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The Legend of Dadegea 第2部 亡国の雪  作者: 鷹見咲実
第3章 汚名
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14.「信頼と犠牲」

 ●【14.「信頼と犠牲」】


「さあお行き、シャーロッテ。フィンを殺して鞘を取り出せ」


 カムラ・カユルがシャーロッテに命じると、シャーロッテはフィンにじりじりと近づいて来た。

 その手に握られているのはピリポを傷つけた鋭いナイフ。まだ、ピリポの青い血がついたままだ。


「フィン、下がって!私がやる」


 ピリポはフィンの前に出て剣を構えた。


「だめだ、ピリポ!」


 フィンはピリポの肩に手をかけ、ぐいと引き戻す。


「なぜ?あの子とは戦うしか方法がない」

「それでもダメだよピリポ!」


 フィンは何度も首を横に振る。


「シャーロッテは僕の大事な友達だ。傷つけることはできない!」

「わかってるよそんなこと!でも、このままじゃ埒があかない」

「でもだめ!」

「フィン!」

「大丈夫だから。僕は大丈夫だから!」


 フィンはピリポを下がらせると、シャーロッテの正面に立った。


「シャーロッテ。ごめん……僕のせいでこんなことに巻き込んじゃって……ほんとうに……ごめん」


 シャーロッテの瞳には光がない。

 彼女にかけられた術は深く、簡単に解けそうにはないことはフィンにもよくわかった。

 シャーロッテを救う方法は一つしかなかった。

 そして、それはピリポを深く悲しませるだろう。


 だが、ピリポは強い。

 フィンは考える。

 自分の中にある鞘を、ピリポはちゃんと守ってくれる。

 自分でもおかしいと思うほど自信があった。


「ごめんね。シャーロッテ……僕が君に出来ることはこれしかない」


 フィンはシャーロッテのそばに近づき、両手を広げ、目を閉じた。


「何やってるんだ!フィン!」


 ピリポが絶叫する。


「いいんだ。これで……ピリポ、僕はピリポを信じてるから」


 振り返ったフィンは微笑んでいた。


「フィン!」

「大丈夫。きっとうまくいくよ。僕はピリポを信じてるからさ、絶対大丈夫な気がしてるんだ」

「フィン……何言ってんのよ!危ないから早くそこから逃げて」


 そうしている間にも、シャーロッテはのろのろとした足取りでフィンにゆっくり近づいてくる。

 ピリポはフィンを守ろうと、フィンの側に近寄ろうとする。


「来ないで!ピリポ!」

「だって!」

「いいから、ピリポはそこにいて!」


 フィンの表情は今まで見たことも無いほど厳しかった。

 しかし、その瞳には強い意思の色が浮かぶ。

 ピリポはその気迫に押されて動くことができなかった。


「フィン!」


 ピリポの叫びと同時に、シャーロッテが持ったナイフがフィンの胸を深々と刺す。


「いやぁーっ!」


 その瞬間、ピリポは悲痛な叫びをあげた。


 彼女の目に映ったのは、一番見たく無い光景だった。

 フィンは突進してきたシャーロッテの体を受け入れるようにぎゅっと抱きしめ、そのまま崩れ落ちる。

 体の力が抜け、膝をついても、それでもシャーロッテの体を離そうとしなかった。


 しばらくの沈黙の後、フィンの腕は力なくシャーロッテの体から離れ、彼はその場に倒れた。

 同時に、シャーロッテの目に光が戻る。


「……フィン?……これは……どういうこと……」


 正気に戻った彼女が見たのは、自分の足元に倒れるフィンと、自分の手に握られた血まみれのナイフ。

 何が起こったのか?

 あの、宿屋でカムラ・カユルと名乗るネッカラ族の女に何かを飲まされて以降の記憶が彼女にはなかった。


「フィン?どうしてこんなところにフィンが倒れてるの……なんで……私はこんなことに?」


 呆然とするシャーロッテを駆けつけてきたピリポが突き飛ばす。


「フィン!フィン!しっかりして!なんでこんなバカなことを!」


 しかし、フィンの目は閉じたままで、体の力は完全に抜けきっていた。


「いやだ!フィン!目を開けてよっ!」


 しかし、フィンは反応しない。


「どういうこと……?一体何が起こっているの?」


 シャーロッテは状況が把握できずに混乱している。

 ピリポはカムラ・カユルに向かって叫んだ。


「私はあんただけは絶対に許さない!」

「何とでも言うがいいさ……フィンは死んだ。鞘は間もなく現れる」


 カムラ・カユルは満足そうな笑い声をあげ、ピリポはフィンの体を抱えたまま彼女を睨みつける。


「ほら!もう鞘が現れるよ!」


 カムラ・カユルが言い放つと同時に、フィンの体が白い光に包まれた。


「フィン?」


 ピリポの腕の中からフィンの重みが消え、白い光は空に向かって浮かび上がる。

 そして、光の中から細長く銀色の物体が現れた。


「あれこそが契約の剣の鞘!あれはあたしのものだ!」


 ゆっくりと落下してくる鞘を掴もうとカムラ・カユルは腕を伸ばす。


「だめだ!それは渡さない!」


 ピリポも腕を伸ばすが、一瞬遅かった。

 鞘はカムラ・カユルの手に握られた。


「とうとう女神の剣の鞘を手に入れた!あとはお前だけだ!ピリポ!」


 カムラ・カユルは勝ち誇ったように笑ったのだった。


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