15.「剣の護り手」
●【15.「剣の護り手」】
「さあ、ピリポ!次はお前の番だ!鞘は我が手に入った。後はお前の体から剣を取り出すだけだ」
カムラ・カユルはそう言って、まるでピリポに見せつけるかのように現れた鞘を高く掲げた。
「……くっ」
ピリポは悔しそうにカムラ・カユルを睨みつける。
あの手に握られたものはフィンの魂そのものだ。
汚れたあの女にいつまでもフィンの魂を握らせてなどおけない。
「絶対に取り戻す!」
ピリポは手にした剣を振り上げ、カムラ・カユルに斬りかかった。
しかし、カムラ・カユルもかつては白薔薇と呼ばれたネッカラの戦乙女。
その立ち回りは見事なものだった。
ましてや今の彼女は全盛期の頃の強さを取り戻している。
ネッカラの戦乙女二人による戦いは凄まじいものだった。
まるで美しい舞踏のように打ち合っては離れ、その華奢な体を翻すたびに白く輝く長い髪がなびく。
打ちあう剣から飛び散る火花さえも彼女たちの美しさを引き立てていた。
お互い一歩も引かず、なかなか決着がつかなかった。
その戦いを見守りながらシャーロッテはその場を動けなかった。
「なかなか決着がつきそうにないね……どれ、少し手助けをしてやろうじゃないか」
不意に背後から聞き覚えのある声がした。
シャーロッテが声の方に振り返ると、そこにはイズニーがいた。
「イズニー先生……どうしてここに」
「おや、シャーロッテ?まだそこにいたのかい?君にかけた術は解けたのだから、もう君はここにいる必要はないのだよ」
「えっ?」
シャーロッテはイズニーのその言葉に眉をひそめた。
「術をかけたって……先生……まさか私に……」
イズニーはそれまでシャーロッテが一度も見た事もないような下卑た表情で笑った。
「君は勉学の成績は非常に優秀だが、愚直すぎるところが欠点だ。そんなことでは合格点はあげられないねえ」
シャーロッテはその瞬間全てを理解した。
全てこの男によって仕組まれていたことを。
味方を装って信頼させた上で、何らかの術をかけフィンを襲わせた。
そのせいでフィンは……。
「愚かなシャーロッテ。姉を失い、友人を手にかけた可哀想な子……だが心配はいらないよ、私たちの復習が終わったらご褒美に君の望みを叶えてあげるからね」
「馬鹿な!」
「もう止めることはできないんだよ。もうじきあの女と私の望みは叶う!竜王と女神と魔道の力に呪いを!」
イズニーは愉快で仕方がないとばかりに笑っていた。
シャーロッテは恐ろしくてその場を動けない。
この男は狂っている。
「さあ、私の愛しいカムラ・カユルよ。剣の娘の胸を貫け!」
イズニーが放った術は、ピリポの体の自由を奪う。
両手に力が入らない。
足はガクガクと震え、立っているのもやっとだった。
「なっ……なぜ?」
急に体の自由が奪われ、動けなくなったピリポは必死でもがく。
「これは戦乙女の真剣勝負だってのに、余計な水を刺してくれるね。つくづく無粋な男だこと」
カムラ・カユルは小さなため息をつく。
「とはいえ、チャンスはチャンスだ。ピリポ!覚悟しな!」
カムラ・カユルはピリポの心臓に狙いを定める。
もうだめだ……体の自由が利かない……このまま私は殺されてしまうのかとピリポが観念しかけたその時だった。
――――――――――――――― 大丈夫だよ。ピリポ。
頭の中にフィンの声が聞こえる。
――――――――――――――― 信じて……ピリポ。僕らは女神の剣と鞘。僕らの中には邪悪なものを討ち滅ぼす力があるんだ。
「フィン……?」
カムラ・カユルがピリポを刺し貫こうとしたまさにその時、青く透明な四角錐の結界がピリポを守った。
「うっ!」
カムラ・カユルは結界に弾き飛ばされ、イズニーは舌打ちをする。
彼女の手に握られていた鞘は、弾き飛ばされた衝撃で彼女の手から離れ、ピリポのいる結界の中に落ちた。
「この結界は……」
ピリポを包んでいたそれに彼女は見覚えがあった。
クー・ククルがフィンを守った時に張ったあの結界。
――――――――――――――― 大丈夫って言ったろ?僕は君の鞘だもの。僕は抜き身の君を守る鞘なんだよ。
ピリポの目の前には微笑むフィンの姿があった。
「フィン……生きて……?」
しかし、フィンは困ったような顔で首を横に振る。
よく見るとフィンの姿は半透明で、その体の向こうには愕然と立ちすくむカムラ・カユルの姿が見えた。
これはフィンの思念体。やはりフィンはあの時死んだのだとピリポは確信した。
――――――――――――――― 体はなくても僕は自由だし、君と一緒に居られるよ。
フィンがそう言うと同時に、ピリポの手の中にフィンの鞘が現れた。
「フィン……」
――――――――――――――― 今のピリポならカムラ・カユルになんか負けないよ!大丈夫。自分の力を信じて。
結界が消え、ピリポの体の自由が戻る。
ピリポは鞘を腰の飾り紐にしっかりと結わえた。
今度こそ、離れないように。
「カムラ・カユル……私はお前になんか負けない!」
「それでこそ白薔薇だ。いいともさ!決着をつけようじゃないの!」
カムラ・カユルは満足そうに笑った。
「イズニー!今度こそ邪魔するんじゃないよ!この戦いにはあたしらネッカラの誇りがかかってんだ!」
「好きにするがいいさ。お前が勝てばいいことだ。負けた時はそれまでだ」
イズニーは諦めたような顔をした。




