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六花立花巫女日記  作者: あんころもち
9日目、私は身勝手なのです
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私は強くなる④



 結局、ライゼさんが笑いながら私の説明をしました。この人の弟子で良いのか迷ってしまってますよ、私。


「そうだったのです……ね」


 アンネさんが驚いています。私が一番驚いてます。


「リッカさま。気にしすぎないでください」


 アリスさん、でも、これは恥ずかしすぎます。


 今までの行為が全部脳裏を駆け巡っています。あぁ、後輩ちゃんとかがあんなに色めき立ってたのって……? もう混乱していて、何が何やら……。


「今まで通りのリッカさまで居てください。私は、そうあってほしいです」


 アリスさんが優しくそう言ってくれます。


 チラっと顔を上げると、アリスさんは優しい顔で私を見ていました。


「リッカさま。今までと、変わりません。リッカさまが自覚したとしても、あのまま自覚しなかったとしても、リッカさまはきっと、今までと変わらず皆様と接します。リッカさまは優しく、慈愛に満ちた方です。容姿に関わらず、注目は受けていました」


 アリスさんが私を撫でながら、説得してくれます。


「どうかお気になさらず、今まで通りでいてください」


 ……やっぱり、アリスさんには敵いません。アリスさんに言われると、それでいいって思えます。


「ただ、少しだけ。男性の方に対しては気をつけてください。リッカさまがいつ何時襲われるか分かりません」


 男は、狼。母もよく言ってました。それは気をつけてます。


 でも、私に手を出す人なんてもう居ないでしょう。なんせ、血まみれ怪力剣士娘ですからね。ふふふふ……。


 私はいいとして、男の問題は――。


「うん……でもそれはアリスさんが気をつけてね?」


 私は、男だからって負けません。


 素手なら、ライゼさんにも勝てます。なんせ 血 ま み れ 怪 力 剣 士 娘 ですから、ねぇ? お 師 匠 様。


「剣士娘、俺を笑い殺す気か?」


 ライゼさんがアンネさんの横で笑いを堪えながら突っ伏しています。


「それは心配しなくていいんです。だって、リッカさまが守ってくれますから」


 アリスさんが信頼してくれています。


 そうです、いつもと変わりません。だって、私はただアリスさんのために――。


「うん、絶対守る」


 真剣な顔で私は宣言します。


 アリスさんを守ることだけ注意すればいいんです。


 ただ、ですね。


 確かに恥ずかしいとは思いました。自分の容姿について初めて知って、驚きました。


 でも一番は、アリスさんが私をあんな風に評していたことです。


 ……私も、初めてアリスさんを見たときあんな感じでしたね。同じことを、あの時思っていたのでしょうか。


 そうだったら、それは……嬉しい、ですね。

 

「……巫女っ娘の言葉は、対剣士娘専用最終魔法か?」


 ライゼさんがそうしみじみつぶやきます。否定はしません。でも対私っていうのは語弊が生まれます。


「ライゼ様。お戯れはそこまでです。まったく……戦いのときはあんなにも真摯ですのに……普段はこんなに軟派で……」


 アンネさんがライゼさんの評価を述べます。


 そういえば……。


「アンネさん。信頼できるもう一人って、ライゼさんなんですか?」

「――リ、リツカ様それは!?」


 私たちの変わりに遣わされた選任って、ライゼさんですよね。


 どうしたのでしょう。アンネさんがうろたえてます。


「ん? なんだ剣士娘。そんな話しらんぞ」


 ライゼさんが何のことか分からずに考え込みました。あれ? 違うんですかね。


「私たちが『感染者』の診察する時にあった依頼を、信頼できるもう一人に回したって、それってライゼさんなんじゃ」


 私がそう言うと、アンネさんとライゼさんが固まります。


「アンネちゃん……そりゃあ、どういう」


 ライゼさんが少しどぎまぎしながら、質問しています。


 おや、これは私、反撃のチャンスでは? 父と母の夫婦漫才もこんな感じでいつも始まっていました。


 さっきの仕返しをしましょう。


「リッカさま、ほどほどにですよ?」


 アリスさんには私がこれから行おうとしていることがバレてしまいました。


 でも止めないあたり、アリスさんも反対ではないようです。


「……そのままの意味です。信頼している選任が居るという話です」


 アンネさんが少し頬を染め、認めます。


 母はこんな時、逆切れのようになってましたから。アンネさんのほうが大人ですね。攻めにくい。


「そ、そりゃあ、嬉しいが……俺は初耳だぞ」


 てっきり女好きの軟派男かと思いましたけど、アンネさんに対しては本気のようですね。


 ……私たちとお茶しようとした当たり、軟派なのは変わりないでしょうけど。


「ライゼさんとアンネさんってどういう風に出会ったんですか?」


 相手の防御が固いときはまずは落ち着くことです。無理に攻めては、より相手が防御を固めます。


「……」


 戦いを知っているライゼさんは当然黙ります。


 すでに私が仕返しをしていることに気づいているでしょう。でも、アンネさんはどうでしょうかねぇ?


