。このままだと、俺は猫丸と同じ末路を辿ることになる。あいにく、一方的な暴力に屈して笑っていられるほどお人よしじゃない。負けることは悔しいし、結果がわかり切っている闘いなんて……。
「……くそがっ」
何を弱気になってやがる!
自分の頭を殴りつけ、無理やり脳みそを覚醒させた。
「俺は負けねえぞ。絶対に負けねえ」
「そう、その目ですぞ。執念にも似たその表情……やれるものならやってみろ、ですな!」
言われなくともやってやる。ここから三連勝、奇跡の大逆転を!
考えろ。まず、ゴシップの持つからくりについてだ。『バリ乾電池』や『第三の目』のように、身につけているモノに着目する。もっとも、今回の場合は考えるまでもない。やつの装飾品といえば、あのやけに光る丸眼鏡くらいのものだ。念のため指先や顔もチェックするが怪しいところはない。からくりは、あの眼鏡と見て間違いなさそうだ。
では、どんな異能を持っているか?
人の考えを読み取るようなチート能力を真っ先に見た手前、常識なんてものは捨てた方がよさそうだ。というか、本当あれどういう仕組みなんだろうな。
さて、考えられる能力と言えば……鉄板だが、カードの透視。媒体が眼鏡である以上、視覚を通した力であることは確定と見ていいだろう。そうなると、透視や期待値を分析する補助的装置である可能性が高い。
もしかしたら『第三の目』みたいに人の心を視る能力かもしれない。
だが、それならそもそも『決闘』をする必要がない。俺の情報とやらを勝手に視てしまえば済む話だ。
訊きだす必要があるということは、心理戦において完璧ではないということ。
だったら。
「……ほう、そう来ますかな?」
残り手札は3枚。俺は、そのうちの1枚を右手で覆ったまま提出した。もちろん、残った2枚を左手で包むのも怠らない。
「カードを透視できるんだろ、その眼鏡」
「なぜそう思われるのですかな? もし、手ごと透視できるのであれば、その作戦は無意味に帰しますぞ」
簡単なことだ、と俺は吐き出す。
「手がスケスケに見えているのに、カードだけは裏面が見えるだと? 都合よすぎだろ」
可能不可能以前に、異能を複数詰め込むというのは先のからくり二つを見ても考えにくい。せいぜいどちらか一つだ。
……とゴシップには見栄を張ったが、正直確証はない。あの気まぐれじいさんが気まぐれに作っちまったと言うのなら、俺はもうどうしようもない。
その上で一番考えられる可能性は、やはりカードの透視。確実ではないが、俺の読みが当たっていればこれで対等に闘える。
「……いいですぞ。だったら、小生はこのカードで決着をつけてやりますぞ!」
ここで負けたら三連敗。俺の敗北が確定する。その状況下での、決着をつける宣言だ。ゴシップは強力な札である3と4を使い切ったため、ジョーカーを出したと言っているようなもの。
俺のダウトを誘っている。
しかし。
ゴシップには二勝という備蓄がある。何も、ここでわざわざダウトされるリスクを負う必要はない。
「……なんて思ってんだろうな」
「ん、何か言いましたかな? さあさあ、それよりショーダウンと行きましょうぞ」
場には2枚のカードが出揃っている。後はこれを裏返し、開示するだけ。
そう、開示するだけ……。
「ダウトですな」
「ダウトだ」
ゴシップと俺の声が同調する。
情報屋の顔は、見るからに青ざめていた。
ほとんど唯人の独り言という狂気




