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異世界魔王に狙われています!  作者: 雪ノ
第一章:異世界から来た魔王様
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第十八話 さよなら

 灰里が魔力壁を破ろうと粘っている間に、ファーゼがソーレの背後に回っていた。

 ファーゼの手がソーレの背中に触れる。


「あ」


 ソーレがぽつりとつぶやくと同時に白目をむいてその場に倒れた。


「……これ生きてるのか?」

「さあ? 知らないわ」


 灰里が気絶しているソーレの首筋に手を当てると同時に口元に耳元を近づけると、心臓もちゃんと動いているし、呼吸もしていた。

 とりあえず生きていることを確認してほっとすると、灰里はソーレを担いだ。

 さすがにこのままにしておくわけにはいかない。


「ファーゼは魔力が回復したんだろ? それならこいつを連れて帰れるんじゃないのか?」

「はあ? どうして私が貴重な魔力を使ってそんなことしなきゃいけないのよ」

「え? だってソーレはファーゼの世界の住人なんだろ? それならその世界のトップの魔王が責任を持って連れ帰るのが筋ってやつじゃないか?」

「…………」


 一理あると思ったのか長い沈黙の末ファーゼは渋々といった感じで放送室の扉に触れた。

 すると扉が消え、代わりにどこまでも広がっていそうな黒い謎の空間が現れた。


「おお……宇宙っぽいな。これに入れればいいのか?」

「ええ。これは転移門、ゲートと呼ぶ方が多いわそれに放り込めば私の世界に送り返せるわ」

「そうか」


 灰里が担いでいたソーレをその謎空間に入れると、ソーレの姿が消えた。


「これでよしっと」


 ソーレを送り終えると、今度はファーゼがゲートの前に立つ。


「それじゃあ私も行くわ。あなたを殺すのは次来た時の楽しみにとっておくわ」

「……そうか」


 この一年で何度も見た光景。

 灰里を殺しにこの世界にやってきた来訪者達も自分の世界に帰る頃には「灰里を殺すのは次の機会にとっておく」と不器用すぎる再会の約束をして帰っていく。

 来訪者達からは迷惑をかけられっぱなしの灰里だが、いざ別れる時は少し寂しく思ってしまう。


「……それじゃあ行くわね」

「おう。また来い」


 最後ににこりと笑顔を見せたファーゼが灰里に背を向ける。

 遠ざかっていく背中を見送るのがなんだかつらくて灰里は目をそらしてしまうのだった。


******


 魔界。

 ソーレは灰里とファーゼに敗北し魔界に送り返されたあと。

 再び魔力を集め、灰里を襲う計画を立てていた。

 どうせ向こうでは魔力がなくなるのでゲートが開ける分だけあれば良い。

 魔力を集めるのに三日かけ、いよいよゲートを開いた瞬間。

 ソーレが開いたゲートから一人の人間が現れた。


「あ。どうも楓先生」

「あなたは……」


 ソーレがその人物の名を言葉にしようとした一瞬でソーレはその人物に口を掴まれていた。


「もうしゃべらなくても結構ですよ。失敗したあなたはもうレースからは脱落ということになりますから」


 口を掴まれただけで息ができなくなりソーレはそれっきり気を失った。


「全く手間取らせてくれるなあ……灰里に会うのが遅くなるじゃないか」


 ソーレが気を失った場所には既に――――――ソーレの他には誰もいなくなっていた。


 *****


 学校中の人間が原因不明の睡魔に襲われるという大事件から一週間。

 学校は落ち着きを取り戻し、いつもの授業風景に戻っていた。

 事件前と後で唯一変わったことと言えば、ソーレの仮の姿の三垂楓先生が急に別の高校に転勤という扱いになったことだろうか。

 送別会や別れの言葉もなく楓先生が消えてしまい、学校中の男子と男性教師がショックを受けていた。


「それじゃあ……ここを世森!」


 一週間前から現在までのことをぼけっと思いだしていた灰里の名前が急に呼ばれた。

 どうやら先生にさされたらしい。

 仕方なく返事と共に席から立つ。


「……はい」

「の右!」


 俺じゃねえのかよ! という悪態をつくのをぐっとこらえ灰里は席に座りなおした。


「わ、私!」


 灰里の横の席のやつもどうやらぼうっとしていたらしく、助けを求めて灰里の方を見てきた。


「いや、俺も話し聞いてなかったから……」

「あなた本当に使えないわね! 全く!」


 ぷりぷりと怒っているのは――――――――自分の世界に帰ったはずのファーゼだった。


「わかりません!」


 逆ギレするようにファーゼが怒ったまま席に座り直すと、先生が折れて別のやつが貧乏くじを引くはめになった。

 授業が終わると放課後。

 灰里が帰ろうと席を立つと、ファーゼも同時に立ち上がった。


「それじゃあ帰りましょうか」

「……なあ」

「今日は野菜が安いらしいわ。行くわよ」

「……なあって」

「何よ? 歩きながらでも話せるでしょう」


 ファーゼが勢い込んで買い物に行こうとするのを止められず帰りながら話すことになった。


「ファーゼ」

「だから何よ。早く用件を言いなさいよ用件を」


 何を言われるか全くわかっていないらしいファーゼが怒り出してしまった。


「いや……いつ帰るのかなと」

「……」


 ファーゼは視線を逸らして黙り込んだ。

 ソーレを倒し、学校のみんなにかけられたソーレの術を解きソーレを異世界に帰した後。

