第172話 ▶最終決戦
とうとうここまで追い詰めた。
後はトロアをぶん殴るだけだ。
真っ白な世界を攻撃し続けた結果、床が抜けて気づけばやつの外にいた。ゼキルアーツこそ見つからなかったが、全員で脱出できたのだから結果オーライである。
「さあ、トロア。歯ぁ食いしばれ。最終決戦と行こうじゃねえか」
「……なにが起きたのかはわからない。だが、貴様のせいで計画が台無しになったことは確かだ」
「計画だぁ? 安全地帯から好き勝手暴れ回るのが計画なのかよ。偉くなったもんだな」
「黙れ。こちらにはまだゼキルアーツがある。終わりだ、一方的になぶり殺してやる」
上半身裸のトロアはゆっくり口を開くと、やつを包み込むように桃型の障壁が現れた。『生力変換』でゼキルアーツのエネルギーを結集させたのだ。
「これで、ダァト。貴様がどう足掻いても私には手を出せない。そして、その隙を狙って……」
桃が二つに割れると、その隙間からなぜかミサイルが飛び出した。追尾式のそれを『戯岩刀』で振り落とす。
「ば、馬鹿な。からくりが発動している? グッ、先程の爆発でゼキルアーツの機能が失われたのか。……だが、残った無限エネルギーだけで充分余裕はある……っ」
あ? なんだ。さっきまで発動できなかったような口ぶりである。
「まあ、いいや。篭りたきゃ一生そのバリアの中で過ごしやがれ。こっちは攻めて攻めて攻めまくるぞ。俺の気が済むまでなっ」
地を蹴り、俺は桃型バリアに斬撃を繰り返す。手応えがない。だが、粘りあいならさっきの足場破壊で履修済みだ。根気強く何度も刀を振るう。
「無駄だというのがわからないのか。貴様も諦めが悪いな」
トロアは怒りを含んだ声で反撃に出る。斬れば斬るだけこちらへのカウンターダメージも増えていく。赤い液体が舞いあがり、飛沫となって辺りに弾けた。
知ったことか。ここで退けば今までのすべてが無駄になる。ようやくやってきたチャンスを逃してしまう。だから、絶対に退けねえんだよ。
刀を握れ。迷いを断て。こんな暴君に好き勝手させていたら、人間も鬼も幸せにはなれない。
「……くどい。くどい、いい加減にしろ。律儀に応戦してやったが、私がなぜ貴様の相手などしなければならんのだ。興ざめだ」
翼をはためかせ、トロアは上空へと飛行する。あの野郎、まさかこの期に及んで逃げ出そうってのか。冗談じゃない。トロアは端からまともに戦うつもりなんて無かったのだ。
「いい加減にしろ、だ? それは俺の台詞だよ。どこまでも狡猾で、独善的な王様よぉ。そろそろ天罰が下ってもいい頃合いなんじゃねえか?」
「フン、天罰だと。笑わせる。祈りを捧げるなど自らが弱者だと暴露するようなもの。真の強者は祈らない。祈らずして、己が力により、欲しいものを手に入れるからだ!」
「そうかい。だったら強者は俺だったな」
「……なんだと? おい、待て。その手に持っているものはなんだ。ダァト。早まるな、おい。ゼキルアーツが機能を失った今、そんなことをしたら」
一変、凄まじい勢いでこちらに向かって飛来するトロア。むろん、目的は俺がポケットから取り出した切り札だ。語り手から預かったものの、ゼキルアーツの妨害があって使用を封じられていた、超弩級のからくり。
「やめろぉぉぉぉぉッ!」
「『王ノ主玉』、これで最後だ。トロアの馬鹿面にぶちかましてやろうぜ。……対人間決戦用兵器を、木っ端微塵に、ボッコボコに、ぶち砕いてやれぇぇッ!」




