第178話 ▶決闘
真津璃と月尊ちゃんが現れた。真津璃の後ろには備然の姿も見える。思いのほか早くバレたなと思う反面、どうしてもこれだけは言いたかった。
「つ、月尊ちゃんがどうしてここに? 桃神郷にいたはずじゃ」
「ごめんなさい。でも、嫌な予感がしたので来ちゃいました」
月尊ちゃんはぺこりと頭を下げる。どうやって来たのかはこの際問うまい。
迷いを含んだ目でじっとこちらを見下ろす。
「ねえ、唯人。あんたは鬼に加担するっていうの? 私たちは敵の本拠地を潰したのよ。それでめでたしめでたしじゃダメなの?」
「……俺だって鬼なんだよ。全部忘れちまったが、記憶が無くなる前の俺にも、確かに鬼としての日常があったんだ。それを無碍には扱えねえ」
「嘘つきっ」
甲高く叫ぶと、真津璃はほぼ垂直の崖を走って降りてきた。『Gear-MAX』の力もあるだろうが、それを抜きにしても凄まじい気迫を感じる。
突如として訪れた緊張。
円陣を組んでいた鬼のいくらかは腰を落とし、臨戦態勢に入る。
「よお。そのダボダボの服でよく降りきったな」
「話を逸らさないで。唯人、あんたは大義に殉じるような男じゃない。そんな簡単な問題じゃない」
「知ったような口をきくじゃねえか」
真津璃は一歩ずつこちらに近づいてきた。余計な争いは見たくないので、俺も真津璃の方へと歩を進める。
腰元の刀を鞘から引き抜き、やつは短く言った。
「──『決闘』よ、唯人。フィールドは鬼ヶ島全域。決着の条件はどちらかが負けを認めるまで」
「一人で盛りあがってるところ、おあいにく。俺はキビダンゴを持っちゃいねえんだ」
「大いに結構。勝った方が好きなようにするというだけの話だから。私が勝てば、桃神郷に帰ってくること」
「強引な駆け引きだな。だが、いいぜ。その勝負乗った」
後方からアンジュの抗議が聞こえるが、振り向かず俺は『戯岩刀』を構える。
「俺が勝ったら……そうだな。もう、俺には金輪際関わらないでくれ」
真津璃は虚を突かれたように足を止め、『虹彩刀』だったか、鏡面さながらの輝きを放つ刀をギュッと握る。
「……馬鹿」
一瞬だった。
ぎらりと視線が光ったかと思えば、ロケットみたいに真津璃の刃が目の前を斬り裂く。少しでも反応が遅れていたら即ゲームセットだった。
上等である。
「そっちがその気なら、俺もやってやろうじゃねえか。女だからって手加減なしだ。……そんなわけで、月尊ちゃん、備然、アンジュ、その他大勢。手ぇ出したらそいつからぶった斬るぞ。だから。悪いが、ちょっとだけこの茶番に付き合ってくれ」
まさかこんなことになるとはな。しかし、不思議と悪い気はしない。心のどこかでこうなることを待ち望んでいたのか? だとしたら、あまりにも馬鹿げた話だ。自分の進む道はもう決めたはずなのに。
ともあれ。
真津璃とは、最初で最後の真剣勝負だ。
気を引き締めてかかれよ吉良唯人。
……いや、劣等生の鬼、ダァト。
特訓でバトったことはあっても、二人のドンパチは(たしか)一度も書いたことはなかったんですよね。
というわけで、これだけはどうしても書きたかったのです。完結まで漕ぎ着けられるかとても心配。




