私は強くなる③
A,C, 27/03/04
王国に帰ってきて、ギルドにいきましたが、今日はもう遅いから。と、いうことで。
今日向かいます。
何故疲れているのかと申しますと、走る距離を少し増やした上に、魔力運用も頑張ってみましたら、何と疲労が二倍以上襲い掛かってきまして、ね。
アリスさんに「めっ」と怒られて、気力は回復済みなのですけど。
ギルドではすでに多くの人がいました。ギルド本部の端、冒険者組合の受付に向かいます。
「よぉ、おはようさん」
すでに来ていたライゼさんが声をかけてきます。
「「おはようございます」」
二人でお辞儀をし、受付をすませます。
「今日の予定聞いてもいいか?」
ライゼさんが質問してきます。質問の意図はわかります、けど。
「……今日はギルドの依頼がなければ、悪意の診察と宿のお手伝いです」
どうしても、昨日のヤラシイ顔を見てしまうと、疑ってしまうのです。
アリスさんとライゼさんの間に入ろうと体を動かします。けど、なぜかアリスさんと肩がぶつかってしまいました。
「ん?」
「?」
お互い顔を見合わせてしまいます。
「まぁ……手は出さんと言ったが、お茶くらいはだな……。悪意の診察、か。アンネちゃんから『感染者』の話は聞いてはいたが」
前半不穏なことを聞きました、やはり注意せねば。
ライゼさんが思案しています。
「俺も受けておくか。やってくれ」
そういって掌を見せてきます。そのままクイッと上げれば、挑発の仕草ですね。
「――悪意は感じませんけど、一応一発いっておきますか」
私がそう言いながら腕まくりをします。
「ま、まて。殴りそうな勢いなのはなんでだ」
ライゼさんの困惑も尤もでしょう。
「私の魔法は未熟なので、体から離れる魔法を満足に扱えません。ですから、殴ります」
魔法を発動しようと魔力を練り上げます。
「い、いや、やっぱりやめておく。知っとるぞ。あんさん化けもんを投げたんだろう」
牧場の人が話したんでしょうか。それとも、うわさになってるの?
「な、なんでそれを……」
魔力を練り上げるのを中止し、困惑を伝えます。
「噂になっとるぞ。赤い巫女は自分より遥かに大きい化けもんを軽々投げ飛ばすってな」
赤い巫女の赤には血まみれも含まれてそうで不穏な上に……そんな、噂が?
「あ、あれは相手の力使ってるから、私は力持ちってわけじゃないんですよ!?」
私は恥ずかしさでおろおろとします。
そういえば、なんか周りの視線が……。なんか恐れられて、る!?
「あんさんの世界にはそんなんもあるのか。興味がつきんな。後で教えてくれ」
「そ、それは構いませんけど」
剣術家だからか、私の体術に興味があるようです。目が変わりました。今の状況でそんな目をしないでください。選任でも有名っぽい貴方がそんな態度を取ると、どんどん悪化して……。
私の意識は今それどころではありません。
「あれは、衝撃的でした」
アリスさんまでも困ったように笑いながら思い出しているのです。
「う、うぅぅぅぅ」
私はついに、呻きながらその場に座り込んでしまいました。
「リ、リッカさま、大丈夫ですよ。皆さんきっと分かってくれます」
アリスさんが慰めてくれますけど、私はロビーの隅で膝を抱えて小さくなってしまうのです。
「……戦っとる時はあんなにも凛々しいってのに、普段はこんなんなんか?」
ライゼさんがまた失礼なことをいいます。そんなんだからアンネさんに相手されないんですよ。
「……俺にはわかる。この剣士娘、今思っちゃいかんことを思っとる」
訂正なんかしませんよ。
「それがいいんです。普段はこんなに可愛いんですよ!」
アリスさんが熱弁しますが、それは私を更に小さくさせます。
先ほどとは、別の理由で。ですが。
「あ、あれ? リッカさま!?」
私はアリスさんには勝てません。全戦全敗です。
「……巫女っ娘も、無自覚か」
アリスさんが無自覚なのは否定しませんが。も、とはなんです。も、とは。
「あんさんも無自覚だよ、剣士娘」
何平気な顔して心読んでるんですか、神さまですかあなた。
「……はぁ、剣士娘。あんさん、自分のことどう思ってる」
ん?
