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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
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第16話 ▶ツクヨミ荘の愉快な人々

 あらすじ:寮へ行こう!

 はーい、と花歌さんがゆらゆら手を振る。


「ほな、Aランクの人らはうちについてきてな〜」

「Bランクはあたしが案内するわよ。ほら、ちゃっちゃと動くっ」

「え、えっと……Cランクの人は、わたしが、わたしの方に、わたっ」


 着物女子ズが各々先導を始める。薄々そんな予感はしていたが、やはり寮もランクによってグレードが変わるらしい。……まさかダンボールハウスじゃないだろうな。


 上位三組が移動を始める中、月尊ちゃんもくるりと踵を返す。

「では、Dランクの皆さんは私と一緒に行きましょう! うちの寮は体育館から近いので、すぐそこですよ」


 ずんずん進む月尊ちゃんの背を追うように、Dランクの野郎共も気だるげに歩きだす。確か下位25バーセントがDランクになるから……つまりダメダメな25人がここにいる連中ということか。


 ゆっくりと歩を進めながらDランクのメンツを観察してみる。特にこれといった傾向もなく、強いて言うならザ凡人の集まりといった感じだ。よく見ればさっきのヤンキー君もいる。

 なんというか、落ち着くな。今まで真津璃や備然といった超人ばかり見てきたから、Dランクはいい意味で人間くさい。


「ふー、あっちいなちくしょう」

 体育館を一歩出ると、途端に熱気がアプローチをかけてきた。肌がこんがりと焼けそうなほど暑い。だから、愚痴を漏らしてしまっても仕方がないのだ。訳わかんねえよ、何もだからじゃねえし。ダメだ。すっかり暑さに頭がやられている。

 いいさ。独り言を呟いたところで、どうせ誰も反応なんて──。


「否定はしないが我慢を覚えろ、唯人。風が吹いているだけまだマシではないか」

 右隣を二度見する。真津璃がいた。

 なんで?


「お、お前、ここはDランクの集まりだぞ。Aランク様はあっちに行っただろうが」

「ああ、知っている」

 じゃあ何の真似だ。底辺の俺を冷やかしにきやがったのか。舐めやがって、この美形野郎。


 真津璃は憑き物が取れたような、スッキリした面立ちで吐き出した。

「要先生に直談判してきたんだ。僕をDランクにしてくれ、って」

 はあ?


「なんだそりゃ。ランクを上げてくれって相談ならまだしも、自分からランクを下げてどうすんだよ。まさか、俺を追って?」

「馬鹿言うな」


 真津璃の顔に一瞬、自嘲めいた笑みが浮かぶ。

「これは自分への戒めだ。……独守備然に負けることで思い知らされたよ、上には上がいるってことが。悔しいが完敗だった」

 それは船上での一幕。

 思い出すだけでも辛いだろうに、こいつは早くも先の『決闘』から立ち直っていた。見かけによらずストイックな野郎である。


「恥ずかしい話、それまで心のどこかで僕は驕っていたんだよ。けれど、あの男に負けたことで自分を見つめ直してみた」

 真津璃はポリポリとショートヘアを掻く。


「もっともっと、強くならなきゃ」

「……ああ。俺も次こそは備然の野郎をぶっ飛ばす」

 こいつの決めたことに、俺が口出しするいわれはない。とかなんとか言いつつも、内心ちょっとだけ安心していた。腐れ縁ってやつか? 真津璃とは長い付き合いになりそうだ。


 ▶▶▶


「はーい、到着ですっ。お疲れ様でした」

 月尊ちゃんが足を止める。


 穏やかな芝生の上にポツンと建つ、昔ながらの建造物だ。各階七部屋の二階建て。外壁の一部こそ剥げてはいるが、思っていたよりずっと寮っぽくて感動を覚える。

 周囲からも、「意外といい感じじゃねえか」とまずまずの高評価。ダンボールハウスに比べりゃ極楽ってもんだ。


 というか、Dランクでこの下町感あふれる民宿なら、Aランクはどうなってしまうんだろう。庭にプールとか付いてんじゃないか?

 

 コホン、と月尊ちゃんが軽く咳払いをする。

「えーっと、改めまして。皆さんこんにちはー!」

「「「こんにちはー!!!」」」

 ハッ、しまった。ヒーローショーのお姉さん風に挨拶されたせいでつい……。やめろ、真津璃。そんな目で俺を見るな。みんなやってたじゃねえか。おい。


「はーい、大きなお返事ありがとうございますっ。私、Dランク寮の管理人をしております、団月尊と言います。皆さんを陰ながらサポート致しますので、これからよろしくお願いしますね!」

 うおお、とあちこちで雄叫びがあがる。俺もあげた。だからそんな目で見るなよ、真津璃。お前も内心ニヤニヤしてんだろ?


 さっきまでのどんよりした空気が一変、男たちは活気の炎に包まれる。今なら空も飛べそうだ。というか、現在進行形で飛んでいる。心が。

「せっかくですので、お部屋の確認をしましょうか。表札に皆さんの名前がかかっています。ご自分のお部屋がどこか探しながら、まったりこのツクヨミ荘を見学していってください」


 はーい、と野郎共が息ぴったりに返事をする。

 かくして自由行動が始まった。男は散り散りになりながら、ツクヨミ荘なる新たな拠点に踏み込んでいく。


 俺も行くかと伸びをしていると、なんと月尊ちゃんがこちらに近づいてくるではないか。しかも、「おーい」とか言って手まで振っている。やれやれ、いきなり甘い展開じゃないか。


「おーい、真津璃さーん!」

 まあ、期待はしてなかったよ。してなかったけど、ドちくしょうこの面食い野郎が。いきなり月尊ちゃんをたぶらかしてんじゃねえぞこんちくしょう。


「僕に何か用か、月尊さん」

「ええっとですね。真津璃さんはAランクから急遽こちらに変更となったので、元いた……というより本来入るはずだった方のお部屋に行ってもらってよろしいですか?」


 なるほど、うちに真津璃がやってきたことで、DランクのトップだったやつがCランクに繰り上がったわけか。Dの頂点かCの底辺。どっちがマシなんだろうね。

 わかった、と真津璃は頭を下げる。


「迷惑をかけてすまない。ついでに、どこの部屋か教えてもらっても?」

「ああ、うっかりでした。それがわからないと探しようがないですもんね」

 月尊ちゃんは懐から(着物なので本当に懐だ)折りたたまれた紙を取り出す。


「そうですね。天地(あまち)さんのところが空くので……201号室です。おおっ、唯人さんと相部屋ですよ!」


 なんと。これも何かの縁だ、よろしく頼むぜ、真津璃。

 やつの顔から火が吹き出ているように見えるのは気のせいだろうか。

 どきどき相部屋生活のスタートです。と言っても、唯人は真津璃が女だとは知らないので、どきどきなのは彼女だけですね。かわいそう。

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