第十話 平穏な朝
灰里が遠い目になって空を見ながら歩いていると、ファーゼの家についた、玄関の前で待つこと十分くらい、ようやく玄関の扉が開き中から新品の制服に着替えたファーゼが出てきた。
「たしかに色々と準備が整っていたわ」
「あっそう……ところで何で制服が新しくなってるんだ?」
「新しい制服も置いてあったのよ。せっかくだから着替えたわ」
「二日しか着てないんだろ?」
下着や肌着は着替えるべきだが、制服まで新しくする必要はない……と思う。
「二着あっても別に良いでしょう?」
「まあ良いんだけどな」
「ほら、行くわよ」
ファーゼがさっさと先を歩いていってしまうので灰里は慌てて後を追った。
まだ時間も早く、朝ご飯も食べていない。
何か腹に入れておかないとお昼までは持ちそうにない。
ファーゼに言って適当なコンビニに寄ってから学校に行くことにした。
「それで? 何食うんだ? ……というか金はあるのか?」
聞いた感じファーゼが自力で用意したものは何一つ無さそうだがお金は持っているんだろうか?
灰里がふと湧いた疑問をぶつけてみるとファーゼはごそごそと自分の鞄をあさり出した。
「金ってこれよね?」
そう言ってファーゼが家から持ってきた鞄から取り出したのは――――――札束だった。
一万円札が百枚束になって帯がついたあれである。
「お前! このバカ! そんな大金もって学校行くやつがいるか!」
この世界の知識を得てから来たくせに常識は備わらなかったらしい。
慌てて札束を鞄にしまわせるとファーゼは膨れっ面になった。
「知らないわよ! そんなこと!」
「大体お前俺に会う前は金も使わなかったのか?」
「使ってないけれど?」
「そうかよ……」
そう言えば灰里に会う前はご飯も食べていないと言っていた。
家や制服は準備されていたものだし……となるとあとお金を使っていそうなのは……。
「そういや昨日付けてた眼鏡はどうしたんだ?」
「眼鏡? ……ああ、これのこと?」
そう言ってファーゼが取り出したのは真本として灰里と接触した時に着けていた漫画にでも出てきそうな顔の隠れるぐるぐるメガネ。
「これなら魔力で作ったわ」
「……そんなことまでできるのか……魔力万能すぎるだろう」
今まで来た連中のものと比較しても魔力は断トツで万能なエネルギーだった。
ファーゼはぐるぐるメガネを手でいじっていたかと思うとすっと一歩近づいてきた。
そのままおもむろにぐるぐるメガネを灰里につける。
「……」
「……」
「……似合うか?」
「ぶふっ、ふふふ! あはは! すっごく似合ってるわよ! あはははは」
最初は我慢していたようだが、結局耐えきれず大爆笑しているファーゼを灰里は責めるように睨む……がぐるぐるメガネのせいで見えていないだろう。
ぐるぐるメガネを取って話を戻すことにする。
「それで? 魔力で何でも作れるのか?」
ファーゼからぐるぐるメガネを受け取り矯めつ眇めつしながら質問するとファーゼはふふんと鼻を鳴らし胸を張った。
偉そうなファーゼの態度にまたしてもイラッとさせられたが、またぐっと堪えて我慢する。
「ええ。概念と相応の魔力さえあれば大抵の物はいけるわ!」
「へー……それじゃあ生き物はどうだ?」
「……それは無理ね」
「まあ……そりゃそうか……」
生物まで好きに生み出せたらさすがに万能すぎるか。
大金を持たせたまま学校に行かせるわけにもいかないので、一度ファーゼの家に戻り、一万円だけ持たせてからもう一度コンビニに戻ってきた。
正直一万円でも多すぎるくらいだが、他に現金はないらしいので仕方がない。
適当な朝食とついでに昼飯用の物も買い公園のベンチで朝食を取ることにした。
「そういえば全然襲撃が来ないわね」
「ああ。そういやそうだな」
ファーゼがきょろきょろと辺りを警戒しながらアンパンを頬張り、灰里はおにぎりを口に入れる。
ちなみに味はツナマヨ。もっしゃもっしゃと咀嚼しお茶で流し込んで朝食は終了。
灰里が食べ終わったことに焦ったファーゼがアンパンを食べるスピードを上げたが、一口一口が小さいためなかなか減らない。
早朝の公園には人がおらず、襲撃にはもってこいな状況にもかかわらず二人を襲う何者かは結局現れず、ファーゼがアンパンを食べ終わると高校に向かうことにした。
まだ少し早いもののそろそろ登校しても良い時間にはなっていた。
経験上、人目がつくところで襲撃する来訪者はあまりいないため、高校に着いてしまえば安全なはずだ。