「容姿の話だ」
ライゼさんが呆れたように言うものだから、私は顔を上げます。
「容姿? 普通ではあると思いますよ。この国では珍しい顔ですけど」
自分の顔を触りながら応えます。
「あんさんの世界ではどうだった」
質問の意図がよくわかりませんね。
「普通な顔だったんじゃないですか?」
自分の容姿に興味持つ年齢の時には、森馬鹿でしたからね。よく分かってないのが現状です。
私が考えてる様がもどかしかったのか、ライゼさんはため息を吐きました。
「……巫女っ娘。あんさんから見て、剣士娘はどう見える」
なぜアリスさんにそんなこと聞くんですか。私は思わず、立ち上がります。
「……私から言わないと、いけないのですか」
アリスさんが頬を染め、躊躇します。
ライゼさんそれ以上は私へのダメージが大きいです。そうやってとめようとしましたが、遅かったようです。
「……赤い髪と赤い目が燃えるように綺麗で、それでいて肌が、白く肌理細やか、で――、顔も、きれいでかっこよくて……。偶に見せる少女らしさが可愛い人、です」
アリスさんが頬を真っ赤に染め、最後のほうは消え入りそうになりながらも、私の評価を言ってくれました。
あ、あわ……わわ……。
「あぁ、そうだな。間違いなく美人だろうよ。ほとんどのヤツがそう思うだろう。本人を除いてな」
なんでこんなことに、なっているのです。
「自分の容姿も自覚せんと、無自覚に愛想振りまいとったら、そりゃ注目を浴びる。血まみれで帰ってきた時には俺ですら狼狽したぞ」
大きくため息をつきながらライゼさんが言います。
一体何で私は、こんな公開処刑を受けて…………あぁ、私が自覚がないって話からでしたね。は、はは……。
「極めつけは宿の休憩所だな。今や町の男どもがこぞって行こうとしとるぞ」
あれはアリスさん目当てじゃ――。
「系統の違う美女二人が、この王国でもまだ珍しい、あんな格好で給仕しとったらそうなる」
珍しい? 支配人さん騙しましたね。あとで怒ります。
「巫女っ娘はあんさん限定の無自覚だが。剣士娘、あんさんは本物だ。このまま自覚なしだと、何れ襲われかねん」
まぁ、襲おうものなら、投げられるだろうがな。カカカと面白そうに笑うライゼさん。
そんなにほいほい投げませんよ。自衛はしますけど。
「今後は気ぃつけろ。あんさんに何かあったら巫女っ娘はどうする」
アリスさんを守る、そうですね。自分のことを知ったからと言ってそれが変わるわけでは――。
「ご安心を、リッカさまには指一本触れさせません。私の全てをかけてもお守りします」
アリスさんが、戦いの中で見せるような決意をその瞳に宿します。
その姿がかっこよくて。
先ほど語られた私の評価が、衝撃的で……私はまた、その場に蹲って丸くなってしまうのでした。
「……巫女っ娘の無自覚は治りそうにねぇな」
ライゼさんがそんなことを言いますが、私はこれからどんな顔で街を歩けばいいのか分からなくて、いっぱいいっぱいでした。
「これは一体どういう状況です?」
そうこうしているうちにアンネさんが来ました。
私は蹲ったままで、アリスさんがおろおろと私の傍で心配しています。でもその心配をなくしてあげられそうにありません。
「アンネちゃん、どうだ。これから一緒に剣士娘たちのとこでお茶でも――」
私はもう剣士娘で固定ですか。ロクハナ嬢とか呼ばれるのはムズムズするのでいいですけど。
休憩所、急に働くの嫌になりました。
「はぁ……私はまだ仕事です。ご遠慮します」
アンネさんがため息をつき、じとっとした目でライゼさんを見ます。
「そうか……残念だ」
本当に残念そうにライゼさんが肩を落としました。やけに素直ですね。
「コホン。では昨夜の報告をお聞きします。……リツカ様の現状も教えていただきます」
私のことは、放っておいてください。
ライゼさんは一件の依頼を終わらせ、帰りに寄った町でマリスタザリアに遭遇、そのまま交戦。
私たち合流後、町の防衛に移行、そして私たちが撃破した。
と、昨日の出来事をアンネさんへ報告しました。
その際ライゼさんは、「アンネさんをあそこに連れて行きたい」「ここもよかった今度どうだ」と積極的にアプローチをかけていました。結果としては――。
「間違いありませんか? アルレスィア様、リツカ様」
アンネさんが私たちへ確認をとります。
ライゼさんのアプローチ、全滅。私をイジメタ罰です。
「剣士娘……あんさん……」
ライゼさんに勘付かれてしまいました。全く……お母さんくらい鋭い人ですね。
「はい。町についてからの事だけですけれど。ライゼさんは町を防衛し、リッカさまが撃破しました。相手は熊が変質したマリスタザリアです。肉質が硬く、リッカさまですら一撃での両断は出来ませんでした」
私は本気で振りぬきました、それでも無理だったのです。
「リツカ様でも、一撃では無理とは……」
私、でも。というのが気になってしまいます。怪力娘も追加されてるんですかね。ふふふふ、ふふ……はぁ……。
「分かりました。他への注意喚起を強化いたします。それで……リツカ様は何故そんな風に?」
気にしない方向でお願いできませんか。