第168話 ▶キラクリ封じを突破せよ
ゼキルアーツを特定できる鬼。
期待してたのに、よりにもよってお前かよ、Dr.カット。やつはふんふんと嬉しそうに鼻を鳴らす。
「忘れちゃったのかい。君の視神経をハックしたのは、他でもないこのワタシだ」
「なんで自慢げなんだよ」
ムカつく表情しやがって。だが、言いたいことはわかった。こいつは能力で他人の視線を盗み見ることができる。そして、それは恐らく有機物に限ったことじゃない。
「お前、ゼキルアーツの視覚とリンクできねえのか。そうすれば、もしかしたら有益な情報が手に入るかもしれんだろ」
自分で言ってておかしくなる。ただの機械に視覚もクソもあるか。しかし、カットの表情は真面目そのものだった。
「できますとも。視覚というのは言葉の綾ですからね。しかし、それより大きな問題があります」
「できるのか……で、問題ってなんだよ?」
「驚天動地! 鬼羅繰が使えないのですねー」
「……は?」
事情はアンジュが話してくれた。
どうにも、このスノーホワイトな世界では鬼羅繰を使おうとすると全身からエネルギーが抜け落ちてしまうらしい。無能力者の俺には縁のない話だ。
それがトロアの『生力変換』による影響か、ゼキルアーツが前身である『対鬼』の面を取り戻したのか。それはわからない。
横たわっている事実は一つ。
「アタシたちは足掻く力を失ったのよ。だからみんな諦めてる。鬼羅繰さえ使えれば、って言い訳みたいに繰り返してるのよ」
なるほど。鬼たちがいやに物静かだったのはそのためか。俺だって、電池切れのスマホを片手に知らない街へ放り出されたら精神的に辛いと思う。
こいつらがゼキルアーツを探そうとしないのも、一箇所に固まり続けているのも、きっとそういうことなのだ。
トロアがデタラメに強くなった原因。
そして、俺たちに妙な縛りを課す決戦用兵器。
ゼキルアーツをぶち壊せたら、もしかしたら、こうして今も戦っているあいつらに希望を託せるかもしれない。
「……あれ?」
ふと、俺は気づいた。背中に背負った『ツクヨミの盾』、腰元の『戯岩刀』。しっかりばっちりからくりを引き継いでいるではないか。
「どうしたのよ、ダァト。ソワソワしちゃって」
「……ちょいと試してみたくてな」
俺は『波動グローブ』をグッと握った。
そして、虚空に向けて極小のそれを射出……からくりは問題なく使用できるようだ。
それならば。
俺は自身の頭に『見える眼鏡』があることを確認、目元に下ろしてツルのスイッチを入れる。
「……………………っ!」
支給品、『見える眼鏡』。サーモグラフィーのように温度を色でわけて見ることができる代物だ。高音は赤っぽく、低音は青っぽく映る。
視界に入ってきた温度の世界。
鬼どもはもちろん赤くなっているのだが、問題は、今こうして踏みしめている白い床。本来なら寒色系に見えるはずのそれが、なぜか赤みがかった色に映っていたのだ。
「……真っ白いだけの空間だと思っていたが、この世界。なにかあるな」