 ファーレも異世界に戻ろうとしたのだが、ゲートを通ろうとしたファーゼの体はゲートからはじかれてしまったのだ。

 結局ファーゼは自分の世界に帰ることができなかった。

 今ファーゼがいるのは再会の約束通りに戻ってきたわけではなく、ただ帰れなかったからいるだけだ。


「そもそもなんで帰れなかったんだ? 魔力はソーレから奪って回復できたんだろう?」

「それは……」


 ぽりぽりと言いづらそうにファーゼは頬を掻く。

 なんでそんな反応になるのかわからず灰里が答えを待っていると、ファーゼは意を決したように口を開いた。


「あの時私は人間達の術を解いたでしょう?」

「解いたな。それがどうかしたのか?」

「そのせいで魔力が足りなかったようね」

「魔力が足りなかった?」

「ええ。ゲートは持ち主の力量に応じて使う魔力量が異なるのよ。魔力を奪ったソーレを送る魔力はあっても私を通すには少し足りなかったみたいね。失敗しても魔力は消費されるからもう私の魔力は空っぽなわけ」


 なるほど……。

 ソーレの術を破る為にファーゼは自身に残っていた魔力を声に乗せて使った。

 そのせいでソーレから魔力を奪ってもファーゼが元の世界に戻るために必要な魔力量に届かなかったということらしい。

 まあ正直なんとなくそんな気はしていたが、良い感じに別れようとしていた手前なんだか恥ずかしくてこの一週間聞けていなかった。


「それじゃあ……結局ふりだしに戻ったわけか?」

「そういうことよ……」


 ため息と共につぶやくファーゼはひどく疲れて見えた。


「まあ……なんとかなるだろ。元気出せよ」


 なんだか可哀想になり灰里がファーゼの頭を撫でると、ファーゼは灰里の手を打ち払った。


「き、気安く触らないで頂戴!」

「え、ああ、悪い悪い」

「……まったく」


 ファーゼは赤い顔で灰里が触った髪を整えだした。


「……そう言えば私からも一つ質問があるのだけど」

「ん? なんだ?」

「あの時あなた上位サキュバスの魔術が効いていなかったみたいだけれど?」

「ん? ……ああ。あれか」


 ファーゼが言っているのは灰里が放送室に踏み込んだ後、ソーレに眠らされそうになったことだろう。


「まあ俺にも詳しいことはわからないんだけど」

「わからないけれど何?」

「俺にはそういうのは効かないらしいぞ」

「……は?」


 ファーゼの足がぴたりと止まり、灰里の方をぐるんと向いた。


「どういうこと!」


 ファーゼに襟首を捕まれぐいっと引っ張られる。

 興奮で赤くなるファーゼの顔が近い。


「いや! だから俺もわからないんだって! 今までの来訪者達も俺にいろいろ魔術っての? かけようとしたんだけどな? どれもかからなかったんだよ」

「……にわかには信じがたいわね。だってあなたはただの人間でしょう?」

「ただの人間だな」


 一応は信じてくれたらしくファーゼはようやく灰里の襟首を離した。


「……まあいいわ。他の人間が眠らされていたのに、あなただけ眠らなかったのはあなたが魔術にかからない人間だったからというわけね」

「まあ……そうなんじゃないか?」


 しかしどうして俺は魔術にかからないんだ?

 そしてその理由は今まで触れていなかったもう一つの謎とも関係していそうだった。


「そもそもなんで俺の命が狙われているかもわからないしな」

「…………え? あなたどうして自分の命が狙われているのか知らないわけ?」

「言ってなかったっけ? 全く知らないぞ?」


 ファーゼが思ったよりも驚いているのが気になる。

 追求しようとすると、後ろから灰里達に走って近づく足音が聞こえてきた。

 咄嗟にファーゼが灰里を盾にする。


「やあ! 灰里! 今帰りかい!」

「なんだ九十九かよ」


 灰里を挟んでファーゼと反対側に来たのは九十九だった。

 一週間前のソーレの襲撃で九十九は眠らされたが、特に後遺症などは無いみたいだった。

 ただそれとは別件で学校を休んでいたらしく会うのは久しぶりだった。


「そういや? 九十九は何で休んでたんだ?」

「え? ああ。ちょっと野暮用というか、後始末と言うか……」

「歯切れが悪いな。なんか言いたく無さそうだから聞かないでおくわ」

「あはは。助かるよ……」


 灰里と九十九が話をしている間、ファーゼは一言も発さなかった。

 相変わらずファーゼは何故か九十九のことを警戒しているらしい。


「やっぱり嫌われているみたいだね……。それじゃあ僕はこれで失礼するよ」

「え? せっかくだから一緒に帰ろうぜ」

「いやあ、遠慮しておくよ。それじゃあ」


 相変わらず爽やかな笑顔を浮かべると九十九はさっさと走っていってしまった。

 

「それにしてもあいつ何しに来たんだ?」

「さあ? それよりも早く買い物に行くわよ! 野菜が安いのよ!」

「いや、わかったから引っ張るな! っていうかファーゼ! お前家があるんだからそっちいけよ! いつまで家に居候する気だ!」

「だからその言い方はやめなさいと言っているでしょう! 私はお客様よ!」


 ぎゃーぎゃーとやかましい灰里とファーゼの言い合いは結局家に帰るまで続くのだった。


 一応これで第一章終了ということにします。

 他の話を先に出すかもしれませんが、第二章まではとりあえず書こうと思うので続きはしばらくお待ちください。

 お読み頂きありがとうございました。

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