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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
175/186

第175話 ▶誰がため

 鬼ヶ島での決戦を経て、俺たちはトロアの暴走を食い止めた。ゼキルアーツは完全に消滅。役目を果たした『王ノ主玉』も深い眠りについた。


 だけど、これでめでたしめでたしとはいかない。

 鬼とは日常の闇であり、人間とは決して相容れない存在だ。現に俺たち桃太郎は鬼の壊滅を目的として学業に励んできた。


 そう。()()にはまだやるべきことが残っている。

 捕らえた鬼の殺戮だ。


 まったく、自分の偽善っぷりが嫌になる。この期に及んで鬼を殺したくないなんて通るわけがないだろう。トロアの吸収から解放されたことで、今、鬼ヶ島には日本中の鬼が集結している。その中には真津璃の家族に手をかけたやからがいるかもしれない。むろん、見逃していいはずがない。


 だが、俺は鬼だ。


 記憶もなにもかもを奪われても、俺は鬼だ。吉良唯人ではなくダァトを慕ってくれているやつがいる。

 そいつが待っている以上、俺は鬼を裏切ることはできない。


 だから。


 ▶▶▶


「唯人がいないですって?」


「唯人だけじゃない。トロアに吐き出されたはずの鬼が一体も見当たらない」


「嘘でしょ。さっきまでそこで倒したあいつと話してたじゃない。そんな忽然と消えちゃうなんて……」


「いい予感がしないのは確かだな」


 ようやく落ち着きを取り戻した鬼ヶ島にて。真津璃と備然は戦後処理を任されていた。しかし、どうにも唯人の姿が見当たらない。うんざりするほどいた鬼たちを引き連れて、だ。


「ダメですな、どこを探しても鬼の子一匹見つかりませんぞ。ジョー氏、そちらはいかがですかな」


「ぬーん、こっちも収穫ゼロだぜ。痺れるくらいになんもねえ」


「や、やっぱりみんな逃げちゃったんじゃないかなあ」


「鬼はまだしも、あの男に限ってそれはありえないのであーるる」


「うむ、ワシもそう思うぞ!」


「唯人め、許せん。俺様以上に目立ちやがって」


「おい蛇乃眼。テメェ、物探しは得意だろ。なんかいいからくり持ってねえのか」


「おあいにく。ボクはなんでも屋じゃないんだよ」


「しかし、蛇乃眼でもわからないとなると八方塞がりだな……備然、どうだ。……備然?」


 備然に同意を求めた拓郎は、思わずそちらを二度見した。先ほどまでそこにいた彼と真津璃がいなくなっていたのだ。

 やれやれ、とからくりマスターは顎髭を撫でる。


「若さゆえのなんとやらじゃな。……どうするつもりじゃろうな。のう、語り手?」


「……彼にとっては苦渋の決断となるでしょう。最後まで見届けてあげましょう、それが私たち大人のできるせめてもの罪滅ぼしです」




 12月5日。


 午後6時2分。


 鬼ヶ島、裏手の海岸にて。

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