表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六花立花巫女日記  作者: あんころもち
8日目、剣士としての誇りなのです?
94/934

私は強くなる

 


 剣術師範で鍛冶師。私は、この出会いをモノにしなければいけません。


「大変、失礼かと思いますけれど……どのような剣をお使いなのですか?」


 この人は私をずっと見ていました。武器屋のときも、広場での素振りも。つまり私が欲しい武器の特徴を知っているのです。


 よく切れる、刀。それを知って、鍛治師であることを名乗りました。


 出会ってまだ、数回。それでもこの人なら冷やかしではないと、思うのです。


 マリスタザリアとの戦闘は命がけです。選任とはいえ、ただの冒険者ならば避けるでしょう。


 それを、町民から頼まれたわけでもないのに率先して行う。悪い人ではないと、思ってしまいます。


「それは構わんが、剣士娘。俺と戦ってみんか」


 悪い人ではないでしょう。ですけどその目は剣士のものであり、自分の力を試したい、そんな戦う男の目です。


「……理由もなく、人と戦えません」


 理由はあるのでしょうけど、聞かないとわかりません。


「尤もだ。……そこの御仁。この角材もらってもいいか?」

「ああ、好きにして下さい。ライゼ様」


 そう言って角材を削り始めました。ライゼ様……知り合いなのでしょうか。それとも、有名な方なのでしょうか。


 ライゼさんは、自分の持つ剣……大太刀のような長さのそれで、角材を斬っていきます。


 その切れ味は、私が求めているものに限りなく近いものです。


 刀身は両刃。長さは百四十センチ前後、私の身長より少し短いくらいです。


 強度は、触ってみないと分かりません。ですけど、あの技術で刀を作ってもらえれば……。


 そうこうしているうちに、一本の木剣が出来ていました。


「よし。理由だったな。俺が()()だからだ」


 どういうことでしょう。やはり自分の力量を確かめたいということですかね。


「あんさんも剣士だろう」


 だから戦えということでしょうか。


 しかし私は自分の力を確かめたいとは思っていません。私にとっての剣術は守るための手段でしかないのですから。


「それだ、ロクハナ嬢よ」


 ギラリと、切れ長の目が私に向きます。ロクハナ嬢、って……。


「この世界に、剣士はいない」


 ? 目の前に……。


 ライゼさんは私の心を読むかのように続けます。


「そうだ、俺だけだ。俺の流派だけなんだ」


 しかし、戦う人は誰しも剣をもっています。どういうことだろうと思案していると、ライゼさんは自嘲気味に笑い始めました。


「この世界は、魔法が全てだ。剣なんてのは魔法での戦いを補助するためのもんにすぎん。だから、剣術なんてもんはなく、流派なんてもんもない。剣士なんて呼ぼうもんなら、皆鼻で笑うぞ?」


 カカカと、笑っていますけれど、豪快さはありません。


「だがな、あんさんは笑わん。笑わんどころか、その目に光を灯し、俺を睨み返してきた」


 ――。ここに至り、私は理解します。


 初めて出会った、自分の剣を笑わない相手、それが私なのです。剣士とは、そういう意味。


「俺を鼻で笑ったやつらは死んでいったよ。あの化けもんは魔法だけで戦うには強すぎるからな」


 その声音は、死んでいった人を馬鹿にするものでは決してなく……悲しいと、悔しいと、そういった思いが入り混じった声。戦友を失った者だけが放つ、戦士の嘆きです。


「あんさん、王国で言ってたな。斬れる剣が欲しいと」


 その目は、私を見据えています。


「俺は言ったな、あんさんは自分を良く知ってると。魔法だけではなく、道具と自分自身を鍛え、相手を倒すために最善を尽くす。恐らくあんさんの世界ではそれが普通なんだろう」


 その目は、私を認めています。


「この世界でも体を鍛える奴はいる。剣を振るためだけにな。だが、剣を鍛えん。術も学ばん」


 その目は、怒りすら灯しています。


「そんな奴らが、守るだなんだと言う。おかしな話だ」


 未熟では守れない。


「あんさんは違うな。守るために必要なもんを知っとる」


 もう、戦わないという選択肢はないでしょう。


「俺は確かめたい、この世界での剣術はあんさんの剣術にどこまで出来るかを」


 木剣を私に突き付け、ライゼさんは言いました。


「確かめる。俺とあんさんは、守りたいもんを守れるのかを」


 私も、木刀を出します。


「これが終わったら、俺の剣を見せてやるし。あんさんの剣の注文も受けよう」


 私たちは構えます。


 私はアリスさんに一言、告げます。


「ごめんね、アリスさん。この人とは……戦わないといけない」


 私は守るための戦いをしています。だけど、確かめたい。私はこの人に……この世界で唯一の剣豪にどこまで出来るかを。


 ここで、負けるようでは……守れないっ!!