「数年前の選任選出の際にお会いしました。あの時はまだ、なぜこんなにもマリスタザリアが発生するのか、何もわからないときでしたから」


 アンネさんには悪いですけど、ライゼさんへの仕返しのためです。


「やっぱり、さっきみたいに口説かれたんですか?」


 ライゼさんは黙ったままですが、黙れば黙るほど、アンネさんから話が出てきます。


「いえ、あの時はライゼ様も真面目でした。対策をとろうにも、まず目の前の敵が倒せないのです。その際ライゼ様一人で奮闘してくれました」


 ライゼさんが居なければ、王国は危険だったでしょう。


 この国の英雄はライゼさんで間違いありません。


 ですけど、それとこれから行うことは別です。ライゼさん、せいぜい悶絶してください。


「では」


 ライゼさんを見つつ、一言。


「その時に、アンネさんはライゼさんに恋をしたんですか?」


 二人が固まります。そして、お互いを見て――。


「……」

「~~~~」


 頬を染め、微妙な空気が流れ始めました。


 私を自由にした。敗因はそれだけですよ。ライゼさん。


「剣士娘……」


 ライゼさんが恨めしそうに私を見ます。


「まぁ、そう見ないでください。お互いの気持ちが分かってよかったじゃないですか」


 何より、私で遊んだ罰です。


「こんなに根に持つヤツだったとはな……」


 出会って数回のライゼさんには分からないでしょうけど、私は元から結構――やる時はやります。


「言ったはずですよ、ライゼさん。リッカさまは偶に少女のようになると」


 アリスさんからあの時の評価が出ます。思い出して顔を覆ってしまいます。


「リッカさま? どうしてまた顔を……」


 私は、結構やります。でも、アリスさんにはどうしても、勝てない。


「よくやった、巫女っ娘」


 カカカ、と力はありませんが、それでも痛快といった風にライゼさんが笑っています。


 また、引き分けですか。


「はぁ……皆様、そろそろお戯れはやめにしましょう。本日の依頼の話です」


 アンネさんからの静止で、その場は終わります。


 依頼と言う言葉に緊張感が生まれます。この辺りは、分別があります。


「では、依頼は三件です。うち一件はすでに一チームが先行しております。ですから、三人には残り二件を解決していただき、もし先行したチームに不備がありましたら、援護をお願いします」


 いよいよ、本番の様です。更に気を引き締めます。


「一件目はここから東に四キロの草原、二件目は西に七キロの町です。先行チームが行っている三件目は北東に六キロの港です。三件目に近いのは東ルートです」


 私とアリスさん、ライゼさんの分け方で決まりですけど――どちらにいくかですね。


「ライゼさん、どっちに行きますか」


 腕を考えれば、ライゼさんが東にいくのが一番でしょうけど。


「俺が西に行く。俺は足が速ぇからな。あんさんらが東に行くべきだ。連携すれば一瞬だろう。その足で北東に向え」


 なるほど。理に適っています。


「なぁに、あんさんらがつく頃には俺も近くにおるさ」


 すごい自信ですけど、それで問題ないと思えるくらい、すでにライゼさんは気を練り上げています。


「決まりましたか。ではよろしくお願いします」


 アンネさんのお願いを受け、行動を開始します。



「あんさんの剣と弟子の話は帰ってからだ。いいな」


 ライゼさんがギルドを出るまでの道で言います。


「はい、お願いします。まずは任務に集中します」


 気を抜ける相手ではありません。相手は確実に強くなっています。


 それが、自然的なのか魔王によるものかは、まだ分かりませんけれど。


「あぁ、それでいい。あんさんらなら問題ないだろうが、気ぃつけろ」


 ライゼさんに先ほどまでの軟派な雰囲気はなく、すでに剣士のものでした。


「はい。ライゼさんも」


 アリスさんが気遣います。


「巫女っ娘は剣士娘の心配だけしろ。そいつ防御が薄いだろ。巫女っ娘が守るしかねぇぞ」


 やっぱりバレてますね。


「どうして……」

「詳しい話は帰ってからついでにしてやる。じゃあいくぞ」


 驚愕するアリスさんの質問には答えず、ライゼさんは視線を西に向けました。


 ギルドを出て別々の方へ走ります。私たちは東門、ライゼさんは西門。です。


 

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