私は強くなる②
町民からのお礼もそこそこに、王都への帰路につきます。
「しかし、あんさんらは強いな」
私とアリスさんの後ろを着いて来ているライゼさんが、ぼそりと呟きました。
「その歳でここまで闘えるのはそう居らん。連携も取れとる。敵は居らんだろう」
急に褒められて、照れます。しかしですね。
「……あなたのほうが強いと思いますけれど?」
アリスさんが少し不機嫌に応えます。
私とライゼさんの戦い。理解はしてもらいましたが、納得はしてなかったようです。
「アリスさん、ごめんね?あんなこと言ったのに、勝てなかったよ……」
見ていて。とかっこつけたものの、結果はあの様です。
せっかく送り出してもらえたのに、あれでは……。
「リッカさまが謝ることでは……。それに、真剣に戦うリッカさまを、観客として見たのは初めてです……。かっこよかったです」
アリスさんは笑顔でそう言いました。その言葉に、私は思わず顔を覆ってしまいます。
真っ赤に茹で上がった顔を見られるのは恥ずかしいのです。
「あ、ありがと――」
消え入りそうな声でお礼を言います。
アリスさんは死闘をする私しか知りません。私が戦ってるところを、ただ見るというのはありませんでした。それもあるのでしょう。
怪我はする可能性はありましたけど、死には……しないのですから。
「まぁ……本当にそう思っただけだ、なかなかに強い化けもんだったしな。あんなに早く討伐してくれて助かった。後ろを守りながらじゃ、無茶もできんかったしな」
ライゼさんは町民を守りながら対峙していました。犠牲者がなかったのは、そのお陰です。
「――町民の皆様を守っていただき、ありがとうございます。私たちだけだでしたら、間に合いませんでした」
アリスさんが、少し機嫌を戻し、礼を述べました。
「気にするな、これが仕事だと言ったろ。それに、アンネちゃんにいい土産になる」
そういえばアンネさんと知合いなんでしょうか。
「アンネさんを知ってるんですか?」
失礼ではありますけど、軽そうなこの人とアンネさんが繋がりません。
「おぉ、知っとるぞ。なんせ俺の担当だ。あんな美人そうは居らん。もっと親密になりたいんだが……」
アンネさんを想ってるのか、イヤラシイ顔をしています。
「……」
「……」
私たちからの視線に気づいてるはずですが、構わずに想像し続けています。
「あんさんらも綺麗だがアン」
「アリスさんに」
「リッカさまに手を出したら」
「本気で戦います」
「覚悟していてください」
私は、いつの間にか魔力を放出していたのか、あたりが赤く煌いています。アリスさんも身の危険を感じたのか銀色を纏っていました。
「あ、安心しろ。あんさんらに手を出さんとギルドで言ったろ。何より”巫女”に手を出すほど身の程知らずじゃねぇ」
それなら、いいですけど。警戒は解きませんよ。
「一気に好感度下がった気がするが、まぁいい。ロクハナ嬢よ。ほれ」
そう言って私に剣を差し出します。
「いいんですか?」
剣は剣士にとっては魂です。私の剣も集落皆の想いがつまっています。
「構わん、あんさんにならな」
よほど同じ剣士にあったのが嬉しいのか、信用されています。
「ありがとうございます」
そういって、慎重に鞘から抜きました。
刀身は厚いものの、研ぎ澄まされ、切れ味が確かにあるのを感じます。重厚、ですね。私には重く感じます。強度も高いです。
この大きさを振るのは”強化”魔法必須ですけど、切れ味があって尚且つ重みがある分、むしろ消耗は圧倒的に抑えられるでしょう。
なにより――。
「綺麗な刀身です。刀に、近い」
これなら、後は片刃にして柄の部分を木刀にするだけで。
「どうだ、気に入ったか」
ニヤニヤと私を見てきます。その顔はムカつきますが、気に入ったのは確かです。
「お願いが、あります」
とにかくお願いしましょう。武器が、必要です。今回の敵は刃が通りにくかった。次は、もう……時間がありません。
「いいぞ」
「私に剣――え」
私は思わずきょとんとします。
「いいと言った。作ってやる」
いいのでしょうか。
「ただし、礼はもらうぞ」
ですよね、しかし私自身のお金がありません。ローンとか、ダメでしょうか。
「そうだな、金はギルドので十分だからな」
そう言って私をじっと見ます。なんだろう。肉体労働でしょうか。
「……ライゼさん? 何を考えているか知りませんけれど、それ以上言うと」
アリスさんは何かを感じ取ったようで、ライゼさんを牽制しています。
「いや、だから手はださんて。……”巫女”は落ち着いた威厳のある聖人のような少女と聞いていたんだが……これはただの友達思いの少女だな。いや友達思いというより」
「ラ イ ゼ さ ん」
なんでしょう、二人で話してますが……。
「ロクハナ嬢。どうだ、俺の弟子にならんか」
ん? 剣の代金と弟子、どんな関係が? 弟子になれるのは、嬉しいですけど。正直、それも頼もうと思っていましたから。
「今まさに世界が注目する異世界からの”巫女”が俺の弟子になったとなれば、少しは剣術の注目度もあがるだろう」
ああ、そういうことですか。支配人さんと似た理由ですね。
「注目されれば、剣術の有用性も知られる。なんせ”巫女”が化けもんと戦うときに使ってんだからな」
支配人さんとは違うようですね。
「多くの戦う人に剣術知ってもらうことで、犠牲者を減らせるかもしれない。ってことですか」
「そういうことだ。まぁ、有名になりたいっていうのもあるが」
戦う術さえ整えることができれば、蹂躙されるだけの人が生き残ることができるかもしれない。気高き理想です。手伝いたいと、純粋に思います。
それでも、剣の代金には程遠いような。
「なぁに、あんさんの守りたいって想いに中てられただけだ」
――そういう、ことなら……。
「ありがとう、ございます。よろしくお願いします」
そういって、今持っているライゼさんの剣を見ます。
これで、戦う力が整います。守る力、あとは――私自身です。アリスさんを守りきる。そのための力を、身に着けなければ。
「巫女様も良かったな。あんなに想ってもらえて」
「はい。私は幸せです。ですけど……」
「どうした」
「……私、のせいで……リッカさまは」
「詳しくは知らんが、あまり思いつめるな。そんなことロクハナ嬢は望んじゃ居らん」
「わかってっ……います。私には、そんな資格すら――」
「そういうんじゃねぇんだが。まぁ、自分で気づくしかあるめぇよ」
「二人ともどうしたの? 内緒話? ――ライゼさん、まさかアリスさんを口説いてたんじゃ」
「あんさんらは俺を勘違いしとるぞ……?」
ギルドについたときすでに、今日が終わりそうでした。
三人目です。
師匠キャラは必須。
魅力のあるキャラになるようにしたいです。