「……分かって、おります。リッカさま……。ですけど、無茶だけはしないでください」


 アリスさんが我慢してくれます。本当は、嫌だという事はわかっています。人が傷つく様を見るのを嫌っているアリスさんなら……止めたい事を。


 でも、私は――。


「ありがとう、アリスさん。しっかり、見てて。私が守れるかを!」

「――はい、リッカさま」


 アリスさんを守るためにとった剣を――アリスさんに見て欲しいから。


 

「魔法はなしだ。いいか?」

「もちろんです。全力でいきます」


 当然でしょう。これは剣士としての戦いなのですから。


 私が始めて行う。意地のための戦い。負けてはいけない。負けては折れてしまう。

 ――本気です。


「いい闘気だ、ほんのちょっとの()()を、守るという決意で包み込む。いい心理状況だ」


 私の、心を見てきます。


 少し、動揺します。もし開始を告げられていたらそのまま負けていたでしょう。


 運に助けられた。その思いがより、私を醒まします。


「あなたの心は、私には読めないけど……私より数段強いのはわかります」


 強い想いで作り上げられた剣術。そしてそれを使うこの人は、私より絶対強い。でも、想いだけは負けない。


「剣術は……未熟で、勝てないだろうけど。想いでは負けない。私はこの世界での闘いに、遊びで参加してるわけじゃない」


 言葉にして、自分を鼓舞する。魔法が発動する訳でありませんけど、言葉には力があります。


「あぁ、そうだ。戦いは命がけだ。やれることは全部やらんとな。――いくぞ」


 ライゼさんは手に持った枝を上へ投げました。


 落ちたら開始。です。

 


 ――――カラン。


「―――!!」


 相手の突進、上段からの振り下ろし。


「――シッ!!」


 いなすように剣の横を弾き、その勢いのまま相手の肩口への、袈裟への回転切り。避ける、受け止める、弾くどれが――。


「甘ぇ!!」


 相手も私を軸にするかのように回転し、私の胴への――。


「――っ」


 攻撃中止、木刀を立てて、受け止めいなし距離を取――!?


「つ――っ……」


 ガッという音と共に私は弾き飛ばされました。


「ふぅ……」


 ライゼさんが一息つきます。


「――。ハァっ……はっ……」


 私は、すでに呼吸が乱れかけます。腕も、少し痺れています。


 上段からの振り下ろしも、胴への横薙ぎも……どれも、私のより早く、そしてキレがありました。


 なにより、あの時の回転。この人……。


「……どの世界でも行き着くとこは同じか」


 相手が化け物であるマリスタザリアである以上……。


「自分より、でけぇヤツ。硬ぇヤツ相手には、これだな」


 この人は、私と同じで回転して斬る。しかも、私よりキレがよく、早く、重い。私のが舞なら、ライゼさんは、武術。独学気味の回転切りでは到達できない、領域です。


「あんさんも回って斬るが、そりゃ独学だろう」


 流石に達人にはすぐバレます。でも、ライゼさんが創始者なら、独学って言えなくもないんじゃ――。


「今までの化けもん相手なら、問題ないだろうが……俺には通用せん。何より――」


 言いたいことは、わかります。


「これから先、マリスタザリアが本能の赴くままとは限らない。ですか」


 すでに、言葉を発する敵がいました。


 剣を理解し、相手を理解し、戦いを冷静に見切れる敵が出ないとは限らない。


「そういうことだ、あんさんが未熟なのはよう分かった。しかし、あんさんの世界がどうかは知らんが、同年代では敵なしだったろう」


 実際に大会へ出たことはないですけど、六歳を越える頃には、道場では負けなしでした。


「俺の攻撃を避けれた奴は、この世界には一人も居らんかった。受け止め、怪我をせんかったヤツも。()()()()()ですら、な」


 まぁ、アイツは馬鹿だからしかたねぇか。そう言ってカカカ、と豪快に笑います。


「弟子、一応いたんですね」 


 流派を名乗り師範でした。一応可能性は感じましたけど……。


「ああ、今はどっかいったがな。馬鹿だから。アイツ」


 そう言うライゼさんの顔は親の顔でした。


「続きを、と思ったが、そろそろ帰らんといかんな。アンネちゃんも待っとるだろう」


 勝敗は有耶無耶。ではないですね。私は、負け――。


「勝負は引き分けだな。どっちが勝つかなんて、最後までわからん」


 ――助けられ、ましたかね。


「……ありがとうございました」


 私は礼をしました。


「ああ、ありがとうよ。ロクハナ嬢」

  


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